第29話
【竜崎キリヤ視点】
くそくそくそくそ!
あいつのせいだ!
カケルのせいで俺はマスコミから逃げ回っている!
ダンジョンの奥まで走り、ドラゴンと対峙する。
「おりゃああ!鈍いんだよおおおお!」
俺は疾風と斥候のスキルを使ってドラゴンの攻撃を躱してダガーを何度も突きたてる。
「ぎゃははははははは!力だけ!デカいだけ!お前らはただの木偶の坊なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!おりゃおりゃおりゃああああ!」
ドラゴンが倒れて、大きな魔石を落とした。
魔石を持って大穴を出るとマスクをつけて薄手のコートを羽織った。
ホテルに戻ると自販機でペットボトルの水を買い素早く部屋に戻った。
中身を飲み干してゴミ箱に押し込むと、ネットをチェックする。
「へへへへ!カケルは、あいつはカノンのナイト気取りで自分を高める動きをしていない。だが俺は違う!」
ドラゴンの魔石を体に押し付ける。
「ぐうううう!はあ、はあ、また能力値が上がった。俺は、まだ、まだまだ強くなる!強くなれる!」
まだだ、まだ足りない。
あいつがフルフェイスなのは分かっている。
スピードを出して走っても捕まらない、おかしいよなあ。
へへへ、あいつの邪魔をしてやる。
俺は政府や大穴特区に要望のメールを送った。
そして、ネットでは複数アカウントを使ってスピード違反のまずさをばら撒く。
カケルの正体がフルフェイスである事をばら撒く。
テレビの報道にも情報を流す。
カノンは俺の女だ。
そしてカケルは殺す。
俺は大穴を走り続けて魔石を吸収し、力をつける。
そして、カケルがいなくなった瞬間にカノンを手に入れる。
だが、カケルに殴られた時の記憶を思い出して体が震える。
「くそ、手が震える。あいつは、何なんだよ!まだだ、まだ魔石が足りない。もっと走ってもっとドラゴンを倒してもっと力を手に入れてやる!もう、昔の生活はごめんだ!」
俺は小学校の頃、いじめられていた。
「キリヤ!罰ゲームなんだからちゃんとカバンを持てよ!」
ガキ大将が俺にカバンを持たせる。
俺は4つのカバンを持って追いつこうとすると3人が逃げながら笑う。
「おせーよ!」
「早くしろのろまが!」
「ははははは、ふらふらしてもやしだな!」
「待ってよ!待って!ずるいよ!僕だけ負けるようにして何度も罰ゲームをさせてずるいよ!」
「お前が遅いのが悪いんだよ!」
「のろま!のろま!」
俺は毎日罰ゲームとしてかばん持ちをさせられ、突き飛ばされ、転ばされていた。
途中からいじめっ子から逃げ回るようになった。
「待て!逃げるな!」
「もやしが!逃げるな!」
俺は殆ど捕まって友達を裏切った事にされて川沿いの道で投げ技を食らったり、酷い時は川に落とされた。
中学生になっても同じ状況が続いた。
だが、俺がスキルに目覚めると状況は変わった。
疾風を手に入れたのだ。
ガキ大将は俺に近づかなくなり、その代わり靴が隠された。
俺はガキ大将をつけて川に落とした。
「僕の靴を返せ!」
「げぼ!俺じゃない!」
「う、うるさい!お前と同じことをしているだけだ!靴が無くなったら全部お前のせいだ!お前のせいだ!」
俺はガキ大将を川に何度も落とした。
泣いて謝るまで落とした。
その次の日は取り巻きの2人も同じ目に合わせた。
何か隠されるたびに3人に仕返しをすると嫌がらせはピタッと止まった。
そうか、力があれば、いじめられなくて済むのか。
俺は大穴特区のハンター学校でひたすらスキルを磨いた。
先生が引率する大穴探索には出来るだけ参加して魔石を集めた。
鬼のような顔でトレーニングを続ける俺をいじめる者はいなかった。
強くなる為の訓練はつらい。
でも、強くなれば楽になる。
ハンター高校を卒業してすぐに男3人のパーティーに誘われた。
だが、パーティーを組んで1カ月もたたずにダンゴムシの群れに襲われた。
「キリヤが包囲されている!今の内だ!」
俺がターゲットにされている内にみんなが後ろから攻撃して助けてくれる。
そう思った。
ダンゴムシが丸まって回転しながら俺を狙う。
「は、早く倒して!もう持たないよ!」
「逃げるぞ!」
「キリヤが生きている内におとりにして逃げろおおおお!」
「そ、そんな!待ってよ!」
ダンゴムシが俺にタックルして短剣を落とした。
「待って!」
みんなが逃げていく。
「う、うあああああああああああああああああああああ!」
