推しが私を好きなのは解釈違いなんだってば!!
夜摘
第1話 ★彼は私の推し★
「
最初にそんな風に言い出した子が誰だったのか、今の私はもう覚えても居ないのだけど、この出来事自体は私にとって決して忘れられない出来事になった。
言われた言葉は、本当に「そんなこと言われても…」としか言いようがなかったが、確かに私の名前は陽子だし、性格が暗いのも自覚していた。それに、あの頃の私は今よりもずっと幼くて、純粋で、繊細だった。
だから、その自覚のない無邪気な悪意に突き刺された時、何も言い返せずに、ただ困った顔をするしか出来なかったんだ。
「…え、…えっと……」
「陽キャじゃなくて、陰キャだよな。陰キャだからインコの方が似合うんじゃないの?」
「キャハハ!インコだって!」
「でもインコの方が喋るじゃん。インコ以下なんじゃないの?」
私の名前をネタに私を笑いものにしているのに、私の気持ちだけは蚊帳の外。その子たちは、とても楽しそうにギャハギャハ笑いながら私を指さしてくる。
私は凄く嫌な気持ちになっていて、悲しくて、苦しくて、でもどうすることも出来なくて、ただその時間が早く過ぎてくれることを祈ってた。
そんな状況を変えてくれたのは、クラスの人気者の
「何やってるんだよ。下らねぇイジメみたいなこと言ってるんじゃねーぞ」
普段は明るくていつもニコニコしている彼からは想像もつかない剣幕で、口調も荒くて、凄く凄く怒ってるみたいで、私も、私の周りにいた子たちも凄くびっくりしていた。
「名前弄りとかダッセーことやってる暇があったら、宿題でも部活の練習でもした方が良いんじゃないの?」
彼の冷たさすら含んだその言い方と視線に、それを向けられた子たちは酷く慌てて、そんなつもりじゃなかったとか、ちょっとふざけただけだったとか口々に言い訳を捲し立てて、そのまま逃げて行ってしまった。
勉強も運動も出来て、明るくてみんなの人気者で、いつもクラスの中心にいる池照くんに嫌われてしまうのは、あの子たちにとっても望むところではなかったんだろう。
「…あ、あの…、ありがとう…」
その場に取り残された私は、目の前で起きていることにまだ理解が追い付いていなくて、去って行った子たちの方を眺めながら、まったく…みたいな顔で、ため息をついている池照くんの横顔に、絞り出した声で何とかそうお礼を言うことしか出来なかった。
「あ」
私の声に反応して、照池くんが私の方を振り返る。
「あいつらが何かごめんな…。もうあんな風に絡んだりしないようにちゃんと俺も言っとくからさ」
普段仲良くしている友達である彼らが私を虐めるようなことをしたことで、池照くんは責任を感じてしまっているようだった。別に彼が悪い訳でもないのに、助けてくれただけでなく、こんな風に言ってくれるなんて思ってもみなくて、私はまたびっくりしてしまった。
ただ、彼に謝られるようなことはされていないので、ぶんぶんと顔を横に振ることしか出来なかった。
私のその反応に、池照くんは少しだけほっとしたような顔をしてから、明るい笑顔を浮かべた。
その笑顔は本当に眩しくって、私は溶けてしまうんじゃないかと思うくらいだった。
彼にとっては、クラスメイトにいじめをするような人たちが許せなかっただけで、私が特別だった訳じゃない。彼は虐められたのが私じゃなくても、その人をきっと同じように助けていたし、その人にも同じように笑顔を向けてくれたはずだ。
そんな風に強い正義感と責任感を持つ彼に、誰よりも優しい心を持っている彼に…、私は幼心に強く強く憧れた。嫌なことをされても、黙っていることしか出来なかった私にとって、彼は…文字通り太陽みたいな人だった。
この時から、池照くんは私の推しになった。
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