第22話
社長と部長の配信対談を終えて帰ると2人が声をかけてきた。
「カケル、お疲れ様」
リコが俺の手を握った。
「お疲れさまでした」
カノンが俺の背中をさすった。
きゅうが俺の頭に乗る。
スナイプが足にまとわりついた。
みんながやさしい。
みんな配信を見ていて、心配してくれたのか。
体の奥から暖かくなっていくような、
乾いた体が潤っていくような、
自分でうまく言葉に出来ない感覚に戸惑った。
2人と会った時、俺はパーティーを組みたくないと思っていた。
きゅうさえいれば1人でいいと思っていた。
パーティーを組めば人間関係でトラブルが起きる、少し前まではそう思っていた。
俺の心が変わろうとしているのか?
皆のやさしさを感じたからだろうか?
……今まで受け身だった。
自分から動いてみよう。
この2人を助けたいと思った。
そう思えた。
「学校は連休なんだろ?」
「はい、一緒に色々出来そうですね」
「そう言えば、皆の目標はあるのか?」
「カケルはあるの?」
「俺は、出来る範囲でみんなを手伝いたいと、今思った」
「何でもいいですか?」
「出来る範囲でだ。きゅうを取るなよ」
「きゅう♪」
「きゅうの機嫌がいいね」
「構ってもらえるのが好きだからな」
リコがきゅうを抱いてほおずりする。
「よしよし、きゅうは可愛いね」
「きゅう♪」
「話を戻そう、リコの目標はあるのかな?」
「チャンネル登録者数10万人がいいよ!」
「私はハンターから逃げられるくらい強くなりたいです」
「コラボをして大穴配信でもやるか?最初にきゅうチャンネルで配信して途中からリコに切り替えればきゅうチャンネルの登録者を取り込める。ついでに強くなれる」
「おおお!お願いするね!」
「私も登録者を増やしたいです」
「確認なんだけど、カノンのメイン目標が強くなるでサブ目標が登録者数を増やす、そういう考えでいいのかな?」
「合っています」
「あ!」
「どうした?」
「パーティー名を決めようよ!」
「パーティー名か。きゅうチャンネルでパーティー名を考える配信を始めて、途中でリコに配信をバトンタッチしていく感じでどうだろ?」
「良いと思います。でも家はあまり映さないようにしたいです」
金持ちな事は隠した方が良いだろう。
カノンだけで無く、家族が誘拐されたり、金を狙って悪い人間が集まってくる可能性もある。
「向こうの壁に寄りかかって撮影するか。タイトルは……パーティー名を考える、にしておこう」
「スマホスタンドを持ってきます」
「いや、魔法陣でやる」
「並んで並んで、OKだよ!」
俺の隅に立って撮影魔法陣を展開する。
「きゅうチャンネルへようこそ、カケルです」
「ネコリコチャンネルのリコだよ!」
「ファイアカノンチャンネルのカノンです。よろしくお願いします」
「きゅう♪」
きゅうがリコに抱かれながら背伸びした。
「にゃあああ」
画面に見切れて下でスナイプが挨拶をする。
『また急に始まった!』
『ふ、全裸でパソコン前に待機している』
『おい!下にスナイプがおるで』
『なんかロックバンドのジャケット写真みたいだな』
『きゅうがリコちゃんにも懐いた』
「そうなんだ、きゅうが2人に懐いてしまった。カノン、きゅうを取るなよ。絶対にやらないからな」
「ふふふふ」
『カノンちゃんが答えないwwwwww』
『きゅうの事になると怒るカケル』
『3人でこういう風に話すのは初めてじゃないか?』
「さてっと、大穴に行く前にパーティー名を」
「その前にカケル、どうして端っこにいるの、きゅうチャンネルなのにおかしいよ」
「えええ、そこ!?きゅうチャンネルだからきゅうが真ん中にいて問題無い。カノンとリコが真ん中の方が皆が喜ぶかと思ったのに!」
リコが無言で俺を真ん中に立たせる。
俺の左右にリコとカノンが立つ。
居心地が悪い。
リコとカノンの肩が触れそうになるくらい近い。
『カケル君、見てるよ!』
『カケル君メインで見てます』
『リコがお母さんみたいだ』
『カケル、居心地が悪そうだな。よし、カケルは真ん中で決まりだ』
『ドSめ、だが俺もカケルが困っている所を見たい』
『分かる、カケルはバンドで言えばベースだな』
「あの、パーティー名を、考えて、よろしいで、しょうか?」
「何で片言なの?」
「いいですよ、カケル、ゆっくり自分のペースで話しましょうね」
『出鼻をくじかれたからだろ』
『カノンが保母さんプレーで地味にからかってるのも笑える』
『3人の掛け合いは面白い。もっとやろう』
「パーティー名なんだけど、何がいいか……」
少なくとも、俺の名前を付けられるのだけは無しだ。
「う~ん……カケルとゆかいな仲間たち?」
