第十章 田中、魔物災害を止める
第1話 田中、博士の話を聞く
「なるほどなるほど! つまりここは私がいた世界とは別の世界で、ここは君たちの世界の海底にあるダンジョンの中であると! 現状は全て理解できたよ!」
異世界から来たというネロ博士は、俺の説明を聞いてそう反応する。
なんて説明がしやすい人なんだ……いやまあ今まで会った異世界人のダゴ助とリリシアが特殊な例なだけなのかもしれないが。
"超速理解で草"
"また変な人が仲間になったな"
"ただこう……なんだろう。今までの二人に比べたら普通だなw"
"そりゃ魚人とエルフのあとに人間が来たらそう感じる"
"充分変人な部類だとは思うけど、いかんせん今までが濃すぎた……w"
"わらわと比べるのがいけない笑"
"わらわー"
《リリシア》"おい! わらわを馬鹿にしとるな! 不敬だぞ不敬!"
"姫様!?"
"わらわも見とる"
"姫様監視中"
コメント欄も盛り上がっている。新しい異世界人が来たからそりゃ盛り上がるか……と思ったけど、よく見たらリリシアがコメントしているから盛り上がっているみたいだ。なにやってんだあいつは。
まあ家でぐうたらしているお姫様は放っておいて、ひとまずこの博士のことだ。
異世界人は重要な存在だ、なんとしても無事地上に送り届けなくてはいけない。場合によってはダンジョン探索を切り上げる必要性も出てくる。
今後の対応を決めるためにも慎重に話を聞く必要がある。
ちなみに堂島さんは近くで俺たちのやりとりを見ている。聞き込みはこの人がやってもいいと思うのだが「異世界人の相手はお主の方が慣れとるじゃろう」と任されてしまった。
言い返せないのが悔しい。
「あの、そんなに簡単に信じて大丈夫でしょうか? 気になることがあればお答えしますよ」
「その必要はない。ここが私のいた世界と異なる次元軸にいることは私も分かっていた。既にこのダンジョンの構造も把握しつつある、海底にあるということも本当だろう」
ネロ博士はそう言うと懐から水晶のような物を取り出す。
そしてそれに魔素を込めると、空中に映像が浮かび上がる。これは……
映し出された映像はダンジョンの立体的な地図であった。真ん中より少し下の部分には赤く光る丸がある。ここは多分俺たちがいる場所だろう。こんなものを作れるなんて異世界の魔法技術は俺の想定していたよりずっと進んでいるみたいだ。
研究馬鹿の牧さんがこれを見たらさぞ興奮したことだろう。
「私は元の世界で次元魔法の研究をしていた。時折こちらの世界にやってくる別の世界の『漂流物』がどこから来たのかを調べていたのだ。その過程で次元の穴を見つけたのだが……研究に没頭していたら穴に落っこちてしまってね。気づいたらこのダンジョンの中にいたというわけだ。念の為いくつも魔道具を持ち歩いていて助かったよ」
「なるほど……」
そしてクラーケンに食べられ、今に至るというわけだ。
ダゴ助とリリシアは何者かの手によってこちらの世界に来たけど、この人は事故でこちらにやって来てしまったみたいだ。
それにしてもこんな海底のダンジョンに飛ばされるなんて運のない人だ。俺たちがたまたまやって来なかったら脱出は絶望的だっただろう。
「クラーケンに食べられたにもかかわらず無事だったのは、その魔道具のおかげ、というわけでしょうか?」
「ああ。私が作った魔道具の力で体の周囲を防壁で覆っている。私は残念ながら戦いの才能はなくてね。いくつも魔道具を駆使してなんとか生き残っていたんだ」
このネロという人物からは妙な底知れなさを感じるけど、強者特有のオーラは感じられない。戦いの才能がないというのは嘘じゃないだろう。
……と、ひとまず今聞いておくことは全て聞けただろうか。
やっぱりこの人は重要人物だ。地上に無事に送る必要がある。俺は判断を仰ぐために堂島さんの方を見る。
「どうしましょうか。やはり一旦地上に戻るべきでしょうか」
「そうじゃのう。幸い魔物災害はまだ起きとらん。一度戻るだけの猶予はあるかもしれないな」
堂島さんは俺の言葉に同意する。
するとネロ博士が「ん?」と反応する。
「その『魔物災害』というのはなんのことだ?」
「魔物災害はダンジョンの中のモンスターが外に出てくることです。こっちの世界ではたまに起こるんです」
「ああ『ダンジョンブレイク』のことか。なるほどなるほど……それを危惧しているのであれば、私を助けるのは後にしたほうがいいだろう」
「どういうことですか?」
「君たちが危惧している『魔物災害』は、間もなく起こると言っているのだよ」
「なんですって……っ!?」
ネロ博士の言葉を聞いた凛が大きな声で反応し、彼に詰め寄る。
彼女の顔は青ざめ、額には汗が浮かんでいる。かなり動揺しているみたいだ。とにかく一旦落ち着かせないといけないな。
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