25話
「それは……」ヌシがやがて、ぽつ、と言った。
「住み慣れた土地を手放したくない、という思いにとらわれて、山を敬う心を喪いかけていた我らの浅ましさに比べれば、はるかに崇高で、誇られるべき御意志です」
ヌシは、さっと手を振って、周りを囲んでいた妖達を下がらせると、改めて利玖に向き直った。
「確かに我々は、千堂の狙いが貴女である事を知って近づき、彼を半ば罠にかける形で、貴女と銀箭を接触させようと画策した。
今の銀箭は、我ら土着の妖どもを警戒してか、巧みに水底に身を隠し、一片たりとも居場所を悟らせない。姿も気配も追えぬものを、駆逐する事など出来ぬ。だが、彼とて生きもの、血肉の縛りからは逃れられぬ身。
ヌシは両膝の横に拳を付き、地に額を押しつけるようにして深い礼をした。
「卑怯は重々承知。だが、出来うる限りの助力はする。我らは決して、ヒトを
「礼とは?」美蕗が訊く。
「
その途端、妖達の間から、どっとどよめきが起こった。
利玖には耳慣れない響きだった。何かの鉱石だろうか、と察しはつくが、今は《とほつみの道》全体にただならぬ喧噪が渦巻いていて、美蕗にも史岐にも質問を出来るような空気ではない。
長い時間がかかって、妖達の動揺がようやく鎮まってきた頃、美蕗が再び口を開いた。
「どうか、失礼とはお取りにならないでくださいね。ヌシ殿のお力を考えれば、蛉籃石を作るというのは決して容易な事ではないはず。本当に、そのようなお約束がして頂けるのでしょうか?」
「
「わかりました」美蕗は頷いた。「割って共有させる事は出来ます。私には不要の代物ですから、ここにいる、利玖と史岐に与えましょう。
美蕗の赤い唇が蠱惑的なカーヴを描き、そこにそっと封をするように、たおやかな指先が重なった。
「あくまでもヒトの築いた文明の中で生きる者として、一つ助言を。もしも今後、わたくしども以外の人間や妖から、なぜ佐倉川の兄ではなく妹の方を頼ったのか、と訊かれたら、こうお答えになったらよろしいわ。
あれは銀箭を
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