第159話 真王子ちゃん無双【後編】

 時は5秒前にさかのぼる。


〜〜片井視点〜〜


 コルは俺たちから20メートル離れていた。


 あんなに離れたんじゃ助けに行けないぞ。


 魔法壁の射程は50メートル。

 余裕で届く距離だが、スピードスターワイバーンの攻撃を防ぐとなると50倍は欲しいだろう。

 魔法壁を強化できるのは世界でも俺だけの特技だ。

 こんな技を使ったら、俺の正体がバレる可能性がある。


 まぁ、格好が女の子だからさ。すぐにはバレないだろうけど、怪しまれるのは当然だろう。

 俺の任務は行方知れずの風間 潤志郎を探し出すこと。

 捜索は秘密裏に行いたい。

 だから、絶対に目立つ行為は避けたいよな。


 そうなると、攻撃アタック 防御ディフェンスは使えない。

 じゃあ、走って向かうしかないか。


 と、走り出そうとした瞬間である。


 コルの頭上にワイバーンの姿が見えた。


 ヤバイ!


 もう走ってる時間はないぞ。


 みんなの気を逸らさなくちゃ。


「ああ! あんな所にワイバーンがぁあああ!!」


 みんなは俺の指差す方向へと注目する。


 よし。

 今のうちに──。



  弾性バウンド 防御ディフェンス



 ゴムのように柔らかい魔法壁を出す。

 俺はその壁に向かって背中を突っ込んだ。


グィイイイイイイイイイイイイイ……。


 この魔法壁は元に戻る修正があるからぁ。


 俺を弾く。




ギュゥウウウウウウウウウウウンッ!!




 弾性を使って高速移動。


 コルを抱えて敵の攻撃を躱したってわけだな。



──時は現在に戻る。



「怪我はないか?」


「お、おまえ……何者なんだ?」


「だから、クラスメイトの 真王子まおこだってば」


「うう……。動きが速すぎる。どうやって移動した??」


 やれやれ。

 鋭い奴だな。


「は、走ってに決まってるだろ」


「……ボクの後ろに付いてくる者はいなかったぞ。……怪しい」


「んなことより、ワイバーンを倒す方が先決だ」


「……それは、そうだけど」


「背中をくっつけろ。互いの死角をなくすんだ」


「う、うん」


 ワイバーンは警戒してるな。

 グルグルと周囲を回って中々攻撃してこない。


「どうしたんだろう? どうしてボクたちを攻撃してこないんだ?」


「警戒してるのさ」


「なんでわかるの?」


「う……。か、勘だよ」


「ふぅーーん。随分と戦い慣れしてるんだな。S級モンスターと戦ったことあるの?」


 たしか、政府が用意してくれた 真王子まおこの経歴ではB級探索者ってことだったよな。

 ってことはS級モンスターなんて倒せるわけがない。


「は、初めてだよ。だから、ドキドキしてさ。ははは。怖いんだよね」


「とても、そうは見えないな。余裕があって、楽しんでいるように見える」


「は? そ、そんなことはないぞ!! あーー怖い! ホラ、汗ビッショリだろ?」


「それって、ボクに問い詰められてかいてる汗だよね?」


ギクゥ。


「ははは。そんなことより砂見てろって。いつ襲ってくるかわからんぞ!」


「それはそうだけど……。さっきから砂がグルグル回ってさ。襲ってくる気配がないんだ」


「コルは、防御魔法は使えるか?」


「使えるけどどうして?」


「私は剣士タイプだからさ。魔法は使えないんだ」


「スピードスターワイバーンに防御魔法は無意味だよ。攻撃アタック 防御ディフェンスなんてすぐに破壊されてしまう」


「それがいいんだ」


「え?」


「だいたいでいいからさ。奴が動いてるだろう進行方向に攻撃アタック 防御ディフェンスを設置するんだ」


「なんでそんなこと? どうせ破壊されて魔力を消費するのがオチだ。そんなのは効率が悪すぎる」


「でも、破壊される瞬間がわかれば位置が特定されるだろ?」


「あ……。そういう使い方か」


 コルは魔法壁を発生させた。

 低血圧な眠そうな声で詠唱する。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 目の前に発生させた魔法壁は瞬時に破壊された。


 はい。位置確定。


 コルは大きな鎌を振るう。


「えい」


 しかし、その攻撃は空を切った。


「避けられた。速すぎて当たらない」


 そうでもないさ。

 どうせ、初手の攻撃は躱すのはわかっていたからな。


 だから、躱した先で俺が剣を構えて待ってたんだ。



「よっと」



ザクン……!!


