第八章 田中、世界樹に潜るってよ

第1話 田中、発表する

「みなさんこんにちは、田中誠です。今日も配信に来ていただきありがとうございます」


 宙に浮くドローンにいつもの挨拶をして、ダンジョン配信を始める。

 事前に告知していたおかげもあり、視聴者数はぐんぐんと伸びていく。


"来た!"

"待ってた"

"おはケン"

"始まった!"

"一昨日から待ってました!"

"今回は誰か一緒じゃないのかな?"


 コメントにざっと目を通し、その中から視聴者が気になっていそうなことを抜粋する。


「今日はゲストは一緒ではありません。まあリリはいますけどね」


 そう言うと胸ポケットからショゴスのリリが「り?」と顔を出す。

 家に置いておくと色々危険なのでどこに行く時も基本一緒だ。足立とかに預けられるようになるといいとは思うんだけど……まああいつがリリの酸に耐えられるようになったらだな。


"リリたそ!"

"かわい~"

"ショゴたんはあはあ"

"一分の一フィギュアはまだですか!?"

"リリぬい欲しい"

"シャチケン等身大フィギュアも"

"グッズは個人じゃ厳しいかねえ"


 リリの人気は相変わらず凄まじく、グッズ化希望の声が日に日に増えている。

 足立もそれは知っているようで、関係各所に連絡を取りながら進めているらしい。とはいえまだ発売の目処は立っていないので、ここで言うことはできない。

 DXシャチケンソードに関してはもう少しで発表できると言っていたけど……本当に欲しがる人がいるのか疑問ではある。星乃家だけしか欲しがらなかったら流石に泣くぞ。


 ……と、そうだ。あれに関しては報告していいと足立から言われていたんだ。早めに言っておくか。


「えー、みなさまに報告がありますので、ダンジョンに潜る前に報告いたします」


"え、なに!?"

"どきどき"

"まさか……"

"結婚報告か!?"

"俺を差し置いて誰と結婚するんだ田中ァ!?"

"ま、まだ慌てるには早いいいあいsな"

"クッソ慌ててて草"


「実はこの度、新しいギルドを作ることになりました。そして私、田中誠はギルドの社長を務めさせていただきます」


"ええっ!?"

"まじかよ!"

"おめでとうございます!"

"新ギルド作るのだけでも驚きなのに社長!?"

"これは凄い発表だ"

"結婚じゃないのか……(´・ω・`)"

"これからは社畜剣聖じゃなくて社長剣聖になるなw"

"つまり略してシャチケンか"

"変わってなくて草"

"シャチョケンもかわいくてよくね?w"

"あの死んだ魚みたいな目をしていた田中が成長したものだ……(しみじみ)"

"後方彼氏面すな"


 新ギルド発表の反応は上々だった。

 みんな驚き、祝福してくれる。良かった、俺みたいなのが社長になると言ったら非難されるかもと思ってた杞憂だったみたいだ。


"でも社長になったら配信とかできないんじゃない?"

"確かに。それは寂しい"

"てか他に社員は?"

"ギルドの名前はなんですか!?"

"社員募集の予定はありますか!?"

"愛人は募集してないんですか!?!??!?"


 矢継ぎ早に繰り出される質問の数々。

 ひとまず最後に目に入ったやつは無視するとして、一つずつ答えていかなきゃな。


「私は社長という役職になりますが、活動内容は基本的に変えない方針です。今後も配信は続けますのでご安心ください。社員は今のところ自分と友人の二人で、今のところ募集をかける予定はございません。ですがこの先必要になれば募集するかもしれません」


"把握"

"なるほど"

"配信は続けるんだ。よかった"

"安心しました!"

"シャチケンの配信なくなったら生きがいなくなるぞ!"

"その友人が色々裏方やってるのかな? プロデュース力高そう"

"募集かけるまで無職で待機しとくか"

"求人出したらめっちゃ人集まりそうw"


「……あ、そうでした。コラボで度々出ていただいている星乃はアルバイトで採用することになりました。正式に社員として採用するかは分かりませんが、力を貸してくださるそうです」


"え!? ゆいちゃんいるの!?"

"まあ妥当な人選ではある"

"愛人採用ですか!?"

"やはりメインヒロインじゃったか……"

"アルバイト、そういう選択肢もあるのか"

"まあでも知らん人雇うより納得感はある"

"これには強火ファンも沈黙"

"愛人枠やんけ!"


「それと、えー……これが新しいギルドのマークになります」


 スマホを操作して、一枚の画像を配信画面に出す。

 それは白い狼が壊れた首輪を咥えているロゴであった。足立がプロに頼んで作ってもらった物で、かなりかっこいい。俺も気に入っている。


"かっこええな"

"気合入っとるやん"

"ギルドマークはギルドの象徴だからね、大事よ"

"これは犬……じゃなくて狼? ちょっと黒犬ブラックドッグギルドのに似てるね"

"そういやあのギルドのマークはゴツい首輪が硬そうな鎖で繋がれてたな"

"首輪を壊して狼に進化してるのか"

"首輪は須田のメタファーってわけだ"


「ギルドの名前は『白狼ホワイトウルフギルド』です。私がいた『黒犬ブラックドッグギルド』はみなさんご存知の通りとてつもないブラックギルドでした。新しいギルドでは誰もが幸せに働けるホワイトギルドを目指します。そのため名前をこういたしました。充実した福利厚生、活躍に応じたボーナス、各種手当てにフレックスタイム制度の導入。そしてもちろん充分な休日。白狼ホワイトウルフギルドは、誰もが入りたくなるようなギルドを目指して頑張ります」


"おお、凄い気合だ"

"ホワイトギルドやなあ"

"田中がいるだけでも入りたいのに"

"大変そうだけど頑張ってほしい"

"黒犬ブラックドッグギルドほどじゃないけど、ブラックなギルドはまだあるからねえ"

"業界に新しい風が吹くな"

"応援してます"


 予定していたことを全て話した俺は「ふう」と一息つく。

 今の視聴者数は五百万人、この中には外国人もたくさんいる。国内外に向けて充分宣伝になっただろう。

 だがここからが本番だ。今日潜るダンジョンはいつものとは違う、特別なダンジョンだからな。


「さて、告知が終わりましたので本題に参ります。今日潜るダンジョンはこちらです」


 ドローンの角度を変えて、これから潜るダンジョンを映す。

 今までは壁を背にしていたから視聴者はどこにいるか分からなかった。しかし映ったそれを見て一斉にそこがどこかを理解した。


"ここって……!"

"告知からずっと待ってたよ!"

"マジかよ! 中が見れるの!?"

"ずっと気になっていたんだよ!"


 配信画面に映ったのは、巨大な樹木。

 雲に届くほど高く、ビルよる太いその樹はそれ自体がダンジョンなのだ。


 『代々木世界樹ダンジョン』。

 まだ内部構造が把握されていない、最近できたダンジョンだ。

 以前堂島さんにここの調査を依頼されていたが、今日ようやく潜ることになった。

 地上から露出している上部分の調査は政府が終わらせているが、地下の根の部分は強力なモンスターが多くて進んでいない。今日はその部分の調査を配信するのだ。


「それでは業務しごとを始めます。どうかみなさん、最後までお付き合いください」


 ネクタイを締め直した俺はまだ誰も奥に踏み入れていない、そのダンジョンに潜るのだった。

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