第12話 第2魔法士団へ行こう

「魔法士団ってこんな所にあったのね」


 私達は、王城の裏手にある3階建ての建物の前にいる。


「そうですね。私も建物内に入るのは初めてです」


 ドーンにアポを取ってもらってから5日後、ようやく返事を頂けたのでこうして第2魔法士団へやって来たのである。


「上手くいけばいいけど」


「… 変わり者が多いらしいですよ。魔法具作りの天才達ですからね」





「今日はよろしくお願いしますー!」


 ワンフロアに数十名の魔法士達がいて、各々好きな所で作業している感じの職場だった。机も椅子も魔法具もゴチャッとその辺にある。


 入り口から大きな声で叫ぶ。誰も振り向かない。


「ドーン? ちゃんと約束したのよね? 日、間違ってない?」


「いえ。本日の2時に2階に来るようにと…」


 ドーンも焦って再度手紙を確認している。まさかのブッチ?


「あ~! あなた。こっち、こっち」


 大きな杖をブンブン振って女性が呼んでいる。とりあえず行けばいいかな。


「ごめんなさいね。実験が途中で… ちょっとそこで待っててくれる?」


「はい」


 私達は女性の後ろで待機だ。何作ってるんだろう? てか、自由な人だな。


 大きな箱型の魔法具。四面に魔法回路? が書き込まれていて、所々光っていたり…


 私は初めて見る魔法具に興味が湧く。こんな大型、かなりの高級品だ。


「う~ん。さっぱりわからん」


「ははは。恐らくですが魔法回路が上手く巡回していないようですよ」


「え? ドーン、わかるの?」


「少しですが」


 どんだけ頭いいの? 確か魔法回路って、学校で魔法基礎理論と応用の授業を取ってないとわからないよ? しかもそれって専門科だよね? 恐るべし。


「さすが『稲妻ブレーン』。ふふふ」


 ふむふむと感心していると、女性が振り返る。


「今日はダメだ… ちょっと休憩。みんな、今日はもう終わろう。レポート書いといてね。ふ~、お待たせ。で? 第3騎士団が何の用?」


 女性は実験用のメガネや作業着を脱ぎながら話しかけてくる。ここで立ち話なの?