「カケルとその眷属はどうでしょう?」
「カケルの鉄拳制裁は?」
「シンプルにカケルパーティーもいいですね」
駄目に決まっている。
絶対に阻止する。
このままじゃ駄目だ。
「お、俺きゅうライダーが好きなんだけど。きゅうをメインに考えたい」
「きゅう♪」
「きゅうも喜んでいる。きゅうはパーティーのマスコットだ」
「それじゃあカノンとカケルのパーティーみたいになっちゃう」
『リコちゃんを仲間外れにするのは良くないで』
『リコはそういうのを嫌がりそうだ』
『ほぼ漫才な件』
「カノンは何かないか?」
「カノンがきゅうを貰うまで、はどうでしょう?」
「断る!」
「私がまたのけ者になっちゃう」
「それ俺ものけ者だからな」
『カケルの反応が早いwwwwww』
『カノンタン良いな』
その後も色々案を出すが、なかなか決まらない。
「一旦配信を終わるか」
『えええええ!早すぎないか!?』
『会議ならもっと出来るだろ』
『あきらめ早すぎんか?』
良い食いつきだ。
「ちょっと休憩だ。少し休んでネコリコチャンネルで続きをやる」
『コラボか、理解した』
『カップ麺を取って来るわ』
「配信を終わります。お疲れさまでした」
魔法陣を消した。
「いつパーティー名が決まるか分からないから、カノンまでバトンタッチできないかもしれない」
「いいですよ。チャンスはまだありますから」
「休憩しよう」
【休憩後】
ネコリコチャンネルで配信を再開する為次はリコを真ん中に立たせた。
俺は隅に移動した。
ふ~、落ち着く。
「さっき話をして、皆のコメントを集めて参考にしたいなーって」
「皆が思うこのパーティーのイメージを出して欲しい。印象に残った動画でもいいし、何でもいいのでお願いします」
『カケルが隅に移動して息を吹き返したな』
『きゅうを癒す者』
『部長討伐者』
『巨乳のカノン』
「他にないか?ネタ発言はスルーするぞ」
「え?私の巨乳には触れないんですか?」
「話題には触れない」
「話題には触れずじかに触りたいですか、そうですか」
「おい!」
『カケルは責めているように見えてカノンに操作されている』
『カノンのキャラが良いな』
『俺がカケルの立場なら即触ってたぜ』
『俺なら後ろから抱き着いて、げふんげふん』
『ツッコミを強制的に引き出すカノンの技量が高すぎる』
『カケルは吸い寄せられるようにツッコミを引き出されている』
『カマキリキラー』
『鉄拳』
『疾風』
『リコのパンチラ』
『お前らセクハラは良くないぞ』
「カケルのが多いよね」
「パーティーの顔ですから、カケルメインで考えましょう。カケルのイメージをお願いします」
「いや、俺のイメージはやめておこうかそうだな……」
俺の名前だけは絶対阻止する!
だが案が浮かばないぞ。
『気遣い』
『優しそう』
『草食系小動物』
『ハーレムくそ野郎』
「誹謗中傷はブロックするよ」
『音速の壁』
「おお!いいよ!」
「いいですね」
「……音速の壁にぶつかってるんだけど、いいのか?壁にぶつかってそれ以上速く走れない」
『良いな!』
『音速の壁を作りだす、そういう意味だよ。カケルのイメージそのものだ』
『カケル、最初に覚えたスキルは何だ?』
「疾風」
「音速の壁に決定だね」
「決まりですね」
「明日は大穴配信をする予定だよ!」
「……でも、仮のパーティーだ。うまく行くかどうかやってみないと分からないから……」
「……うん、そっか」
「……分かりました」
『カケル、空気読め!』
『今言う必要あったか!?』
『まあ、カケルらしいとは思うわ』
『カケルめ、盛り上がりをぶった斬りにするのな』
『仮パーティーでとか今言わなくて良かったよな』
俺は、すんなり決まりすぎて少し嫌な予感がした。
うまく進みすぎている。
両親の事を思い出した。
人と接すると今まで悪い事が起きてきた。
気を使って何かをやれば怒られたり、俺がやるのが当然のようになりやっていないと怒られる事が多かった。
人は急に気分が変わる、両親からそれを嫌というほど学んできた。
急に怒り出したり、人のせいにされたり急に言う事が変わったりと色々あった。
2人は人のせいにはしないと思う。
でも、反射的に嫌な予感がしたのだ。
まともな人間が集まってパーティーが結成されて少し怖くなったのだ。
自分で協力しようとして距離が近くなると危険を感じてしまう。
……そうか、俺の心が迷っているのか。
みんなからブーイングを受けつつパーティー名は音速の壁に決まり、配信が終わった。
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