1ー⑭
「痛ってえじゃねえか、クソガキぃ……」
スキンクマンはゆっくりと立ち上がりながら、壁に張り付いている勇を見上げた。
「レディからはお前を生け捕りにしろって言われたが、殺しちまうかもな……あのお巡りみてえによ!」
「……ゲンさんを…お前、ゲンさんに何をした!?」
勇はスキンクマンを更に睨む。この場にスキンクマンだけが現れた……それは源治郎がスキンクマンを制圧出来なかったという事の裏付けである。
「お巡りの着てるチョッキ、アレは防刃らしいが俺の爪は簡単に通ったぜ?」
警察官がワイシャツの上に着る紺色のベストを見た事のある人も多いだろう。あれはナイフや包丁など、犯人の持つ刃物を通さない様に作られている。しかし、スキンクマンの指から伸長した5本の爪と尋常ならぬ筋力の前では、紙の如く無力だったのだ。
「ま、死んだだろ。こいつが腹に刺さったんだもんな」
スキンクマンは乾いて赤黒くなった血がこびり付く右手の爪を勇に見せつけながら言う。
勇が五歳の時、駐在所に赴任してきた源治郎。彼とは10年以上の付き合いである。
「よくもゲンさんをッ!!」
勇は壁を蹴り、その勢いで飛びかかりながら右の拳でパンチを繰り出すが……
「効かねえなぁ」
スキンクマンは勇の一撃を左前腕で受ける。そこに生えていたのはボコボコと盛り上がる装甲の如き鱗。スキンク科の大型種である 『マツカサトカゲ』の者だ。
「俺の特性…『スキンク』にはなぁ……こんなトカゲもいるらしいぜぇ?」
そう言いながらスキンクマンは尾を勇の頸部へと巻き付けた。スキンク科最大種『オマキトカゲ』……彼らはスキンク科では珍しく樹の上で暮らす生態のため、
「ッツ!!」
気道と頸動脈を圧迫され、声すら出せず苦しむ勇。しかし、そこでかつて源治郎から柔道における絞め技とその逃げ方をレクチャーされた事を思い出した。
「いいか、勇坊。人間は頸動脈を圧迫されると脳に酸素が行かなくなり意識が飛ぶ。俗に言う「落ちる」って状態だ。だから首と相手の手との間に自分の手を突っ込んで空間を作れ」
巻き付く尾と首の間に自らの手を突っ込む。空間を作り頸動脈への圧迫を防ぐと同時に気道を確保し失神を免れた。
「抵抗しやがるか。じゃあコイツはどうだ」
スキンクマンは右手に生える源治郎を刺したという鋭い爪を構える。これもオ マキトカゲの特性である。スキンクマンが勇に刺突を繰り出そうとしたその時だった。轟音とともに現れたオフロードバイクが、ウイリー状態でスキンクマンに突っ込んで来た。スキンクマンはバイクの前輪を、両腕に生やしたマツカサトカゲの鱗で防ぐ。それと同時に勇の首に巻き付いていた尾の拘束が解けた。
「ほう。『紛い物の薬』で得た力にしては大した力だな」
バイクに乗っていた男……カシムは、そう呟くと後方へ跳び、バイクのシートから離れた。主を失ったバイクはその場に倒れ、スキンクマンはカシムの姿を見て怒りに体を震わせる。
「てめえは……あの時の!!」
今のカシムはムカシトカゲの姿をしていない、白人青年の姿である。スキンクマンこと須藤圭介ら強盗団を襲いレプティカルを2本奪った、因縁深き相手である。
「遅くなってすまなかったな、宮守くん。そいつの仲間……REXの奴らに私も襲われた。蹴散らしていたら時間を食ってしまった」
「蹴散らしただと!?カメレオンレディ達は……?」
「お前の上司と先輩達は、私の敵ではなかった。それだけだ」
カシムは構える。彼の瞳孔はムカシトカゲのそれへと変化する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます