2.5次元俳優は異世界を満喫する
葎璃蓮
第1章:はじまりはじまり
第1話◆2.5次元俳優は異世界に転移しました
2.5次元俳優。
マンガやアニメ、ゲームなどの2次元の世界を、現実の3次元で舞台化・ミュージカル化した場で活躍する俳優のことである。
どことなく幼さは残る顔立ちに低めのボイスで紡がれる歌と、幼い頃より習っていたブラジリアン柔術のおかげで力強く躍動感のある踊りが人気の秘密だった。
二度にわたるカーテンコールと感謝の言葉を述べ、深々と頭を下げて重厚な幕が下りるのを待つ。
この幕が下り切る瞬間を羅楠は心から望んでいた。
全世界で蔓延した流行病の影響もあり、座組誰一人として欠けることなく走り切ることを目標に掲げていたのだ。
それを達成できたことが、羅楠の胸を一杯にしていた。
(長かったようで短くも思えたな……)
東京から始まり、仙台、名古屋、大阪、兵庫、福岡ときて東京凱旋公演。
全45公演というタスクの消化。
ほぼ二か月間にわたる公演をやり切った。
とすん、という音を聞いてから羅楠は頭を上げた。
幕の向こうでは退館のアナウンスが鳴り、大勢の人の嬉々とした声が聞こえてくる。
この瞬間、羅楠は英霊騎士イシュラーク・フィンメルクではなく、星屋羅楠として思考を切り替えた。
これから主要スタッフと演者だけでちょっとした打ち上げの予定が入っている。
ちゃんとした打ち上げは舞台装置やらセットなどが撤去された明日の夜になるのだが、その前のお疲れ様会の様なものだった。
(さて……俺も荷物をまとめて……っと!?)
舞台の中央に立っていたので踵を返して舞台袖に行こうとした瞬間、彼の体が大きく傾いた。
舞台の真ん中にはぽっかりと大きな穴がある。
通常そこは奈落と呼ばれる舞台の一部が競りあがる装置がある場所だった。
この【英霊騎士と蔓薔薇の姫】でも何回か使われるギミック。
しかし、カーテンコール後は全員がはけるまで装置には手を加えない。
なので、空いているはずのない大穴に、羅楠はあっけなく姿を消した。
いつの間にか何の音もしない事に、違和感を覚える間もなく……。
◆◇◆◇◆
「あれ?ここは……」
見知らぬ天上ならぬ、見知らぬ空だった。
何故見知らぬと断言できるのかは明白。
空にはでかい星がくっきりと、大陸の小島まで確認できるくらいの大きさで浮かんでいたからだ。
(なんかこんなアニメあったな?)
大気の関係でうすぼんやりとはしているが、ここまで雲も海も島まで見えるもなんだな、と羅楠はぼんやりと思った。
それに、植生も違う。
草原の上で寝転んでいるようだが、横を向いた時にそう確信している。
何せ、目の前には宝石で出来た花がいくつも生えていたからだ。
(綺麗だな、なんだろうかこれ……)
と思った瞬間、その宝石花の上に説明文がポップアップされた。
(!?)
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
宝石花【ビジューフラウ】
大変貴重な花。
最高級ポーションの材料。
アクセサリの材料。
魔道具の材料。
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「なんかとんでもない物きたーーーーー!!!」
がばり!と体を起こして辺り一面を見回すと、この宝石花が一面に咲いていた。
そしてぴこん!という音と共にメールが届いた旨のポップアップが……。
「なんでもありだな。メール開封っと」
難なく対応出来ているのは羅楠が前回の部隊で異世界転生もののメインキャラクターの一人を演じたことと、根っからのオタク趣味が関係していた。
なにせこの職業を選んだものオタク気質が起因となり、絵も文章もカラオケもやりまくり、それでも満足できないからと劇団主催の合同オーディションを受けたからだった。
そこで彼をスカウトしたのは帝絵夢オペラ劇団という所で、新規ながらも2.5次元舞台やミュージカルをメインに仕事をしている事務所だった。
日本最大の財閥である下村華財閥が親元で、創始者の下村華が劇団好きだったことからの創設だった。
団員の希望者にはワンルームマンションという名の寮が用意され、朝昼夜夜食も込みで毎月5万円という破格の家賃だった。
そこで最大30人を収容できる食堂、24時間入り放題の大浴場、朝8時から夜22時まで利用可能のフィットネス、小さなシアター室、図書館も擁していたので、羅楠は大いにそれを活用していた。
最初は仕事は端役だったし、バイトも掛け持ちしてなんとかやりくりしていたが、人気俳優となった今でもそこに住んでいる。
メールを開くとこんな文面が目の前に現れた。
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星屋羅楠 様
厳選なる抽選の結果、当世界への転移にご当選されましたのでお知らせいたします。
つきましては【初心者パック】【初日30日間毎日無料ログインボーナス】【初回ボーナス装備パック】をご進呈させていただきます。
上記リンクに振れればイベントリに収納できますので、ご確認ください。
今後とも当世界をご堪能下さい。
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「チケットが当たったていで何言ってんだ???」
羅楠はがっくり、と脱力した。
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