第24話:VS牛頭


 なんでだよ……そう心から叫びたかったが、目の前に振り下ろされた棍棒にその言葉は遮られた。

 ケモノが集まり生まれた牛頭の鬼、どう考えてもこの年の子供にぶつけるような奴ではない相手の攻撃を避けながら俺は一度龍華の元に戻った。


「どう見る?」

「そうね、ボス的なやつだと思うわ」

「だろうな――そこの雷娘は?」


 ついでに俺等の元にもう一人集まった雷を操る牛の角が生えた少女に声をかけた。さっきまで好き勝手戦っていた面影がなく最初の時のようにお淑やかな彼女は少し不満げな声でこう言う。


「龍華様の言う通りにこの部屋の主的なものかと……あとわたしは雷娘ではなくともえです」

「了解、覚えるわ――でだ今回の交流会は多分俺等の共闘を求められると思うんだが、協力する気はあるか?」

「そうだから九曜様はこのケモノを差し向けたと?」

「だろうな、最初言ってただろ? 力を合わせてってな。だからの読みだが、多分当たってるはずだ」


 九曜は人から外れており、視点がそもそも人ではない。

 人の輝き? ってのを信じているのか共闘or協力というのを好み、気に入った相手に試練を与える性格だ。原作でも数多くの強化イベントを剣に向けてたし、そこは間違っていないはず……。


「一理ありますが、雫様が協力するとは思えませんし……それに、りょう様も共闘には不向きでしょう」

「た、確かにそうだけど……うり坊がいるもん。一緒には戦えるよ」


 雫というのは今は姿が見えない水無月家の子だろう。で、亮というのがうり坊の主だ。今の時代だとサポートメインの亮はともかく、水無月雫は共闘を好まないだろうし、難しいだろうな。


「なら私たちだけでやる? 刃の戦い方は知ってるから共闘ぐらいは出来るわ」

「頼もしいが、巴はどうだ?」

「合わせるぐらいなら出来ます」

「ならそれでいくか。亮は確か召喚術が得意なんだよな?」

「え、あ……うん、まだ未熟だけどでっかいうり坊と小さいのを出せるよ」

 

 最初話したときは敬語だったが、今は少し俺に慣れてくれたのか原作通りの口調になっている。それにちょっと感動しながらも、俺は彼にある事を頼むことにした。


「なら、小さいのを出来るだけ召喚してくれ。相手の攪乱に使いたい」

「分かった……ねえその前に聞いてもいい?」

「なんだ? 別にいいが」

「なんで僕を信じてくれるの? 最初話したときもすっごく真っ直ぐ初対面の僕を信じてくれたし……なんで?」


 あー確か、この子は感情のようなモノが見えるんだっけか?

 あまり詳しく覚えてないが、他者が自分に向ける感情を色で見分ける事が出来る眼を持ってると書かれていた。だからか、初対面で亮を信じ切ってる俺が不思議なのかもしれない。


「んーあれだ。最初のお前は少しおどおどしてたけどさ、戦おうとしてただろ? それが気に入ったからだな。こいつなら一緒に戦ってくれそうだって思ったんだ。実際手伝ってくれただろ? あとはなんとなくだ」

「そう……なんだ。うん、任せて僕頑張るよ。いっぱい召喚するね」

「…………ねぇ刃、私にはなかったの?」

「好き勝手やってたお前が悪い」


 龍華は共闘する必要なかったしな。

 それにあの場で何もしなかったって結果が残ったりするんは違うだろうしで声もかけたのはあるが、そこは言わぬが花だろう。


「あいつは俺達が仕掛けるまで攻撃しないとみた……多分作戦会議は出来ると思う」


 実際、あの牛頭のケモノは今何もせずに俺達を見てるだけだ。

 多分そういう風に作られてるのだろうから、仕掛けるまでは俺等の時間だろう。九曜は乗り越えられるギリギリの試練を与えるとフキダシで書かれてたし、そこは信じて良いはず。心配なのは水無月の子だが、俺等が集まってるのを性格的に聞いてるだろうし、俺等の選択次第で動く筈だ。


「あなたが最初に仕掛けましたし、感想はどうですか?」

「えっと重い速い硬い治る……以上」

 

 攻撃は重いし足速いし体が硬いし再生する。

 端的にそれを伝えるようにしたのだが、今ので納得したのは龍華だけなのか皆首を傾げていた。


「刃君……でいいんだよね、他にはないの?」

「鬼で牛なら元になってるのは牛頭だろうし、炎でも吐くんじゃないか? ぐらいだな」

「……ならあなたは相性悪くないのですか? 見た限り氷の属性でしょうし……」

「まぁ憶測だし、吐いてこなければ大丈夫だろ……で、問題は体が硬いから今の俺の刀じゃ多分攻撃が通らない――だから火力役として龍華と巴にそれを任せたい」

「理由は何でしょうか? あなたはわたしの事をあまり知らない筈でしょう?」


 そう言われるとそうだ。

 龍華の事は理解してるが、状況的に見て巴の技を俺は知らない。

 だからその疑問は最もだろうし、多分説明しないと不味いだろう。


「まあさっきの戦いをみてぐらいだが、霊力かなり余裕を残してるだろ? それで雷使いなら火力には申し分ないと思ってさ」

「確かにそうですが、見ただけで分かる物なのですか?」

「まぁ霊力感知は得意だし……で、任せられるか?」

「それなら納得は出来ます。龍華様はどうですか?」

「私はいいわよ、共闘も楽しそうだしね。だけど、皆合わせてくれるの? ついてこないなら私一人で倒すわよ?」


 言うと思ったよこの戦闘狂。

 龍華の事だし共闘自体は賛成だと思うが、今言った通り好き勝手にやって合わせろという方針を取るだろう。


「知ってた、だから巴とお前を火力役にしたんだよ。お前等二人のサポートぐらい、俺と亮で行けるからな」

「ぼ、僕!? 頑張るけど……」

「だから共闘と言っても好き勝手にやれ、サポートは任せて全力でな」

「ふぅん、それ……私に対する挑戦よね?」

「そうだが? お前一人のサポートぐらい出来るって話だよ」

「へぇ……じゃあ、やってみなさい刃!」


 それが開始の合図だった。

 巨大な岩剣がいきなり生まれ、それを牛頭の鬼……牛頭ごずに向かって叩きつけた。肩から腹に向けて切り裂かれる牛頭、だけど数秒で再生し棍棒を持って暴れ始める。


「あの二人の関係何なんでしょうか……とりあえずわたしも行きます」


 それを見届けた巴が雷を纏う刀で斬りに行き、俺はそれに合わせるように周囲に冷気を広げた。

 共闘でサポートするなら全力出した方が範囲が広がるだろうからとりあえず部屋全体に冷気を放出しそれ全てを操る。

 牛頭の攻撃に合わせて盾を作り防ぎ、相手の視界部分に粉雪を飛ばし邪魔をした。


「いけるよ、刃君。召喚する」

「了解だ――足元付近に頼む、指令は一任するぞ」

「うん……頑張る!」

 

 召喚される十数匹のうり坊、最初に指示した攪乱という役目を果たしてくれるのか、牛頭の付近で暴れ続け突撃したり集中力を減らしたりとめっちゃ活躍してくれた。相手はそれで隙を晒し、それに合わせてか龍華と巴が一気に刀を振るう。

 巴は雷をビームみたいに放ち、龍華は数本の岩剣を射出。

 その二人の攻撃は、牛頭の体と頭を完全に破壊し――一見倒したように見えた。


「まだ動く……タフなのねこのケモノ」

「今のが一番使える技なのですが……」


 また再生する牛頭、そのケモノは攻撃してきた龍華と巴に視線を送り有り得ない声量で叫び始めた。完全に怒り心頭という様子、棍棒に炎すら纏ったしかなりヤバいだろう。だけど――その瞬間に今まで無かった声がここに響いた。


「皆様、前座をありがとうございます。あとはわたくしが決めますね――蛇炎葬送じゃえんそうそう


 今までどこにいたんだ? 

 そんな問いをしたくなるほどの蛇が牛頭の体に噛みついていた。その蛇達は彼女は技名を叫んだ途端に赤く光り出し、凄まじい熱量を放ち始めた。

 そして起こる大爆発、それは相手の体を炭にして完全に焼焦がす。


「ありがとうございました。これでお母様に褒められます」


 ……やっぱりこの子なら狙ってたよな。

 水無月雫、彼女はかなりのマザコンでありどこまでも完璧でいようとするそんなキャラ。姿を現さない時点で、漁夫の利を疑ってたけどやっぱりやった。

 どうせ大人達に観戦されてるこの場で、一番の狩りタイミングをステルス出来る彼女が見逃すはずないだろうしな。


「これで終わりでしょうか? なら速く戻りたいのですが……」

「……貴女、変わってないのね雫。私達に何か言ったらどうなの?」

「礼は伝えましたよ? 感謝してるのは本当です」

「……正直、姿が見えない時点で察してはいました。ですが本当にやるとは空気が読めませんね、相変わらず」

「狩れなかったお二方が悪いのでは? トドメを狙いましたが、それはあくまで倒せてなかったからです。あれで死んでいたのなら何もしませんでしたよ?」


 女……こわ。

 何このピリピリしてる空間、一触即発というか実際に雷を出してキレてる巴を見るにマジで怖い。亮もビビってるようで俺の後ろで困惑してる。

 しかし、おかしいぞ。

 流石にあれを受けて生きてる訳ないし、なんで部屋が戻らないんだ?

 九曜の試練はこういう部屋で行われ、終わったら元の部屋に戻る方式……それを考えるともしかしてまだ終わってないのか?

 軽く敵の気配を見れば、そこに確かな気配が残っていた。


「でも、確かに戻れないのはおかしいわね――って刃はどうして刀を構えてるの?」


 炎の中、立ち上がる牛頭の姿を見た。

 そいつは自分を殺しかけただろう雫へと棍棒を構え、一気に振り下ろす。

 死にはしないと、確かに九曜は言っていた。そうそれも原作通りの方式、だけどあれには問題が……この試練で死んだとき痛みはあるのだ。

 そんな痛みをまだ少女である彼女が耐えられるわけがない――だから俺は、彼女を突き飛ばし刀でその棍棒を受けた。


「あら、凄いわね。水無月の子はやられるのかと思ったけれど……よく防いだわ」

 

 ――――――

 ――――

 ――九曜の声だけが響く、あの巨大な棍棒を受けた俺は刀を砕かれ直撃を受けた。血を流し、目眩がする。

 耳も遠くなったのかさっきの声もあまり上手く聞こえない。でもよかった。あの少女は無事だ……。


「そうだ生き残った記念にアドバイスよ。その子、五人分ぐらいの霊力を合わせてた攻撃じゃないと死なないわ。そう調整したもの」


 最後のは聞こえなかったが、ようはまじで五人力を合わせて倒しましょうって事か? はぁ、流石の九曜だな。今の言葉に嘘はないだろうし庇った俺を見ての心からの賞賛を込めた言葉だろう……だけど、今ので皆が怯んでる。

 きっとこんな風に傷を受けるようにされてるとは思ってなかったんだろうな。

 それに俺がまともに動けないのも皆には伝わってるはずだ……だからこそこの状況は絶望的。龍華でさえ、俺が傷だらけなのに驚いていて目を見開いている。


「――なぁ、九曜様? 五人分の霊力があれば良いんだよな?」

「そうね……あればの話だけどね」

「へぇじゃあ――やってやるよ」


 既に眩み始める意識でそう言った。

 俺は覚えてるどんな場面でも刃は諦めなかったことを。

 兄弟である剣がいくら強くなっても逆境で力を発揮し、もう一人の主人公と思える程にその姿は輝いていた。

 だから、俺も刃なのなら――やるしかない。 

 相手の牛頭の棍棒が迫る――炎を纏った一撃は動かない俺目掛けて放たれた。


「――氷界」


 だけどそれは俺が全力で放った冷気に防がれる。

 棍棒の一撃を防ぐほどに強く放たれるそれは、俺の全霊力を解放したもの。

 ――いま言った名の通り、これから作られるのは氷の世界。

 俺が意のままに操れる――結界モドキだ。

 これは刃が自分の力のみで至ったものの一端、俺如きでは再現できないモノだが、今はそれを真似するしかない。幸い鍛えた霊力だけはあるのだ。

 全力でゴリ押してでも再現してやる。

 モドキで良い、だってこの程度の相手なら刃の技の一割で事足りるから。


「冷気収縮――氷刀抜刀」

 

 溢れる冷気を全て刀に変える。  

 一本一本が敵を凍り付かせる程の冷気を纏わせた兵器と言ってもいい。

 それを俺の背後に大量に作りその矛先を牛頭へと向けた。


千刀風雪せんとうふうせつ――乱れ桜」

  

 千までは再現できないが、氷で出来た刀達が一気に牛頭目掛けて放たれ完全に相手を破壊する。

 そして、それを見届けた俺は――眠るように限界だった意識を落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る