第45話
いくつかの問題が起きてもそれに自分が対応できていようがいまいが時間は経って、明けて朝。
朝食を済ませ、美鈴を見送ろうかと考えていたが夜中に仲良くなったのかそのまま今日はうちで遊んでいくという美鈴。
だから俺の許可は? と尋ねたものの、京花に「別にいいじゃない」とあしらわれて、もはや部屋どころか家まで奪われ兼ねない危機感を覚え始める。
「それじゃあ京花は洗濯物を任せた。美鈴は適当にしてていいぞ。暇ならリビングでゲームでもしててくれ」
「わかったわ」
「さすがにあたしだけゲームはないでしょ。手伝うよ。何すればいい?」
別に美鈴は来客なので家事を手伝わなくても構わないが、本人がそういうなら手伝って貰おうかな。
「じゃあ、ちょっと布団干すの手伝ってくれ」
「いいよー」
朝の習慣で窓を開けているので二階から階段を風が抜けていくのを感じながら両親の寝室へ。
「よいしょ、と」
クローゼットにしまっていた羽根布団を引っ張り出す。
「あ、ごめん、これ京花に渡してきてくれないか?」
「まだ間に合えばいいけど」
「間に合わなかったら次でもいいよ」
美鈴に布団と枕のカバーを託して洗濯係にしれっと任命した京花のところに持って行って貰う。
カバー程度ならば別にそのまま洗濯機の乾燥機能を使えば二回目にしたって夜には間に合う。
「んじゃあ俺はその間に」
両親の寝室には大き目のダブルベッドがひとつある。
クイーンサイズとかキングサイズとか言うのだったか?
どちらかは分からないがそういうやつ。
備えの寝具もそれに合わせてあほみたいに大きい。
さすがにこのサイズのマットレスを美鈴には抱えさせられないので必死に抱え起こして二階のベランダの傍の日当たりの良い場所に立てかける。
「やっぱ二回目になるってさ。ついでだからユウの部屋のシーツも頼んできちゃった」
「おう、サンキュ」
ちょうど戻ってきた美鈴に礼をする。
俺がマットレスと格闘しているうちに俺の部屋のシーツまで剥がしてくれてたのか。
なんだか……思っていたよりも家庭的なのかな。
こうしてお客様扱いではなく、彼女としてではなく一緒に居て、ただの幼馴染として一緒に家事をするなんてことはそういえばなかったな。
「どうかした?」
「……いや別に」
小さい頃から快活で中学では見た目も
小学校の頃はよく一緒に遊んでいて、中学に入って先に大人になってしまったような美鈴と距離を感じて。
両親を失った俺との距離をいつの間にか詰めてきてまた近くに居た。
それからは昔の快活な幼馴染としてまた遊ぶようになって、恋をして、今は元カノ。
これだけの年数を一緒に過ごしてきて、こういう家庭的な部分は知らなかった。
踏み込ませなかったのは過去の俺で。
どこか遠く、明るく楽しい場所に手を引いて連れて行ってくれる美鈴しか見ていなかった俺になんだか呆れる。
彼女だから、付き合っているから、なんでも知っているかと思っていたのにそうではなかったのだと当たり前のことに突き当たる。
「美鈴ってやっぱすげーな」
「いまさら気づいたの?」
「うん。いまさら気づいた」
「惜しくなっても遅いよ」
「そりゃあ解ってるよ。頑張らなきゃならねーな」
「なるべくはやくね」
「うん」
言葉を交わし、冗談を交わし、作業をこなす。
「ユウくーん! あと何か洗うものあるー?」
階下からは居候の間延びした通りの良い声が響く。
まるで母さんが父さんを呼ぶときのようではないか。
「シーツ全部持ってってくれたんだよな?」
「うん」
美鈴をちらと見やればこくりと頷く。
「もーないから終わったらお湯でも沸かしといてくれー」
「りょーかーい」
これまた父さんが母さんに返事をするかのようで、そう思ってしまうと少しおかしくなってきてしまってニヤけてしまう。
「なんか、顔つきよくなったね」
「そうか? 惜しんでも遅いぞ?」
「わかってるよ。あたしも頑張らなきゃねー」
ニヤけてしまったところを美鈴に見られてしまってなんだか面映ゆいのをふざけてごまかす。
それ以上頑張られてしまったら美鈴ならすぐにまた新しい彼氏ができてしまいそうだ。
もうちょっとくらいこうして幼馴染でいて欲しい俺としてはそれはちょっと残念だ。
「さ、布団も欲し終わったし続きはコーヒーでも飲んでからだな」
「えぇー! まだなんかあるの? 遊ぼうよぅ」
「次は掃除、買い物、学校の課題、自転車の修理。やることは山ほどあるからしっかりお手伝い頼むよ」
「うぇ~、軽はずみなこと言うんじゃなかった」
不満顔で唇を尖らせる美鈴に苦笑する。
昨夜はいったいどうなることかと思ったけれど、言葉の関係が変わったからと言って全てが変わってしまう訳ではないらしい。
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