武器を落とし、攻撃手段が無くなった俺は必死で逃げた。
血を流しながら逃げた。
命の危機が迫り、疾風のスキルが強化されていく。
ダンゴムシの攻撃を避ける事が出来るようになっていった。
そして俺は、武器無しで逃げ切った。
俺は3日間大穴で彷徨い地上に出た。
3日間の記憶はないが、寝て起きると斥候のスキルを得ている事に気づいた。
逃げ出した元パーティーが俺にすり寄って来た。
「キリヤ、悪かったな。ああするしかなかったんだ」
「そうだ。 だから、変な事は言わないでくれ」
こいつらはもう、俺を仲間だと思えない。
3人の本性は分かった。
あそこで皆が攻撃していればダンゴムシを全滅させられた。
勝てたのに少しでも危なくなればこいつらは裏切る。
俺は感情を殺して笑顔で対応した。
「仕方ないよ。非常時だったんだ。でも、僕はもう怖くて大穴の奥に行けないんだ。パーティーからは抜けるよ」
3人はほっとした顔をしていた。
だが、俺は嘘をついていた。
3人は許さない。
これから大穴に潜って強くなる。
俺はそれから毎日毎日ソロで大穴に潜った。
斥候で大虫の位置を把握して疾風で素早く大虫を倒す。
何度も大虫を狩って何度も自分を強化した。
にこにこしてたら駄目なんだ。
優しくしてたら駄目だ。
僕、じゃ駄目だ。
強い俺になろう、いや、なるんだ!
しばらく大虫を倒した後、元パーティーの3人をつけた。
奥に潜ったタイミングで後ろからカマキリの群れをぶつけた。
カマキリを押し付けるのは簡単で、カマキリに石を投げて俺を追ってもらい、元パーティーを追い越して素早く走り去るだけで良かった。
「うああああああああああああ!カマキリいいいいいいいいいいいい!」
「何で急に!やめ!うおおおおおお!」
後ろから元パーティーの叫び声が聞こえる。
「は、ははははははははははは!ざまあみろ!死ね!……ち、生き残ったか」
俺はすぐに元パーティーの元に戻ると怒鳴られた。
「カマキリを押し付けたな!」
「ふざけるなよ!」
「おいおいおいおい!お前らと同じことをしただけだぜ!俺をおとりにしたお前らとなあああああああああああああああ!」
「キリヤ?お前本当にキリヤか?」
「あ、あの時はしょうがなかったんだよ!」
「そ、そうだ!ああしなければ全滅していたんだ!」
何を言っている?
後ろから攻撃すれば倒せた。
怖くて逃げただけだろ!?
「もういい、死ね!」
俺は弱った3人にダガーを突き刺して殺した。
罪悪感が少しもない。
心が楽になった。
力があれば何でもできる。
監視カメラの無い大穴の奥でむかつくハンターを殺しても俺がやったとは思われない。
元々危なっかしいパーティーだった。
1度は俺を置いて逃げている。
俺が罪に問われる事はない。
弱い態度じゃ舐められる。
強そうに振舞おう。
俺はすぐに帰って装備を整えた。
真っ黒な装備、真っ黒なダガー、真っ黒なブーツ、まずは形からだ。
態度を変えよう。
強そうに振舞おう。
そして、強くなろう。
ドラゴンを殺す。
目標が出来た。
強くなり、しばらくするとハンター高校から連絡が来た。
斥候のスキルを持った俺に生徒のスキルを見て欲しいと依頼が来た。
そこでカノンと出会った。
だが、強そうな態度で声をかけ、失敗した。
思わず腕を掴んで強引に引き寄せた。
「竜崎、それは駄目だ」
先生に注意されて、それだけで済んだ。
カノンは一目ぼれだった。
昔の俺のように戻って、いや、ダメだ!
舐められるのは無しだ!
今までのように、力でねじ伏せよう。
ベッドで目を閉じるが、昔の事を思い出して眠れない。
いじめられている事を思い出して目を覚ます。
教科書に落書きをされた。
川に落とされた。
投げ技を何度も食らった。
窓を割っていないのに俺のせいにされた!
大穴で置き去りにされた事を思い出して起き上がる。
カケルに殴られた事も思い出して中々眠れない。
「ドラゴンを、狩る。まだだ、まだ足りない。へへへへ、へへへへ!最初は、カノンにしよう。カケルは後だ」
俺はまた大穴に向かった。
竜崎キリヤは几帳面な性格だった。
マスコミに追われ更に睡眠不足に陥った。
眠れなくなったキリヤは狂ったようにドラゴンを狩りに出かけ力をつけ、カケルの嫌がらせを続けチャンスを待ち続けた。
竜崎キリヤの心は黒く、黒く染まっていく。
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