第46話:男二人での車旅


 高速道路を走る車に揺られながら加速して流れていく景色をぼーっと見つめる。

 俺は今、一ヶ月ぶりに家のある静岡の富士の樹海に向かっていて、逢魔さんに運ばれていた。


「なんか龍華がいないの違和感あるな」

「そりゃあ数ヶ月は一緒にいたもんな、離れられなかったし」

「やっぱそうですよね、まじで変な感じ」

  

 今俺は珍しく……というか、まじで久しぶりに龍華から離れて過ごしている。

 時間にしては約十時間、一緒に居ない時間は半日以下だけどこうも離れてるという事に違和感を覚えるほどには一緒に過ごしていたと考えると普通にやばい。

 本来ならこの状態が普通なのに……とそう思いつつも、俺は一度伸びをした。

 流石に十時間も車に乗っているというのは疲れるし、正直言えば体がバッキバキ。

 飛行機を使えば良いのにと思われるかも知れないが、霊力がかなり多い俺が乗ると空で獣に襲われる可能性があるので使えないのだ。

 最近は更に霊力が増えた、抑える結界が必要と逢魔さんに判断されたし……増やすだけ増やした弊害をまじで感じる。

 霊力というのは例外を除いて十二歳で限界が来るのだが、逆に言えばそれまでは鍛えられるのだ。

 それには才能が関わってくる部分があるけれど、原作主人公の兄でありあの両親の霊力を継いでいる刃ボディが才能がないわけがなく……割と鍛えるだけで伸びるという現状に収まっていた。


「逢魔さん、俺ってもしかして飛行機乗れない?」

「……あぁー、まあそうだなお前の霊力量だとこの車に着いてるレベルの結界でも割とギリだ。飛行機ともなると常時凜が結界を使ってないと普通に襲われるな」

「海外旅行出来ないのかぁ」

「行ってみたいのか?」


 自然と漏れたその一言に、逢魔さんが言葉を返した。

 自分でもどうしてそう言ったか分からないけど、考えてみれば答えが分かる。


「海外にも狩り人育成の学校あるし、ちょっと気になって」


 ドイツとかギリシャとかにも原作で描写された学校があるしで、少し気になっている。高校まで無事に過ごせれば留学生としてそこで出てくるキャラに会えるかもしれないが、ある意味確定している未来的にそれは無理そうだからせめて今のうちに見てみたいというファンの心理だ。


「そうか? それなら一応、出雲大社と天原学園には九曜様の力で作られた転移門があるし、行こうと思えば行けるぞ? まあ相当な成績じゃなきゃいけないが、お前なら大丈夫だろ」

「……そういえば――じゃあ目標が少し出来ました」

「それはよかった。でだ刃、龍華がいないから聞くんだが……お前龍華の事どう思ってるんだ? あの子の親としてちょっーとそこら辺気になるんだが」

「…………黙秘権ってありですか?」


 急にそう聞かれたが、俺としては容易に答えられる物ではなかった。

 理由としては色々あるが……一番に来るのが。


「ねえ逢魔、殺すわよ?」

「………………なかった事にするのありか?」

「いいわ、でももう聞かないでね」


 俺の中にいるとても素敵な相棒様の存在だ。

 今の話を聞いた途端に人の霊力を使って助手席に顕現し、逢魔さんを威嚇した。

 龍華の覚悟を契約解除の後で聞いた日から割と神綺の機嫌が悪く、居るときに態度に出すほど露骨でないが龍華関連する恋愛関係のワードはNGとなっている。


「というか神綺、走行中に出るなケモノが」

「そうね、もう一匹釣れたわ。痛い目見なさい?」

「刃……俺は運転できついから対処頼むぞ」

「神綺、後で説教」

「私は悪くないわ、あの子の話題をだした逢魔のせいよ」

 

