三章:龍を宿す卯月の姫君
第27話:微かな異変
目の前に迫る数本の岩剣。
相変わらず殺意が高く当たればタダでは済まないだろうその攻撃を俺は冷気で防いでそのまま龍華に接近する。
――そして、彼女に木刀を軽く当て戦闘を終わらせた。
「今日も俺の勝ちだな」
「――え、えぇ……そうね、私の負けよ」
ルールはいつも通りの先に攻撃を当てた方が勝ちというもの。
その戦いが終わって少し動揺したような龍華、そんな彼女に俺は思ったことをそのまま伝える。
「どうしたんだよ、最近お前変だぞ?」
「……そう? 私は変わらないと思うけど、貴方から見て変?」
「そうだな。最近のお前さ、なんか遠慮してるというか攻撃が鈍いぞ? 俺が卯月家に来てからそんな感じだし、なんかあったのか?」
前まで……彼女が十六夜家にいた頃だったら楽しそうに俺に向かってきて、まじで遠慮無く術を使ってきていた。毎回それで苦戦したし俺も楽しかったのだが……どういう訳か、俺が卯月家に来て戦い始めた頃から彼女の様子が変なのだ。
「なにも……ないわよ。貴方が強くなってるんじゃないかしら?」
「そうか? ……いやでも、なんか変なんだよなぁ」
「気のせいじゃない?」
「そうか……まぁ、お前が言うならそうなんだろうが」
「そうよ、だから気にしなくて良いわ――それより今日は疲れたからもう休むわね」
「……ん、了解」
やっぱり変だ。
前までだったらもう一戦と強請ってくる奴だったのに、今は一戦だけでも休むようになった。少し……いやかなり変わった彼女の様子に首を傾げながらも、暇な俺は一人になった道場で瞑想を始める。
術を練り、冷気を出して操って――瞑想しながら道場にいくつかの氷像を作る。
それを何度か繰り返し、とりあえずで干支に関する動物の像を作っていると誰かの足音が聞こえてきた。
「刃なにしてんだ――って寒っ!」
「あ、逢魔さん。瞑想してました」
「ついでに術の練習か、相変わらずどういう精度なんだよお前は――この龍とかめっちゃ精巧だぞ?」
「剣が見たいって言ったので練習したんですよ。今ではこんな感じになりましたし」
それで指さすのは自分で言うのも何だが、めっちゃクオリティの高い東洋の龍。細長く鹿の角が生えたそれは今にも動き出しそうな程の迫力だ。
まぁ霊力を込めれば実際に動くから動きそう……というか動くんだけどさ。
「そうだ刃、お前卯月家に来て三日だが慣れたか?」
「……一応? めっちゃ広いですけど、部屋の場所は覚えましたし皆優しいので慣れてきました」
「それならよかった――だけど悪いな、契約破棄するためとはいえ態々宮崎まで来て貰って」
「まぁ、父さん達と離れるのは不安ですね。かなり反対してましたし」
母さんは龍華を信頼しているからそこまでだったが、前回の交流会のあとから少し過保護? というより過干渉気味の父さんが反対した。
最終的に折れてくれたものの、一ヶ月だけの条件が付く形になったのだ。
それに今回この家に来るにあたって、孤蝶は連れてきてないしある意味完全に一人で来ている。剣の面倒を見て貰う為に残したのだが、ちゃんとしてるかも不安だし……何より、この時期に百獣夜行が来る可能性もあるからでかなり不安。
「まあ前回の交流会があったからな、お前が暴れすぎないか心配なんだろ」
「……俺、そこまで問題児じゃないんですが」
「いや、試練をゴリ押しで突破したお前はそれを言えないぞ……あれはまじでやばかった――そういや気になってたんだが、あの術どうなってるんだ?」
「えっと、説明いります?」
「頼む、術者として気になってる」
そうなったので俺は改めて確認がてらに自分の特性を逢魔さんに説明する。
俺、というか刃が得意とするのは氷属性――そして特殊とも言える冷気の放出能力。通常であれば氷属性というのは水属性を使えるからこそ機能する少し外れともいえるもの……だが、刃の場合は霊力をそのまま冷気や氷に変換する事が出来るのだ。
通常五行に属する属性は変換しやすいからおこりというがラグがないが、雷や氷等の特殊な属性は強力だが少しのラグを必要とする。
「確かにお前の術には氷属性なのにおこりが殆ど無いしな。であの術はどういうものなんだ?」
「えっと俺って霊力使うと冷気出るじゃないですか、それを全部刀の形を持たせて全放出、簡単に言えば殲滅力に特化してる感じですね。当たった端から凍らせます。で、砕きます」
「殺意高いな、発想が子供じゃねぇよ」
「照れますね」
いやぁ、全然まだまだだが原作の刃の術を褒められるのは照れる。
彼が頑張って覚えた証しだし、本当にあれは殺意高めの技だから。
「褒めてねぇよ、お前、聞けば聞くほど思うがかなり特殊な体質だよな」
「全然使えませんが、木属性もありますしね。メインが氷だから使ってないですけど」
「そこムズいよな、属性としての相性が悪いし」
「ですよねぇ……寒さに強い植物じゃないと冷気が強すぎて使えないですし、宝の持ち腐れ感が凄いです」
刃は原作でも木属性を操れていたが、それは原作でもかなり最後の方だったし苦手な部類だったのか妖刀である四季がなければ使えなかった。
逆に言えば神綺と契約して今から四季を貰い練習すれば良いのだが、対価が重いだろうから下手に契約できない。
「まぁあれだ。短い間だが教えることは教えるぞ、それと明日は狩り人の職場体験がある。できれば早く寝ろよ」
「了解です――あ、そうだ逢魔さん最近龍華の様子変じゃないですか?」
「変ってどこら辺がだ?」
そう聞かれたので、さっき彼女に話したことを言えば逢魔さんは心当たりがないのか分からないと言った。
「気のせいじゃないか? 戦闘狂のあいつがそうなるのは想像出来ないぞ」
「やっぱり気のせいなんですかね……」
「だろうな、まあ俺も気にかけてみるぞ」
「了解です――じゃあ俺は部屋に戻りますね」
……とそう言って、逢魔さんと別れたのだが……部屋に戻っても最近違和感が消えず俺はあまり眠ることが出来なかった。
原作でもみたことのない戦闘狂らしからぬ龍華の異変。
あいつが戦いを躊躇するなんて本当に何があったのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます