第3話 田中、ヴェノムサーペントと戦う

『シャアアアアア!!』


 ヴェノムサーペントの一匹が、大きな声を出して俺を威嚇する。

 どうやら品定めが終わり、俺を獲物だと認識したみたいだ。向こうは三十匹、こちらは職員さんも含めて二人(まあリリもいるが)。どちらが有利かは誰が見ても明らかだ。


「ひ、ひいいいっ!」


 悲鳴を上げた職員さんは耐えきれず背を向け逃げようとする。

 するとすぐさま一匹のヴェノムサーペントが彼の背中めがけて飛びかかる。野生動物に背中を向けてはいけないのは鉄則。それはモンスター相手でも変わりない。


 俺はまっすぐこちらに飛びかかってくるヴェノムサーペントに向けて、剣を振るう。


「我流剣術、またたき


 剣閃が走り、ヴェノムサーペントの頭部が切り落とされる。

 頭を失った胴体は根の上にドサリと落ちると、しばらくうねうね動いた後、穴の底へ落下していく。


"うおおおおっ! 倒した!"

"さすがシャチケン!"

"一発で草"

"まあ相手は所詮Aランクやからね"

"いやAランクのモンスターって普通に強いんだけどね……"

"シャチケン最強! シャチケン最強!"

"でもまだ三十匹近くいるぞ。いけるか?"

"足元が不安定なのも怖いね"

"ていうか上層でこれかよ。シャチケン以外に攻略無理だろ"


 一匹倒せば他の個体も逃げてくれないかと思ったけど、残念ながらそうはならなかった。

 敵討ちか、それとも腹を空かせているだけか。ヴェノムサーペントたちは逃げずにジリジリと近寄ってくる。

 やる以外に道はなさそうだ。


「職員さん。背中を向けずにゆっくり後退して逃げてください。後は私が」

「は、はい。よろしくお願いします。ご武運をお祈りしてます……!」



 職員さんは俺の言う通り交代すると、ダンジョンから出て隔壁を閉じる。


「これで一人。思う存分戦えるな」

「てけ! りりっ!」


 胸ポケットから顔を出したリリが抗議してくる。

 どうやら自分もいると怒っているようだ。


"リリちゃん怒っててかわe"

"実際ショゴスはランクEXだからヴェノムサーペントより格上なのよね"

"でもまだ赤ちゃんだからなあ"

"成長したら最強の味方になるでしょ"

"りりたんはあはあ"

"ふんぐるいふんぐるい(脳が理解を拒む声)"

"いやリリたんは成長したらダウナー系激重美少女に成長すると賭けるね"

"俺もそれに須田の命を賭けるわ"

"勝手に須田の命賭けられてて草"


「悪い悪い、リリが一緒だったな。それじゃあ一緒に戦うとするか」

「りりっ!」


 意気込むリリと共に、ヴェノムサーペントを見る。

 奴らはジリジリと近寄り……そして一気に襲いかかってくる。


『ジャアッ!』


 まず一匹が牙を剥き出しにして噛み付いてくる。

 その牙からは紫色の液体が滴り落ちている。もちろんそれは猛毒であり、大型のモンスターをも一瞬で殺すほどの毒性を持っている。

 俺はぴょんと跳んでその噛みつきをかわすと、頭上から相手の脳天めがけて剣を突き刺す。


「よっ、と」

『ジャ!?』


 いかに頑丈な肉体を持っていても、脳を貫かれては生きてられない。まだ体がピクピクと痙攣しているが、じきに動かなくなるだろう。


"瞬殺過ぎて草"

"相変わらずはっや"

"いつの間にか一匹倒してて草"

"でもまだまだいるぞ"

"勝ったな、トイレ行ってくる"


『ジャアアアアアッ!!』


 仲間が二匹も殺されたことに腹を立てたのか、ヴェノムサーペントたちは四方八方から一斉に襲いかかってくる。たとえ一匹がやられても誰かが噛みつけば毒で倒せると思っているんだろう。

 しかしこの程度・・・・の数なら対応できる。


「我流剣術、無尽斬むじんざん


 数えきれないほどの剣閃が走り、次々にヴェノムサーペントたちを切り刻む。

 無尽斬はその名の通り尽きないほどの斬撃の雨を放つ脳筋技だ。一発一発の威力はまたたきに劣るが、その分手数で圧倒的に勝る。

 相手が多数いる場合は非常に有効な技だ。


"な、なにが起こってんだ!?"

"速すぎて腕も剣も見えないww"

"ヴェノムサーペントくんスパスパで草"

"まだこんな技持ってたのかよ!"

"もう少ししか残ってないじゃんw"


 襲いかかってきたヴェノムサーペントをあらかた斬った俺は、一旦腕を止める。

 残る三匹のヴェノムサーペントは死んだ仲間を見て警戒心を強め俺から距離を取った。さて、残りをどう片付けるか……と考えていると、俺の背後にいたヴェノムサーペントが急加速し襲いかかってくる。


『ジャア!!』


 俺は振り返って剣を振ろうとするが、それより早く胸ポケットからリリが飛び出し、俺の肩に乗る。


「りりっ!」


 そして目の下部分、普通の生物なら口があるところから黒い液体をピュッ!! と発射する。

 その液体を顔面に食らったヴェノムサーペントは『ギシャアアアアアア!?』と苦悶の叫び声を上げた後、バタリと倒れる。

 リリの液体が当たった箇所はドロドロに溶けてしまっている。うわ、痛そうだ。


"……え?"

"ひぃ"

"リリちゃん強すぎて草ァ!"

"いつのまにあんなことできるようになったの?"

"さすがEXランク"

"やばすんぎ"

"いあ! いあ!(ひどくくぐもった興奮した声)"

"リリたんもちゃんとショゴスなんやね"


 賑わうコメント欄。

 まさかこんな強くなっているとは思わなかっただろうな。

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