1ー⑯
─スキンクマンの襲撃に遭ってから3日後。
勇があの後、源治郎の元へ駆け付けると彼は既に救急車で搬送された後だった。一命は取り留めたものの、未だに意識は戻らず生死の境を彷徨っている状態だという。
源治郎が勤務していた駐在所の前に勇、紗良、そしてカシムは訪れていた。交番と違い、駐在所は勤務員たる地域課の警察官が住む住居と一体化している所にある。交代で番をす るという語源の交番は3日サイクルで勤務する警察官が替わるが駐在所は常に同じ警察官が常駐する。故に地域住民との親密な関係を築けるのだ。
「未だに信じられない……ゲンさんが駐在所にいないなんて」
紗良は半ば空き家同然となった駐在所を見ながら呟いた。 つい先日まで10年近く源治とその妻子が住んでいたが、当の源治郎が警察官としての職務に就けないため、駐在所は次の警察官が赴任するまでその機能を停止している。
小さな事から今回の様な大事件まで、変わらぬ情熱を注ぎ街の治安を守ってきた警察官・亀田源治郎はもういない。
「街の人達からも慕われていたのだな。 亀田さんというのは」
源治郎と直接面識の無いカシムにも、彼の人気は伺い知れた。
「やっぱりゲンさんは、僕らのヒーローだったんだ……」
勇は続ける。
「さっちゃん、カシムさん……決めたよ。僕はゲンさんに代わって、この敦賀を守るヒーロ 一になる!!」
勇のその顔にはいつものマイペースは無く、使命感に満ち溢れていた。
「ヒーローって、幼稚園の頃と同じ様な事言ってるじゃない。······でも、ユウらしいわ」
勇が紗良の微笑んだ顔を見たのも10年ぶりだった。
「宮守くん、ヒーローってのは生半可な気持ちでは務まらんぞ?君にそれだけの覚悟はあるか?亀田さんの様に命を賭して戦う覚悟が」
カシムの問いに、勇は答える。
「このヤモリの力があれば、出来るはず……でも、僕はまだこの力を使いこなせてない……だからカシムさん、僕に戦い方を教えてください」
勇はカシムに対し、深く頭を下げた。
「いつまたREXの奴らが襲ってくるかも解らない。 次はスキンクマンの様な紛い物ではなく、もっと強い敵が来るだろう。私の指導は甘くないぞ?勇!!」
「はい、
その様子を眺めていた紗良が口を開く。
「じゃあユウも、カシム先生のマスター・トゥアタラみたいな名前が要るんじゃない?」
カシムは、自分の二つ名は自称した訳では無く REXの元幹部であった故に呼ばれた名なのだが、 勇にも高校生・宮守勇とヤモリの力を持つ戦士を区別する名はあった方が良いかもしれないと考える。
「ヤモリマン!……はダサいなぁ。ヤモリって英語で何て言うの?」
「
紗良がスマホの翻訳アプリを見ながら答える。
「じゃあゲッコーマン!」
「ユウはまだ半人前なんだし、 マンっていうよりボーイじゃないのぉ?」
二人のやりとりを見て、カシムはフッと笑う。
「ゲッコーボーイか……いいじゃあないか」
この日、宮守勇は悪と戦い、 街の平和を守るヒーローとなる事を決意した。その名はゲッコーボーイ。ヤモリの力を持つ少年の戦いは、今ここに幕を開けた。
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