第4話 田中、約束をする

「たなか、ごすじんご主人


 なんとリリは簡単な単語の組み合わせくらいなら喋れるようになっていた。

 俺が話しているのを聞いて理解したのか? 学習スピードが速すぎるな。流暢に喋れるようになる日も近いかもしれない。


「おなか、すいた」

「さっき食べたでしょうが」

「むー」


 言葉を覚えるようになったから主張が強くなってきた。

 あまり甘やかし過ぎないように気をつけないといけないな。


"やりとりかわいすぎる"

"私だったら無限にご飯あげて太らせちゃう……"

"餌あげ配信だけで同接1億いくでしょこれ"

"その配信で得た金でご飯を買ってそれを上げる配信をやって……永久機関の完成が完成しちまったなアア~!"

"俺もリリたんに「ごすじん」と呼ばれたい人生だった……"

"[\20000]グッズ……リリたんグッズをください……(切実)"

"田中に飼われたい気持ちとリリたんに食われたい気持ち……心が二つある~"

"だいぶ変態たちが煮詰まってきたな"


 さて、最後に盛り上がりところもできたし、そろそろ配信を止めるとするか。俺も腹が減ってきたしな。さすがに自分の飯は配信外でゆっくり食べたい。


「えー、いいところですが、もういい時間ですので、今日の配信はこれくらいにしておきます。リリの成長経過はSNSにも載せますので、そちらもフォローしていただけると嬉しいです。それではみなさん、今日はありがとうございました」


"おつケン"

"お疲れ様でした!"

"今日も楽しかったぞ"

"おつリリー"

"またリリちゃんの配信お願いします!"

"ちゅーる用意して待ってます!"

"次のダンジョン配信も楽しみにしてます!"


 コメントが流れていく中、俺は配信終了ボタンを押す。

 そして切り忘れてないか三度ほどチェックし直す。配信切り忘れは怖いので毎回こうやってチェックしているのだ。


「ふう。なんとか上手くいったな。リリもありがとうな」

「てけり!」


 リリは元気よく返事する。

 また鳴声に戻ってるな、やっぱり喋るのは疲れるのだろうか。


「……ん? メッセージが届いてるな」


 スマホを開くと、メッセージが届いていることに気がつく。

 差出人は星乃だった。いったいなんだろうと中を見てみると、それはコラボ配信のお誘いだった。


 そういえばスカイツリー跡地での一件以降、星乃と会ってなかったな。

 あの時の埋め合わせも兼ねて、コラボ配信もいいかもしれない。


「堂島さんに頼まれたダンジョン探索まで時間あるし、コラボ配信はちょうどいいかもな」


 そう思った俺はコラボ配信を承諾するメールを送る。

 すると一分もしない内に返信が届く。若い子は返信が早いな。


「えーと『ありがとうございます。では詳しい内容をご相談したいので、よければ私の家に来てくださいませんか』……だって!?」


 まさかの誘いに俺は目を見開いて驚く。

 なんでも星乃の弟と妹が俺のファンらしく、会いたいと言っているそうだ。


 それと日頃の感謝を込めて料理をご馳走したいらしい。

 その気持ちは嬉しいし、星乃の妹弟きょうだいに会ってあげたい気持ちもある。でも女の子の家に俺みたいなのが行って大丈夫だろうか?


 最後に女の子の家に行ったのは……たぶん小学生の時に天月の家に行ったのが最後だ。我ながら悲しいほど経験が少ない。


「どう思う、リリ?」

「てけ?」


 リリは分からなそうに首を傾げる。

 知能的には人間の四歳くらいか? 簡単な言葉は理解できても複雑なことは分からないみたいだ。それでも成長速すぎるけど。


「う~~ん。まあ行ってみるか。断るのも悪いしな」


 葛藤の末、行くことを決意した俺は、星乃にメッセージを送る。

 するとまたしても爆速で返事が来る。


「なになに? 『ありがとうございます。それでは明日の午後からでいかがでしょうか』か。まあ明日はすることもないしいいか」


 俺はそれを了承し、その後も数度メッセージを送り合い細かい時間を決める。

 無事やり取りを終えた俺は「ふう」と一息ついてスマホを布団に放り投げる。


「……今更ながら緊張してきたな。俺なんかが本当に女の子の家に行っていいのか? 加齢臭とかしないか不安だな。大丈夫だと思うか?」

「りり?」


 俺の問いにリリは首を傾げるだけで返事をしてはくれなかった。

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