6.ドンデン返し(3年生3学期)

6-1話 ダブル不倫で婚約破棄



「セレーナ嬢は、第一王子アレックスの子を宿しています」


 王妃が、沈痛な面持ちで、異常事態を告げます。



 王室です。落ち着いた感じの執務室です。


 でも、呼び出された私の心は、全く落ち着いてはいません。



 ソファーセットが“コ”の字にセットされ、テーブルを中心にして、上座に国王夫婦、右手に第一王子とセレーナ嬢、左手に第二王子と私が並んで座ります。


 私の婚約者の第一王子と、第二王子の婚約者のセレーナ嬢が、並んで座るなんて、通常ではありえないです。


 しかし、王妃の説明で、状況が呑み込めました。

 呑み込めましたが、胃がキリキリします。



「セレーナ嬢は、政権を取り戻した隣国の王女であり、送り返しては両国の関係にヒビがはいる恐れがある」


 話す国王も沈痛な面持ちです。


「そのため、送り返すことはできないと判断した」


「第一王子とフラン女侯爵の婚約を、白紙に戻す」

「第二王子とセレーナ女侯爵の婚約を、白紙に戻す」


「そして、第一王子の婚約者を、セレーナ女侯爵とする」


 国王の決定です。



「第二王子様、こらえて」

 私は、第二王子の腕を押さえます。


 第二王子は、怒りが膨れ上がり、第一王子を殴る直前でした。



「国命を承知いたしました。これで失礼いたします」


「さぁ、第二王子様も、一緒に来て下さい」

 第二王子の腕を引っ張り、立たせます。


「待て、まだ」

 第二王子は抵抗します。


「待ちません!」


「痛い、痛いって」

 耳を引っ張り、強引に王室の外へと連れ出します。


   ◇


「へぇー、ここが、あんたのお気に入りのガゼボか」


「王宮で、王族を“あんた”呼ばわりするな」


 王宮の庭園、その一角のガゼボに来ました。


 青空の下、周囲を背丈の高い草花で囲い、ガゼボはパイン材の木目を活かしており、素敵な場所です。


「いいじゃない、誰も聞いてないわよ」


「口調まで違うじゃないか!」


 ワザとです。第二王子の気持ちを静めるためです。



「第一王子が隣国の王女と結ばれる予言、知っているのでしょ?」


「ああ、俺が、第二王子が聖女と結ばれる予言も、知っている」


 そのとおりになったのだから、仕方ないとは言いません。


 予言なんて、しょせんは作り物だから。



「しょうがないなぁ、あんたの愚痴、聞いてあげる」



 第二王子が、うつむきます。


「俺は、栗毛の少女、たぶん聖女を探していた……」


 幼い頃、戦争孤児のような服を着た女の子に助けられたそうです。


 その栗毛の少女を、ずっと探していたんだそうです。



「私は、聖女見習いですが、声をかけて頂けませんでしたね」


「フランは銀髪で、栗毛ではないから」



「それで、栗毛の令嬢たちに、声をかけていたのですか」


 しかし、探していた栗毛の少女には会えなかったそうです。


 栗毛のセレーナ嬢も、探していた少女ではなかったそうです。



「その少女のどこが良かったの?」



「俺が野党に追い詰められた時、栗毛の少女が立ちふさがって、野党を一喝した」


「野党がひざまずいた。あれは聖女の力だと思う。その一瞬のスキで俺は助かった」


 聖女の力で、相手がひざまずくことなんてありませんので、たぶん王家の力だと思いましたが、口には出しません。



 あれ? なんだか、私が金髪大好きになった時の話と似ていますね。


「第二王子様は黒髪ですが、昔は、金髪でしたか?」


「そうだ、俺とばれないようにと、金髪のカツラをかぶせられた」


 まさか、第二王子が、私の探していた金髪の少年でしたか!



「その少女のことを、もっと思い出してみて」


「彼女は、青紫の瞳で、栗毛の下から銀髪がはみ出ていた……え? まさか」


 第二王子のビックリ眼、珍しいものを見せて頂きました。


「まさか、その時にナイフを落としませんでしたか」


「なぜ知っている? あれは王家のナイフだ」

 第二王子が、私を見つめます。


「そんなに見つめないでよ。その少女は……まさかの、私です。」


 今度は、私の方がうつむきます。



 たぶん、青空に白い雲が浮かんでいると思いますが、恥ずかしくて、顔を上げられません。


「ナイフは、後で、ちゃんと返すから……」




(次回予告)

 ダブル不倫にも落ち込まないフラン。次回は、あいつらの裏の顔が暴かれます。

 

 予言では、第二王子は聖女と結ばれる。でも、私は聖女にはならない、、、



あとがき

 読んでいただきありがとうございました。

 18話で完結しますが、現状を、星などで評価していただけると嬉しいです。

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