第10話 騎士の給与

「どうぞ」


 時間通りにオカッパのスバル様が第7の団長室へやって来た。


「失礼します。へぇ~、ずいぶんキレイになりましたね」


 スバル様はそう言いながら、団長室をキョロキョロと見て回っている。実は、もうドーンには秘密を打ち明けたので、例の洗浄魔法をやったのだ。


「はい、少し汚れていたので」


「いい事です。清潔な職場は清廉な心を育てますからね」


 今日はやけに機嫌がよろしい様で。相変わらずドーンに話しかけてるけど。


「では、早速ですが資料についてです」


「あぁ、まずはお掛け下さい。ドーンも横に来て一緒に聞いてくれる?」


「では、失礼して」


 3人でソファーに座り早速始める。


 さぁ、がんばるぞ! 要望を通さないとね。


「まず、予算の事ですが、本当に増額希望はないんですね?」


「はい。先の戦争での見舞金やらがありますし、少しですが隊員達の給与面を考え直しましたので」


「給与ですか?」


「ええ。過去を調べて分かったのですが、今までの団長が取り過ぎていた感じがあったのと、手当制度に変更しようと思いまして」


「手当ですか? 戦争時の緊急招集の一時金の事でしょうか?」


「違います。突発的な手当ではありません。毎月の給与に加算する方式です」


 ほぉ~と、スバル様はやっと私の目を見て話しかけてきた。


 興味が出たのかな? って、あれ? 給与って団長が決めていいんだよね?


「もしかして先に第1に話を通した方がよかったでしょうか?」


「いえ、少し興味が出ただけです。給与面はよっぽどでない限り各団長が決めて結構です。まぁ、とは言っても事後報告で報告書は提出して頂きますが」


「よかったです」


「で? 手当方式とは?」


「あぁ。騎士階級に応じて基本給を決定し、能力手当などを定め、基本給に手当を加算した給与をそれぞれに支払う感じです」


 前世では当たり前だったんだけどね。こっちは平民だからとか貴族だからとかで、どんぶり勘定的な給与だった。恐らく、コロコロ変わる団長の弊害と、給与算定が団長権限だからこその悪き図式になっていた。


「基本給ですか? 面白いですね。このアイデアはドーン殿が?」


「いえいえ、私ではありませんよ。それにスバル殿、今はドーンとお呼び下さい」


「私は団長位ではありませんし、いち総務の者ですから… と言うか、あなたですか? ラモン団長?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような… 何とも失礼な話だけど、スバル様は変な顔になっている。


「はい。騎士に身分は関係ありませんので。実力を正しく査定するのがよろしいかと」


「それに至った根拠は?」


「そうですねぇ、『やり甲斐』でしょうか? 平民でも貴族でも、自分の仕事に張り合いとプライドを持って欲しくて。そうすればまじめに仕事して、ついでに士気も上がるかな~と推察しました」


「門番ですよ?」


「門番はとても大事な仕事です。ただただ通行人を通している訳ではありませんよ、スバル様」


「私の事はスバルとお呼び下さい。あなたは団長です」


 はぁ、ここでも団長だから呼び捨てか。年上の今まで上官だった方をそんな急に呼び捨てなんて出来ないんですけど。


「すみません。慣れないもので… スバルさんと呼びますね」


「まぁ、いいでしょう。その資料はありますか?」


「まだ作成中です。隊員全員は多いので、ははは。事務仕事が少しばかり苦手でして」


 ドーンと手分けして作成しているが、100人分はちょっと辛い。


「団長自ら?」


「ドーンもです。まだ側近を決め兼ねていまして、お恥ずかしいですが」


「ははは。そうなるとこちらに報告書が上がってくるのはずっと先ですね…」


「すみません」


 …ここで何故か沈黙。


 スバルさんは手を顎にかけて何やら考えている。しばらくしてやっと口を開けたと思ったら思わぬ返答が返ってきた。


「私がお手伝いしましょう」


「「はぁ?」」


 思わずドーンとリンクしちゃったよ。2人で驚いて顔を見合わせる。


「いやいやいや、天下の総騎士団の方に手伝ってもらうなど… 総団長(←略して)に怒られます!」


「そこは大丈夫です。通常業務を滞らせなければ問題ありません。総団長は細かい事は気にされませんので」


「え~、でも… え~!」


 ドーンに目で助けを求めるが首を横に振るだけでダメなようだ。


「その給与方式が理に適ったものならば、騎士団全体に広めようと思いまして。正しく運用されれば、金の行方が明確になります。実に良いアイデアだ」


 スバルさんはカハっとめっちゃ笑顔になった。スバルさんの初めて見た笑顔がお金の話とは、さすが総務の長。


「まぁ、私は助かりますが、めっちゃ地味な作業ですよ?」


「はい。私、数字は得意なのでお二人でされるより早くなるかと思いますよ」


「はは、そうですか」


 決定なのね。そうなのね。


 めっちゃ笑顔のスバルさんに押されて根負けした私はお願いする事にした。


「う”~。ではお願いします」


「はい。では、本題の要望のお話をしましょう」


 スバルさんは晴れやかな顔で次に進める。実は隠れ俺様系なの?

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