朝起きたら幼馴染が隣にいる
あやかね
その少女、奇想天外につき
第1話 プロローグ
朝起きたら彼女がいる。一人用ベッドの壁に面した方。すやすやという寝息とともに、ふにっと柔らかいものが腕に押し当てられる。鼻腔をくすぐる甘い香りは、桜も
チラッと目をやるとたいへん幸せそうな寝顔が見える。桜色の髪の毛をした女の子だ。小顔の部類に入るであろうすっきりとした顎回り、ぱっちりしたまつげ、目鼻立ちは整っていてお人形のよう。美少女と言っていいほどに可愛い女の子が僕の隣で寝ているのである。
僕の左半身に乗っかる女の子の暖かさ。体重は驚くほど軽い。
とても幸せそうな寝顔である。
だから僕は優しく彼女の頭に手を添えて、決まってこう言うのだ。
「いい加減起きろ、この不法侵入者ーーーーー!」
そして、頬をつねるのである。
☆☆☆
僕の人生は、柔らかいマシュマロに狂わされてしまうのである。
僕は自分で言うのもなんだけど、気骨ある男だと思っている。常に一本芯が通った男の中の男。決して周りにほだされず、流行ってるから好きとか軟弱なことは言わない。芸術は難しければよい。理解できるかが重要ではない。とにかく高尚な趣味を持つことが大切なのだ! しゃにむにピカソを愛せよ!
勉学も怠らず、綿密なスケジュールによって管理された僕の休日は完璧である。午前中に勉強をし、午後は運動をする。脳が疲れたら川端康成を読んだりして彼の書く女の子を堪能したりする。たまに何が楽しくてこんな事をやっているのかと悲しくなったりもするが、それこもれもすべて社会的有為の人材へと己を鍛え上げるためだ。
僕は高校一年生である。これから大学を経て社会に羽ばたくまで7年の歳月を有するが、その間もし一日も休まずに鍛錬を続けていたら? 僕に与えられた2500日あまりの時間。僕の前途は明るい。
ところが、人生楽あれば苦あり。一寸先は闇。僕の人生を邪魔する者がいた。
「あぅ……おはよ……朝?」
「おはよ……じゃない! ここは僕の部屋だ!」
「ゆうの部屋……居心地……いい……すやぁ」
「僕のベッドで寝るなーーーーー!」
僕は部屋のカーテンをシャツと開け放ち、彼女の頬を両手で引っ張った。
「いひゃいいひゃい……なんでそんなことするかなぁ……」
彼女こそ僕の天敵である。
僕の人生は、この柔らかいマシュマロに狂わされてしまうのである。
「大体どうやって入ってきたんだよ。僕はドアの鍵も窓の鍵も閉めたはずだぞ」
「……ピッキング。覚えた」
そういう彼女はどこか誇らし気であった。
これは、僕と彼女の巻き起こしたひと夏の闘いの記録であると思っていただきたい。
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