1ー③

 強盗のワゴン車は爆走する。速度超過も信号無視も、お構いなしだ。これが田舎でなければとっくに警察のお縄になるであろう無法運転。少しでも止まれば、化け物の乗るバイクに追い付かれてしまうからだ。敦賀市内に入った…合流地点まであと僅か。だが、依頼人と合流したところで、迫る化け物をどうするか……そんな事を考えていたため、見落としていた。車道を横切る人影を。ドンッ!という音と衝撃。歩行者を轢いてしまったのだ。


「う、……」


急停止とともに嘘だろ?という言葉を飲み込んだ。 強盗致傷に加え危険運転致傷…いや、かなりスピードが出ていたため、致死だろう。それだけ罪を重ねればもう、1000万円どころの金が手に入ったとて、何とかなる問題では無い。すぐに轢いた相手を救護し、警察へ通報して大人しく出頭する……それが最善の手だったはず。しかし、強盗は再びアクセルを踏み抜き、その場を走り去った。化け物に殺される恐怖が轢き逃げという最悪の選択をさせてしまったのだ。そして、強盗を追跡しながらその光景を見ていた化け物たる男はバイクを停め、轢かれた人物へと駆け寄る。


「何という事だ……」


 轢かれたのは高校生くらいの少年だった。


「私が、あの場で奴らを三人とも仕留めていれば……」


 車両での逃走を阻止すれば、この少年が轢かれる事は無かっただろう……。男は少年の頸動脈に手を当てる。まだ息がある。この場で救急車を呼んだとて、この少年は助かるまい。助ける可能性のある方法はただ一つのみ……

 男は懐から小瓶を取り出す。先ほど強盗から奪った2本の内一つだ。


「君の体が生きる事を望めば、助かる事だろう……すまない。少年よ」


 男は小瓶の口を捻り開けると、少年の口腔に中の液体を流し込む。程なくして、少年の心臓はひどく脈打ち、全身が震え出す。


「…適合した!」


 男の胸の中で少年は両目を開く。縦長の瞳孔をした目と目が合うも、再び目蓋は閉じた。


「特性は守宮ゲッコーか……」


 男は少年を負ぶさり、自らの体に固定すると、再びバイクに跨がる。いつの間にか少年の持ち物から抜き取った、彼の学生証にある住所を探す。宮守 勇 。それが学生証に記載された少年の氏名。


「すまない、守宮少年ゲッコーボーイ


 男はバイクを走らせる。自らの過ちで少年の、人間としての生命を閉ざしてしまった事を謝罪しながら少年の家を目指す……

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