 

 うん。

 手応えあり。


『ギャワァアアアアアッ!!』


 スピードスターワイバーンは奇声とともに絶命した。


「す、すごい……。あんなにあっさりと……。警戒したワイバーンを倒した……」


 よし。

 討伐完了っと。


「お。魔晶石をドロップしたぞ。これって結構、高値で売れるんだよな。2人で倒したから等分しよう。へへへ」


「じぃいいいいいいいいいいいいい……」


「な、なんだよ? もしかして、独り占めしたいのか?」


「そんなことどうでもいい。それより、なんでそんなに強い?」


「ふ、2人で倒したんだぞ!」


真王子まおこが1人で倒した」


「お、おまえだって一撃でワイバーンを倒してたじゃないか!」


「ボクのは無警戒の油断した奴だった。それに、ボクは攻撃動作に2つの魔法を付与しているんだ。速度と斬撃威力向上の魔法付与をね。君は魔法の付与なしに倒した。警戒したワイバーンは桁外れに強いのにね」


「な、な、なにを謙遜してんだよ! は、ははは」


「さっきの攻撃は、ボクの一撃が躱されるのがわかっていたみたいな位置取りだったな」


ギクゥウ!


「は、ははは。おいおい。自分を卑下するなって。コルの攻撃がなかったら私の攻撃は当たらなかったさ。私なんか偶然だよ。こういうの棚からぼた餅っていうんだ。略して棚ぼた。日本語すぎてわからないかな? とにかくすごく助かったよ。あんがとな」


「怪しい……」


「ま、まぁ、2人で倒したってことでいいじゃん。な?」


「倒したのはボクじゃない。それに、君はワイバーンの攻撃からボクを救ってくれた……」


 と、彼女はなにかを思い出したように、


「そうだ……。君はボクの命の恩人じゃないか」


「ただの協力討伐だってば」


 コルは全身を真っ赤にした。


「あ、あり……。ありが……」


「え? なんだって?」


 彼女は、その顔をリンゴのように真っ赤に染めながら小さな声でブツブツ言った。


「あ、あり……ありが……。……とう」


 なにを言ってんだかさっぱりわからん。


「おまえ、変わってんな」


「はう! ま、 真王子まおこの方が変だ」


「みんなの所に行こうぜ。怪我人がいるかもしれないからさ」


「う、うん」


 みんなの元へ戻ると、俺たちは囲まれた。


真王子まおこちゃん! 驚いたよ! 気づいたらワイバーンを倒してるんだもん。すごい斬撃だったよ!!」

「まさかスピードスターワイバーンを倒すとはな」

「すげぇ日本人だな」

「イッツ ア ミラクル!! ヤマトガール!!」


 みんな無事そうだ。大きな怪我人はいないようだな。

 

 担任のアービド先生は、死人が出なかったことにほっと胸をなでおろす。

 俺だって同じ気持ちだ。3匹のS級モンスターに遭遇して軽傷だけで済んだのは運がいいだろう。

 いや、 翼山車よくだしの娘、ことデザイアだけは重症か。彼女だけはワイバーンの攻撃で全身複雑骨折だ。

 まぁ、あいつがデカい声出して笑いさえしなければこんなことにはならなかったからな。

 そう考えれば自業自得か。



 俺たちはその場で野営の準備をした。


 このままダンジョンを進むのは危険が大きすぎるからな。

 大人しく待機するのが賢明な判断だよ。


 次の日。

 救出隊が到着した。


 それはSS級の探索者集団。

 

  元老院セナトゥスのメンバーだった。

 

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