第10話 侍女長アビー

 まずは第3の仕事内容の把握と現場見学でもしようかな。あとは侍女長と話し合いが必要だな。


「ドーン、社交界で下半身がゆるい人の噂って回ってるものなの?」


「まぁ… しかし、これほど深刻化しているとは。特に若い方が目立ちますね。遊び方を知らないのか?」


「ドーン? 遊び方って… 合意の上ならいいって事?」


「… 失礼しました。私も貴族社会での当たり前の出来事だと思っていた節がありました。これからは改めます」


「いいの。そっか… 貴族達の意識改革がまずは必要なんだね」


 私は前世の記憶があるので、セクハラ? 染みた事には嫌悪感しかない。しかも合意なしならレイプだよ? 強姦罪とかあるのかな?


「何か案でも浮かびましたか?」


「そうね… まずは第3がどんな形で力になれるかよね。隊員達って貴族が多いのかな?」


「はい。全員が貴族で構成されています。やはり王城ですので。平民が警備するには問題があります」


 あぁ。平民だから言う事聞かないとか、嫌悪する部類のやつらか。


「了解。派閥とかあるの?」


「多少は… 第3の中で大きな派閥は2つ。前団長のユーグ殿を中心としたゲート公爵家の温厚派と、若い騎士が多いヤーナ辺境伯爵家中心の若手集団。温厚派はキリスと言う伯爵家3男が中心人物です。若手はゲインです。ヤーナ辺境伯爵の次男です」


「で? 温厚派の顔であるユーグさんが居なくなるので、辛うじて抑えていた鎖が破上し始めるかもしれない。手に負えなくなる前に第3を掌握しないといけないのか」


 第3の足並みを揃えてから、風紀の課題にシフトした方がいいか。は~。


「ヤーナ辺境伯爵って何かあるの?」


「先の戦争で私有兵を大勢送り込んだり食糧支援など、戦場が近かったので多大な貢献をしています。その親の功績を傘に、次男が戦争時から幅を広げ出したそうです」


 … ややこしい。親かよ。まぁ、そっか。それが普通なのか。


 騎士の中での派閥と序列…


 こんなのまとめられるの? 私、子爵だよ?


「う~。若手は特に何か仕出かしたとかある訳?」


「特には。ただ、勤務態度が少し目に余りますね。侍女にちょっかいをかけたりしているそうです。話しかける等のかわいいモノですが。それを注意した温厚派と対立と言う流れですかね」


 勤務中にイチャコラか。けしからん。確かに、王城に務める侍女ちゃん達はみんなかわいいけども。


「そう… 騎士が強姦… 無理矢理とかは無いんだね?」


「それは報告にはありません。少し調べますか?」


「いやいい。なんとなく現状はわかりました。では、そのキリスとゲインだっけ? 面接しようかな」


「了解です。明日でよろしいでしょうか?」


「ん。次よ。魔法具を作製してるのってどの部署だっけ?」


「第2魔法士団です」


「では、アポを取って下さい。2時間程」


「了解です。課題に必要なモノですか?」


「そうね。今日は侍女長に会いに行こうかな。これもアポが必要かな?」


「出来れば。急ぎであれば今呼んで来ますよ?」


「いいの。あっちも仕事があるでしょうから、それも2時間程。時間がある時に呼んでくれる? じゃぁ、今日は過去の収支報告と作業報告書を見よう」


「お茶を用意します」


 私とドーンは早速資料に目を通す。流石、ユーグさんと前副団長のベネットさん。分かりやすいし不正もない。当たり前だけど。


 全部に目を通し終えた時には夕方になっていた。


 コンコンコン。


「侍女長のアビゲイルです。お呼びとの事で参上いたしました」


「どうぞ」


 40前後のキリッとした美人侍女長が入ってくる。所作がめっちゃキレイだ。


「すみません。お仕事は大丈夫ですか?」


「はい。時間がある時でいいとの事でしたので、今なら2時間程余裕があります」


「よかった。こちらへ」


 侍女長は無表情でソファーに座る。


「初めまして。この度、第3騎士団団長に着任するラモンです。まだ着任前ですが少しお話を聞きたくてお呼びしました」


「私は侍女長のアビゲイルです。よろしくお願いします」


「では、早速ですが王城内の風紀について伺いますね?」


「風紀? ですか?」


 やっと固まりきった表情が動く。動揺してるのかな?


「ええ。今回着任にあたり課題がございまして、それが王城の風紀問題です。貴族男性が侍女やメイドに無体を働く事があるとか?」


「…」


「言い辛いでしょう。分かります。デリケートな問題ですから。しかし、私は今後、弱者である女性の従業員が泣き寝入りをしないよう、そもそもそんな事故を起こさないようにしたいんです」


「…」


 まだ、だんまりか。悪習… とはよく言ったものね。


「まず、女性自身が自衛出来るかを考えたいですね。どんなに相手側へ注意発起した所でルールを無視するアホは必ず居ます。ちなみに、侍女やメイドはどの様な階級が多いのでしょう?」


「…」


 う~ん、手強い。


「次は、登城する全貴族に対しての意思表示。特に男性への警告です。これは総団長と相談します」


「…」


 まだ無言だけど、やっと顔を上げてくれた。


「最後に、騎士の巡回と警備位置などと組み合わせた女性の避難経路の確保かな?」


 侍女長は手を膝の上でニギニギしている。何か言いたい事があるのかな?


「どうでしょう? 侍女長アビゲイル殿?」


 キョロキョロと目を動かして、考えている。まだもう一押し?


「私は、この様に小娘でご存じでしょうが子爵位です。貴族としてはなんの力も持っていません。しかし、今は騎士団長です。今までは、団長位は上位貴族が占めていたので忘れがちですが、騎士はどんな理由があろうとも序列が優先されます。貴族の序列はあまり影響がないのです。本来は。私は下位貴族だからこそ、弱者の気持ちには沿えると思います。私を信じてみてはくれませんか?」


「…」


 ふ~。しばらく待ってみるか。考える時間が必要だよね。私はドーンにお茶を入れ直す様にお願いする。今日は、テッセンからもらったお茶菓子もあるし、のんびり待ちましょう。


「… 団長。アビーです。ラモン団長」


「は?」


「アビーとお呼び下さい」


 アビーはいきなり立って深々と礼をする。


「な、何?」


「ラモン団長。失礼な態度を取って大変申し訳ございません。私は、いつもの様に口だけかと… この問題は私が侍女長に着任する前から、ずっと城に根付く問題でした。今もです。上位貴族には逆らえない、侍女は替えが効く、生家に迷惑がかかるかもと… 仰る通り、わずかな金子で泣き寝入るしかなかったのです。本来、侍女やメイドは、上位のお嬢様達は行儀見習いの為、下位貴族お嬢様達は家計の為に出仕しておりましたが、今では恐れてあまり来ません。どうしても仕事をしなければならないお嬢様が来ているのが現状です。中には、進んで手篭めにされ愛人や第2夫人を狙う者もいます。違うんです! 本来の侍女やメイドの仕事とは… 風紀が乱れ、仕事の質も落ちて来ています。本当に、真意に取り組んで下さるのでしょうか?」


「はい」


 私は真っ直ぐアビーを見る。


「あぁ、あぁ、ありがとうございます。ラモン団長。女神オーフェリン様に感謝を!」


 ガバッと祈りを捧げ出すアビー。びっくりした~。って、オーフェリン様の名前を久しぶりに聞いたな。

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