第5話 提案の受け入れとちょっとした事実

「あ、あの……、ボク達は退学して3日しか経ってないし、その、お金が……」

「お金なら気にしないで。 こういう時の為に、冒険者としての収入で蓄えておいたから。 ミーナちゃんとジャック君の家族も同様よ」

「そうなの?」

「その通りさ、アリスちゃん」


 クレス様からのスカウトは嬉しいけど、ボクとジャック君とミーナは、ワルジールを退学してまだ三日しか休んでいない。

 そのため、学費……つまりお金の問題が浮上するんだけど、お母さんはまだ大丈夫だと言った。

 どうやらミーナの家族もジャック君の家族も同様で、いつでも他の学校に入学できるように学費を蓄えていたようだ。


「それに、我が校には学校内に4つ、学校を構えている町周辺にある4つのダンジョンを冒険者ギルドと共同で管理していてな。 そのダンジョンで敵を倒して得た素材を換金できる制度もあってね。 その換金したお金を学費に回す事も出来る」

「ええっ!? 本当に!?」

「はい。 私もそれを利用して学費を支払ってます。 強くなれますし、アリスさん達ならすぐにお金が溜まりますよ」

「ファナさんも利用してるのか……」

「いち早く冒険者のシステムの一部に触れる事も目的としてるからな」


 そこに、クレス様はエトワール魔法学校における換金制度を設けていると説明してくれた。

 これは、学校や町の周辺に存在しているダンジョン内に潜む敵を倒して得た素材をお金に換金するシステムだそうだ。

 いち早く冒険者のシステムに触れる事が可能なのと、換金したお金の一部を学費に回せるらしい。

 娘のファナさんもその制度を利用しているみたいだ。


「アリス君の母親のイリスからも言っていたが、我が校は君達のようにフリスク政権になってからワルジール魔法学校を退学した生徒たちも我が校で頑張っている。 君達も我が校で頑張って、フリスクの思想を真っ向から否定すべきさ」

「この国では、魔法学校を卒業しないと冒険者にすらなれませんし、悪い話ではないと思います」


 確かにフリスクが校長になってから、制約結界を掛けてまで初期魔力で優劣を付けたがる思想の下で、無能と言われて失禁させられるなどしていじめられた事を考えたら新しい学校で頑張って、フリスクの思想を真っ向から否定できればいいだろう。

 それに、どのみち魔法学校の卒業という学歴がないと冒険者にすらなれないしね。

 そう思いながら、ボクはミーナとジャック君に視線をうつす。

 すると、二人も受け入れようと頷いてくれた。


「分かりました。 ボクとミーナとジャック君は、あなたの営む魔法学校に入学します」

「よし、では入学の手続きは宿屋を借りてしておこう。 イリス、後で色々情報交換をしたいので、後でマナ通信でセイルを呼んで宿屋に来てくれ」

「ええ、分かったわ。 娘を頼むわね」


 ボク達がクレス様の学校への入学を受け入れる事を伝えると、クレス様はボク達の入学手続きをオルクスの町の宿屋で済ませると言う。

 書類でも持って来てるのだろうか?

 あと、お父さんの名前が出て来たんだけど、どういう事なのだろう?


「あのー」

「アリスさん、どうされました?」

「さっき、お父さんの名前も出てたんですが、お父さんも勇者パーティーの一員だったんですか? お母さんみたいに」


 ボクの様子が気になって顔を覗かせるファナさんをよそにクレス様に聞いてみた。

 すると、クレス様が一瞬固まって、お母さんの方に視線をやった。


「イリス、娘のアリスくんに事実を伝えてないのか?」

「ええ、そうなると色々ややこしくなるし、夫も望んじゃいないからね」

「ああ、成程。 おかしな貴族とかに目を付けられそうだからな……」


 クレス様とお母さんがひそひそしながら何かを話している。

 お父さんに関する事実って、何だろう?


「アリスくん、ここだけの話だがね。 実は君の父親のセイル・パリカールは……」


 クレス様から聞かされた事実の内容にボクは固まるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「それにしても、アリスちゃんのお父さんが当時【勇者】だったなんてね」

「私、すごく驚きましたよ」

「ボクも驚いたよ。 お母さんは教えてくれなかったし」

「まぁ、事実を教えなかった理由を聞いて、納得もしたけどな」


 その日の夜。

 ボクとジャック君とミーナ、そしてファナさんがミーナの家の広間でクレス様から教えてもらった事実について話をしていた。

 まさか、ボクの父のセイン・パリカールが勇者だったなんて……。

 お母さんは、それをボクに教えなかったのは、勇者の娘と知れば、おかしな貴族がこぞってボクにお見合いを突きつけたり、取り込もうとしてくるからだそうだ。

 そして、そこにはボクの自由はないのだと……。


「幸い、王家の方々が勇者の家庭の意思を無視してねじ込むことを禁じ、それを破れば死罪にするという法があるので、アリスさんは暫くは大丈夫でしょう」

「それならいいんだけどね」


 ファナさん曰く、一応王家の方々がパリカール家の意思を無視してねじ込んだりすることを禁じられており、それを破れば死罪という重罪が適用されるという。

 それでも金で捻じ曲げたりしてきそうなんだけどな。


「ともかく、明後日には馬車が来ると思いますので、それに乗って【エトワール魔法学校】がある【ミミルの町】へ向かいます」

「うん。 新しい学校でも頑張らないとね」

「制約結界がないから、アリスさんも実力を発揮できるな」

「私も」


 ファナさん曰く明後日には専用の馬車がくるようなので、それに乗って【ミミルの町】へと向かうようだ。

 明後日から学ぶことになる【エトワール魔法学校】は、その町にあるのだ。

 ここからだと馬車で8時間、ファルランドからだと1日と数時間はかかる場所にある。

 ボクもそうだが、ジャック君とミーナも気合が入っている。


「じゃあ、そろそろ寝ようか」

「そうだな。 俺は実家で寝るよ。 お休み」

「うん、お休みー」


 そろそろ寝る時間なので、ボクとファナさんはミーナの家で寝泊まりし、ジャック君は実家の帽子屋さんに戻った。


 さて、色々あったので精神的に疲れたよ。

 ボクもぐっすり寝よう。 お休みー……。


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