第5話 田中、電話に出る

「うわぁ……めっちゃ話題になってる……」


 配信事故翌日。

 いつも通り会社の椅子で起床した俺は、SNSやネットニュースを見ながら呟く。


 ネットニュースの見出しはこうだ。


『深層をソロ攻略する謎の探索者現る!?』

『社畜剣聖、S級モンスタータイラントドラゴンをソロ討伐する』

『初配信で同接1億人達成。ギネス申請するか』

黒犬ブラックドッグギルド、探索者労働法抵触か』

『話題の動画、捏造されたものかどうか有識者は語る』


 そしてSNSは、


"あの人強すぎる! なんで今まで話題にならなかったの?"

"黒犬ブラックドッグギルドあんなの隠してたのかよ。そりゃ政府の仕事たくさん受けれるわけだ"

"あの人、俺と社畜どうしな気がする……目が死んでたし……"

"釣られてる人多すぎw 嘘を嘘と見抜けない人はネットしない方がいいですよw"

"めっちゃかっこ良かったんだけど! 誰か連絡先知らない!?"

"普通にうちのギルドにスカウトしたいんだけど、どこに連絡すればいいんだ……"

"なぜ黒犬ブラックドッグギルド辞めないんだろ。絶対もっと高待遇のところ入れるのに"


 などとどこも俺の話題で持ちきりだった。

 これがいわゆる"バズった"ってやつだろうか。仕事漬けの日々を送っていた俺はそういうのに疎い。ネットに強い人の意見がほしい。


「確かにソロで深層に潜る頭のおかしい奴は俺くらいだろうけど……そんなに話題にすることか?」


 俺は首を傾げる。

 確かに最近はソロでしか潜ってないから他の探索者のレベルはよく知らない。


 俺はダンジョンが世界に誕生してからすぐに潜り始めたから、そこそこ強い方だとは思ってたけど……こんなに騒ぎになるほどだろうか。


「んー、考えられるとしたら、俺の見た目が冴えないサラリーマンだからか? スーツ来てるし、見た目は普通のサラリーマンだからな。目のクマ凄いし、とても探索者には見えないよな」


 だからそのギャップでみんな騒いでるんだ。

 そう納得した瞬間、俺のスマホが振動する。


「ちょわっ!?」


 俺は驚いてその場で飛び上がり、思わず天井に張り付く。

 昨日のことがあるのでスマホのバイブレーションに恐怖を感じてしまった。あの通知まみれになった体験はしばらく忘れられないだろうな……。


 もうDチューブとの連携は切ってあるから、同じことは起きないはずなのに。


「なんだ今度は? えーと、ん?」


 天井から降りてスマホを確認すると、そこには「足立満・着信」と表示されていた。

 足立は俺の数少ない友人だ。昔はよく遊んでいたけど、最近は全然会ってないな。忙しすぎて存在すら忘れていたというのが本音だ。


 今このタイミングでかけてきたのは、間違いなく昨日のこと関連だろう。正直そのことはあまり話したくないけど、相談できるのが足立こいつしかいないのも事実。

 俺は少しだけ躊躇ためらったあと、通話アイコンを押す。


「もしも……」

「田中ぁ! 見たよあれ! ひーひっひっひ! 超笑ったわ! ねえ今どんな気持ち!?」

「切るぞ」


 俺はぶちっと通話を切る。

 さて、始業の準備をするか。そう思って机にスマホを置き直した瞬間、また着信の音が鳴り響く。俺は「はあ」とため息をついてもう一度スマホを手に取る。


「なんだよ」

「ごめんごめん! もういじらないから切らないでくれよ……ぷっ」

「また切られたいのか?」


 脅すように言うと、足立はなんとか切られまいと謝り倒してくる。

 全く、調子がいいのは変わってないな。


「分かったよ、切らない。しょうがない奴だな」


 正直今は足立の知恵を借りたい。通話が切れるのは俺にとっても都合が悪い。

 足立は話し上手で交友関係が広い。それに確かSNSにも詳しいはずだ。足立なら今の対処方法を思いつくはずだ。


 足立は通話が切られなかったことに礼を言うと、さっそく本題に切り込んでくる。


「見たぜ動画。相変わらずすげえ強さだな。前より磨きがかかったんじゃねえか?」

「おべっかはいい。それより俺はどうしたらいいと思う?」

「どうしたらいい、か。その前にお前はどうしたいんだ、それを聞かせてくれよ」


 足立に逆に問いかけられて俺は悩む。

 うーん、そうだな……。


「ひとまず出回っている動画を全部消したい」

「はは、そりゃ無理だな」


 足立は俺の願いを一笑する。ひどい。


「お前の無双切り抜き動画の数は100や200じゃ聞かねえんだぞ? それにもう海外にも拡散されてる。『日本に本物のSAMURAIがいる!』……ってな。俺が確認しただけでも五カ国語で既に翻訳されてたぜ。諦めるんだな」

「……そんなことになってたのかよ」


 日本だけならなんとかならないかなと思ってたけど、海外までとは。

 そういえば配信してる時、海外からっぽいコメントもついてたな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る