1ー⑧
壮吉とカシムは、予めカシムが用意していた脱出口から外に出た。そして、軍の自動車を盗み発進する。辺り一面は雪だらけの雪原だ。
「まずは港へ向かう。ホッカイドウまで辿り着けば助かるし、キミもイポーニャへ帰れて一石二鳥だ」
「……燃料が少なくねえか?」
「行けるところまでは、これで行こう」
炭坑では既に二人の捜索が始まっている頃であろう。 燃料の補給などしている余裕はない。
「なあ、この箱の中身……確かレプティカルっつったか?何なんだこれは」
助手席に座る壮吉は陶器とも石器ともつかない小瓶をしげしげと眺める。
「何億年も前、地球上を支配していた生き物が何か知ってるかい?」
ハンドルを握るカシムは問い返す。
「確か、恐竜っていうバカでかいワニみたいな奴らだろ?実際にいたかは知らんが」
壮吉は上野動物園で見たメガネカイマンというワニの姿を思い出した。
「一般的な学説ではね。だがその頃、既に人類がいたかもしれないというのが新たな学説だよ」
「なに!?」
恐竜が地球上を闊歩していた時代、我々哺乳類はまだネズミのような小さい生き物であり恐竜たち爬虫類から逃げ回っていた……というのは専門家でもない壮吉ですら知っていた。
「ただし、その人類たちは私たちと同じ哺乳類ではなく、爬虫類から進化した人類だ。名を“レプティリアン”という」
人類は猿から進化したと、生物学者チャールズ・ダーウィンが発表してから長らくその説が支持されてきた。当時はアダムとイヴを信じるキリスト教徒からも非難されていた説である。それが今度はアダムとイヴを騙した蛇と同じ爬虫類が人類に進化していたなど、荒唐無稽もいいところではないか。
「……それが本当だとしてよ、なら爬虫人類ってのはどうなっちまったんだ?」
「恐竜と一緒に滅んだとされている。彼らは爬虫類と同じ変温動物のまま人類になってしまった。故に氷河期を生き延びることが出来なかったのさ」
カシムと壮吉は、ともに外の景色を見た。シベリアに吹く猛吹雪。かつて爬虫人類たちを襲った氷河期は、こんなものではなかっただろう。
「爬虫人類たちは高度な文明を持っていた。彼らは爬虫類達の遺伝子情報を薬という形で後世に残した……それがレプティカルさ」
カシムの言葉を聞き、壮吉は再びレプティカルの小瓶を見やる。
「曰く、その薬を飲んだ者は人間離れした力を手にするとか。
壮吉は考えた。 今、自分の手にしている小さな二つの瓶。それを巡って戦が起こり、多くの血が流れ、命が失われた。もしかしたら日本が戦争に参戦した理由にもこのレプティカルが一枚噛んでいるとしたら、自分たち軍人は何の為に戦ってきたのだろうかと。
「……そんなもん、ソ連にもドイツにも日本にすらも渡すワケにはいかねえな」
「私の故郷は今でこそロシアの一部だが、かつては独立した一つの国家だった。だが、竜を信仰しレプティカルに関する言い伝えも残る地でね……だから帝政ロシアの時代に侵略されたのさ」
と、カシムが語ったところで車のエンジンが停止する。ガス欠である。
「ここから先は歩くしかねえか……カシム、眠くならねえ様にお前の事を教えてくれよ」
「フフッ……つまらなさ過ぎて逆に眠ってしまうかもよ?」
二人は吹雪の中、お互いの半生を話しながら歩いた。 カシムは爬虫類と爬虫人類の研究をする為に学者となる事を目指していたが、差別と戦争のせいで進学どころではなくなり軍人とならざるを得なかったのだとか。
「……無事、日本に着いたら帰化しちまえよ。当面の住む所や仕事なんかは俺が何とかしてやる。だから、オマエは夢を諦めるな」
「ソウキチ……」
その時だった。
「……追っ手だ」
来た路を振り返ると、戦車が1両こちらへ向かって来るのが確認できた。
「捕虜と脱走兵の二人に戦車まで出すとは、奴らよほどコレが大事みてえだな」
壮吉はボロボロの服のポケットからレプティカルの小瓶を取り出した。
「聞くまでもないだろうが、どうする?コレを持って大人しく捕まるか、それとも……」
「
壮吉の返事を聞き、 カシムはフッと笑い、同じく懐から小瓶を取り出した。
「生きて、辿り着こう。ニッポンに」
壮吉とカシムは小瓶の口を開け、中のレプティカルを飲み干す。二匹の半爬者は、生き残る為の本能により
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