 車から外を見れば、狼のような姿をした黒い毛並みのケモノが現れて車と併走し出す。とりあえず術を使う為にも窓を空けて俺はそいつに狙いを定めた。

 対象目掛けて術を練り、ついでだしという事で新技を試す。

 高速道路で派手な術を使えば周りに危険が及ぶし、使える術が限られてしまうが、この技なら平気だろう。

 という事で俺は義手となった左腕から氷の術を発動した。


氷種ひょうしゅ


 技名を呼び、氷の針の中に俺の霊力で出来た種を込め相手目掛けて飛ばした。

 狙いだけ正確にすれば当たるだろうし、小さすぎて見えないだろうから避ける事も不可能。


「――咲け、呪蝕凍花じゅしょくとうか


 相手が車を襲おうと飛びかかってきたときだった。

 俺は埋め込んだ種に霊力を込めて、それを一気に開花させる。

 その瞬間のこと、体の中から無数の氷の華を咲かせてケモノが絶命してそのまま姿を消した。


「うわ……」

 

 逢魔さんが術を喰らったケモノの末路を見て引いたような声を出す。

 これは最近作った術の中でも凶悪というか、漫画では絶対に使われないだろうほぼ即死技――えげつないが、ケモノの霊力によって防がれることもあるし普通に集中力もいるからこう言った余裕ある状況でしか使えないという制限がある術だ。


「ほんとえげつねぇ、今のこれ俺の術を参考にしてるよな」

「流石逢魔さん、気付きますか」

「見せたとは言え、お前のセンスどうなってるんだよ」

「……これに関しては神綺のおかげですね、呪いに関しては彼女が最恐ですし」

「ふふ、いいでしょ逢魔。流石刃よね」

「俺としては最恐タッグ過ぎてドン引きだ。当たり前だが人に使うなよ」


 それは当然。

 こんな術を人に使えば絵面がヤバいことになるの確定だし、俺も好き好んで使いたくはない……いや、そもそも使えないのだが。


「大丈夫です逢魔さん、これ人には使えないので」

「どういう事だ?」

「そこは私が解説してあげるわ。刃ってね呪いの才能がからっきしなの、だから人に使えないという縛りを設けてなんとかこの術を作ったのよ」

「術への縛りか……その分ケモノ相手には使えると」

「ですね、人に使えばそもそも種が溶けて消えます。一応ケモノ避けに使えるかなって思って作った感じですね、思ったよりエグくなりましたが……」

「……子供の発想じゃないな、エグすぎだ。まあ元になるのを見せた俺が悪いか」


 そこで会話を終えて、俺達はそのまま高速道路を使って静岡までやってきた。

 で、車を降りて富士の樹海に入り母親の結界に沿って進んで行く。すると隠されている我が家に辿り着いたので入るためにもインターホンを鳴らした。


『あ……兄様!』


 インターホンに出たのは妹の剣のようで、画面越しに俺の姿をみて喜びに溢れる声を出した。

 その瞬間に聞こえてくるバタバタとした足音、それは二つ聞こえてきて――いや、それどころか何度か家の中で衝突し、霊力が漏れ炎の術と雷の術を感知した。


「えぇ、なにしてんのあいつら」

 

 どったんばったん大騒ぎ、中で暴れながらも玄関に二人はやってきて、家を出た先でも喧嘩してる。


「あぁもう孤蝶! 私が先に兄様と話すんです!」

「知らないうるさい関係ない、今日まで頑張った私が褒められるべき――だから引っ込んでて剣、大人しく二番目になるべき」

「昨日の勝負に勝ったんですから、私に譲るべきです! というか納得してたじゃないですか!」

「記憶にない、捏造止めたら?」

「むぅー!」

「こういう時は感情的になった方の負け、つまり私の勝ち」


 仲良くなったなぁ……そんな風に軽めの現実逃避をしながらも、なんか最後に会った時より感情を出す剣に少しの寂しさを覚えた。


「……ただいま二人とも」


 声をかければ玄関の方で暴れていた孤蝶の霊力が消え、次の瞬間に俺の前に姿を現した。


「おかえり刃、私が最初撫でて撫でて」

「あ、消えるの無しです孤蝶!」


 続いて鍵を開けて剣が現れそのまま俺に突撃してくるのを受け止めて、とりあえず俺は無事に家に帰る事が出来たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る