第29話 俺とお前と、ぶった斬り!

 こんなもんか。

 ぶっちゃけ、もっとヤバいもんが出てくるかと思ったが、マジでこの程度かよ。


「へっ?」


 目を丸くする武井くん。悪いが、ライドと菜々華も同じ感想だぜ。


『配信映えはしそうだが、随分と退屈なものが出てきたな』

「一太刀で十分だね♪」


 ちゃきん、と刀を構える菜々華の隣で、俺のハンマーがライドのスキルで変形してゆく。モンスター相手なら殴るよりも、斬り倒してやるほうがずっといい。

 鋼は色を変え、シルバー・サムライと同じような白銀の剣へと形作られる。

 ただしサイズは、並じゃない。俺の身の丈の倍はある。

 これなら遠慮なく、トライヒドラの首を揃えて斬り落としてやれるからな。


「随分とデカい武器を造ったな、ライド!」

『巨大なボスを巨大な武器で斬ってしまうのは、ゲームだと最高に盛り上がるシーンだ! 配信でもそれは変わらないさ、コメントを見てみたまえ!』


 言われるがままに視線を落とすと、なるほど、こりゃあいい。


“やっちゃえ”

“キタ――(゚∀゚)――!!”

“今時キターは古いだろ”

“ぶちのめせ!!”


 俺も最高にイカしてると思うが、それ以上にコメント欄は大盛況だ。

 ついでに言うと、こんなデンジャラスなバスターソードを見た武井は腰を抜かしてる。


「な、なんだ、お前らどうしてビビらないんだ!?」


 目を白黒させる武井には、言ってやっても理解できないだろうけども、言ってやるか。


「こっちには、サイコーの相棒がいるんでな! 怖くもなんともねえんだよ!」

「RKくん、それって私のこと?」

「ああそうだ――じゃなくてぇっ! こんな時まで炎上の火種を作るなよーっ!」


 菜々華は油断すると、すぐに火のついた爆弾をぶち込んでくる。

 本人は無自覚なんだろうし、相棒認定は嬉しいけれど、今は勘弁してくれ。


『黒鋼、僕のことを言ってくれているのかな?』


 マスクの中でだけ聞こえる声に、俺が頷く。


「偶然だろうが何だろうが、俺はお前のおかげで強くなれた。感謝してもし足りないし、今度はお前のために、俺が何でもする番だぜ」

『……僕も、君についていってよかった』


 気のせいかな。俺とライドの会話を、菜々華がにこやかに見つめてる気がする。


『とりあえず今は、最高視聴率を叩きだそうじゃないか! やるぞ、黒鋼!』

「やるぜ、ライド! 菜々華も、一撃であのモンスターを倒すぞ!」

「うん! 一撃必殺は、華神一刀流の本領だよっ!」


 俺と菜々華が武器を向けると、トライヒドラが襲いかかってきた。


『ギシャアァ―ッ!』


 牙から漏れる毒。ぎょろりと見開いた目。

 どちらも、何かを喚いている武井の憎悪の集合体だ。

 だったら――すっぱり、斬ってやらないとな!


「どりゃあっ!」


 二人がさっと横に分かれて、突撃してきたヒドラの頭に武器を突き刺した。

 俺は二頭、菜々華が一頭。青い血が噴き出したのは、クリーンヒットの証だ。


『ギャギイ!?』

『ギョッゴオオオッ!』


 ヒドラの絶叫が轟く。

 それを合図に、俺達が獲物を突き刺したまま一斉に駆け出す。

 するとどうなるか、って?

 ウナギのかば焼きの要領で――ヒドラは頭から真っ二つになっていくんだよ!


『『ギイイイガアアアアアッ!』』


 絶叫が血と共に噴出し、武器を染め上げる。

 瞳から光が消えても、手も足も止めない。目指すは一つ、一刀両断だ。


「「おりゃあああああああッ!」」


 俺と菜々華の声が重なる。

 華神一刀流の刃と、人知超越の鋼の刃すらも重なった時――。





「「でりゃあああッ!」」


 斬。

 果たしてトライヒドラは、真っ二つになった。とんでもない量の血が辺りを染め上げたさまは、モンスターが生きているはずもない、紛れもない死の証左だ。


“すげええええ”

“最強最強最強!”

“かっこよすぎる”

“おおおおおお”

“おおーっ!”


 家屋ほども巨大なモンスターの死骸が自重を支えられなくなり、ぐらりと倒れ込む。

 その先にいるのは、ただ一人。武井喜一郎だ。


「あ、ちょ、やだやだやだ待って待って――へぶぎゅうううっ!?」


 逃げることも忘れた武井は、トライヒドラの亡骸に圧し潰された。

 武器を消し去った俺も、刀をしまった菜々華も驚かない。


「ライド、武井は死んだか?」

『心配する必要はない。多くの骨が砕けて内臓もやられているが、生きてはいるぞ』

「そりゃよかった。なあ、シルバー・サムライ?」


 菜々華に声をかけると、彼女も胸を撫で下ろした。


「うん、よかった。これで、私が首を刎ねてけじめをつけられるね」

「よせよせ、今回はしかるべきところに引き渡して終わりにしようぜ」


 菜々華がほっとしたのは、自分でかたをつけられるから、みたいだ。

 相変わらず怖いな、この薩摩ガールは。


「……ふう。かくして悪は滅びた、ってやつだな」


 とにもかくにも、これで一件落着だ。アンダーグラウンドの件は、それこそ大人にでも任せればいいだろうし、俺の仕事はここまでってわけ。

 なんて考えてると、モニターにあるページが表示された。


『勧善懲悪とは、いつの世も人の心を賑やかすものだ。その証拠に黒鋼、チャンネル登録者の項目を見てみろ』

「え? 登録者って……あっ!」


 ライドが見せてくれたのは、『RKの目指せ登録者100万人』のページ。

 登録者の項目に、俺の目は釘付けになった。

 菜々華がひょいひょいと顔を覗き込んでくるのも、まるで気にならない事実がある。

 そこにあるのは、登録者数。




 『RKの目指せ登録者100万人』。

 ――今日この瞬間、チャンネル登録者が100万人になった。



 俺とライドの歓喜の声が、ダンジョン中に響き渡ったのは、言うまでもないだろ!

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