「はい。お時間頂きありがとうございます。第3騎士団団長のラモンです。本日は魔法具について相談がありまして来た次第です」


「へ~、あなたが… 私は第2魔法士団団長のリーネよ。堅苦しいのは苦手だから楽にしてね。こっち」


 と、スタスタ歩くリーネ団長の後を着いて行く。壁際に休憩所のような所があった。長椅子が3脚と簡易のお茶のセット。


「ここでもいい? 3階に団長室があるけどほとんど使ってないから。ここだとお茶があるし」


「はい。問題ありません」


「そ? どうぞ。で?」


 足を組んで天井を仰いで座っている。本当にフランクだな。まっ、私はやりやすいから良いけど。若干、ドーンが呆れた顔をしているのは黙っておこう。


「では単刀直入に。この魔法具を作って欲しいのです。また、作るとしたら予算は如何程かと」


「ん~」


 と、お茶を飲みながら設計図を見るリーネさん。ふむふむと見てから質問が始まる。


「まず、この盾魔法。このサイズだとせいぜい身体ぐらいの大きさのが1回。威力を落とせば2回かな? 何でこんな物が必要? 騎士なら自衛出来るでしょ?」


「これは非戦闘員用です。一般従業員用に考えています」


「あ~、それで笛ね。意図を聞いても?」


「はい。王城で働く侍女やメイドに持たせようかと思いまして。自衛手段として… 音が鳴る物と盾が良いかなと」


「安直ね」


 え~、却下なの? 結構考えたんだけどなぁ。安直って… バッサリだな。


「… 欲しいのは、近くの者を呼べる物で携帯が出来小さな物がベストです。盾魔法はあったら良いなぐらいです。リーネさんは何かいいアイデアはありますか?」


「そうね~。まず盾魔法を組み込むと値段が上がるわ。笛型だと口や手を塞がれれば音が出せないわよ?」


 全くその通り。


 もっと考え込まないといけなかったか。今まで上手く行きすぎたからちょっと見切り発進しすぎた。調子乗り過ぎたね。うー。


「… 仰る通りで。お恥ずかしい。再考して来ます」


『では』と、帰ろうとしたら呼び止められる。


「バカね。1回や2回のつまずきでいちいち。せっかく時間を割いてるんだから今考え直そう。私もいるしね」


「いいんですか? あ、ありがとうございます」


「ん。要は音が出ればいいのね?」


「そうです」


 音、音… はっ! そうだ! 防犯ブザー!


「ん? なんか思いついた?」


「はい。ピンか紐を引っ張れば音が出る仕組みの小型の物はどうでしょう?」


「ピン?」


「このぐらいの小さな物で、2つにポキッと折るか、引っ張るか、何でもいいのですが、ボタンでもいいです。アクションを起こせば音が鳴る物です」


「ふむ~。音を出す仕組みは? 笛なら息よね… それこそ風魔法か…」


「音が出る程度の風でいいので簡易で出来ないでしょうか?」


「う~ん。風魔法で笛を鳴らすか。面白そうね。これなら~1個1万K? 材料を木とか安くしても5000K… でもそれじゃぁ、魔法回路が摩耗して消える恐れがあるわ。ずっと使うのであれば素材は金属がベストね。やっぱり1万Kぐらいかな?」


 1万K… 高い。侍女とメイドさん合わせて200人強。予算が… う~ん。


「そうですか… ちょっと高いですね」


「そうね。どうする? 作れなくはないわよ?」


「まだ時間は大丈夫ですか? 今考えます」


「え? 今? あはははは。目の前で考えるとか、ラモンだっけ? いいね~」


 笑いながらリーネさんは、そんな私を放って、さっきの話をまとめながら即席で設計図を書き始めた。


 うんうん唸っていると、ドーンが助け舟を出してくれる。


「団長、これも特許を取ればいいのでは? リーネ殿。このような物は今まで存在しましたでしょうか?」


「ないわね。魔法具とは本来高級品。こんな小さな簡易装置… 今まで見た事ないわ。それにこんな使い方をする魔法具は存在しないわ」


 今までにない、か。


「… では、その特許の権利をお譲りします。その代わり無料で作って下さい」


「はぁ? 特許権を放棄? アホなの? 別に放棄しなくても、あなたが特許を取って、その利益で作ればいいじゃない」


「いえ、これは個人的に必要な物ではありませんので。私が放棄する代わりにお願いもあります」


「え~? なになに、面倒臭いのは嫌よ」


「特許権を第2魔法士団の団へ譲渡します。そうすれば特許を使用される度に、団の予算がプラスになるでしょう? 恐らくですが、実験やら何やら、予算が限られると出来る範囲が違ってくるのでは? ですので、リーネさん個人に譲らず団への譲渡にします。そして今後は、一般人への特許の公開をお勧めします。手軽な魔法具として売り出せば、平民には難しいかもしれませんが、裕福な家の者や貴族には売れるんじゃないでしょうか? 防犯対策です。子供や女性にウケますよ。こうして一般人に広まれば定期的に利益が見込めます。今回限りじゃありません。ですので、王城への従業員用は今後は無料で作って下さい。どうでしょう?」


「今後も無料なの?」


「今後と言っても、この件は騎士団指導の元、国が従業員に貸し出す魔法具です。管理はきちんとさせます。ですから、毎年追加されても無くした分や壊れた分だけで数個じゃないでしょうか?」


「… なるほど」


「どうでしょう? もし了承頂けるなら、国への申請を何としても通します!」


「そうね~、予算が増えるのはいいわね… よし。わかったわ。まず試作品を作るから、あなたは申請を通して頂戴。ややこしい事務所理系は任せたわよ」


「はい!」


 固い握手を交わして、第2魔法士団と共同で防犯ブザーならぬ防犯笛の開発が始動した。やったね。


 後は、書類。スバルさんに泣きつこうかな。

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