第27話 悪党撃滅・超爽快っ!

 ライドの高速移動のおかげで、ダンジョンで菜々華に合流できたのはラッキーだった。

 アンダーグラウンド・エンターテインメントのピエロマスクと、すっげえ顔をしたシルバー・ネイバーこと武井と戦うなんて、不利に決まってるしな。

 要するに、俺の予想は当たってたわけだ。

 武井はあいつらとグルで、菜々華をおびき出して悪事を働くつもりだったんだ。


「初めましてだな、アンダー……長いわ、アンエーとかでいいか?」


 ま、俺が来たからにはこれ以上の乱暴はさせねえよ。

 ライドの擬態能力はすごいんだぜ。全身を金属でコーティングして、鏡の要領であたりの風景を反射させて紛れ込むんだ。

 あいつら誰も、俺が最初からここにいるって気づいてなかったな。


「ど、ど、どうしてここに……!?」


 ピエロ連中は騒然として、武井は口を金魚みたいにぱくぱくさせてやがる。

 悪党が予想外の事態でテンパるのを見るのは、いやあ、楽しいもんだ。


「もとからお前に目をつけてたからな。ここに来る前にシルバー・サムライと合流して、お前が卑怯な手段を使ったらヘルプに入るって約束をしてたんだよ。もしも本当に一対一の決闘なら、手を出さないともな」

「ひ、卑怯ですよ、シルバー・サムライ! 仲間を連れてきているなんて!」

「キミの後ろにいる人達を見ても、同じことが言えるかなあ」

「うっ……」


 まったくもって、菜々華の言う通りだ。

 そもそも仲間を連れてリンチを企んでたのは、お前の方だろうが。


「さてと、お話はもういいだろ。シルバー・ネイバー、お前を……」


 俺が右手に力を込めると、地中の金属が集まって形になる。さすがに人間をぶった斬るのは抵抗感があるから、使う武器は柄の長い、鋼鉄のハンマーだ。

 ぐるぐると回したそれを構えて、俺は菜々華に目を向ける。

 隣り合う彼女が刀を振るい、笑顔で頷いたのを見て、俺は敵を睨み――。





「――ぶっ潰す」


 彼女と一緒に、大悪党に向かって駆けだした。


「み、皆さん! 何をぼさっとしているんですか、あいつらを殺すところを動画に収めてくださいよ! さっさと、さっさとしろおおおっ!」


 一方で敵も、武井の喚き声に従うかのように迫ってくる。

 様々な武器を携えて突進してくる奴らは、確かにピエロの仮面と相まってヤバい連中にしか見えない。もしも急に遭遇すれば、恐怖で動けなくなったところをグサリだ。

 けど、残念だったな。俺にはライドがいるし、菜々華は実戦剣術の達人だぜ。


「はああっ!」


 最初に飛び出したのは、菜々華だった。


「ぎゃああああ!」

「腕が、腕がああッ!?」


 てっきり峰打ちでもしてやるのかと思ったけど、まったくそんなことはない。普通に敵の攻撃をかわして、すれ違いざまにピエロ達の腕を斬り落としていく。

 いつものほんわかぽやぽや薩摩っ子は、もういない。一度戦場に降り立ったなら、菜々華は文字通りのサムライになるんだ。


「ありゃあすげえな……俺も負けてられねえよなッ!」


 もちろん、俺だって菜々華の活躍を見てるばかりじゃない。

 ハンマーをライドの助力付きで思い切り振りまわしてやれば、直撃した敵のマスクが叩き割られて、中から歯とかが飛び散る。もちろん、相手は一撃でノックアウトだ。


「うぼごぉっ!?」

「がびゃっ!」


 ほんの数秒で再起不能になった奴を積み重ねながら、俺は思わず笑った。


「菜々華が決闘を配信しない理由が分かるぜ。こりゃあバイオレンスすぎるな、ははは」


 すると、マスクの中からライドの声が聞こえた。


『黒鋼、そのことなんだがもう配信をしているぞ』

「でえぇっ!?」

『こんな最高のチャンスを、僕が逃すはずがないだろう?』


 おいおいおい、マジか。

 冗談だろうと思ってたけど、モニターにライドが表示させたのは配信の画面。映ってるのは、間違いなく俺の視界だし、コメントもとんでもない勢いで流れていく。


“アンダーってマ!?”

“ほんとにいたんだ”

“クソダサハンドルネームくんオッスオッス!”

“RK、こいつらぶっ飛ばせ!”


 確かに配信ははちゃめちゃに盛り上がってて、登録者数も同接数も信じられないほど伸びていく。リンクがどこかに貼られたのか、勢いは留まるところを知らない。

 そりゃそうだ、存在しない悪の組織を、超人気配信者と仮面の男がぶっ飛ばしてるんだから。第一、バイオレンスな絵面ってのは盛り上がるって相場は決まってんだ。

 だけど、流石に黙ったまま配信し続けるってのはよくないよな。

 かぎ爪を振るってきた敵を地面に叩きつけて、ハンマーで右手を潰し、俺は叫んだ。


「シルバー・サムライ! すまん、今この光景は配信されてる!」

「うーん、うちの流派だと決闘の宣伝は切腹なんだけど……今回だけはOKだよ♪」


 ピエロ仮面の顔に一文字の傷をつけた菜々華は、俺ににっこりと微笑んでくれた。

 うーん、切腹か。介錯は任せたぞ、菜々華。

 今更だけど、菜々華の笑顔がいつもより明るく見える。血しぶきを浴びて笑うのもかわいいんだが、なんというかやっぱりサムライなんだなあ。

 なんて考えてるうちに、敵の数はたちまち半分以下まで減っていた。


「おらぁッ! ホームランッ!」


 で、たった今俺が数メートル先までフルスイングで吹っ飛ばして、半分以下。

 骨がバキバキに折れてるかもしれないが、外に出れば助かるさ。きっと。


“やっぱめちゃくちゃ強いな”

“シルサム最強! シルサム最強!”

“敵も大したことないじゃん”


 そんでもって、コメントも大盛り上がり。菜々華には悪いが、これも超爽快だ。

 ところでなんだが、アンダーグラウンド・エンターテインメントの連中はいよいよ俺達との戦力差に気付いたのか、じりじりと後ずさりし始めてる。

 互いに顔を見合わせてる辺り、撤退しようかどうかって考えてるんだろうな。


「シルバー・ネイバー。もうお前のお仲間は、戦ってくれないみたいだぞ」

「降参するなら今のうちだよ。侍なら潔く、負けを認めようね」


 俺と菜々華が背中合わせに武器を武井に向ける。

 いいね、コレ。モニターの中でライドも頷いてるけど、超カッコいいぞ。


“おおおおお”

“うおお!”

“RKいけ!”

“クソザコ童貞たおしてやくめでしょ”


 ついでにやっぱり、コメントも超大盛り上がりだ!


「RK……お前、おまええぇッ! どうして僕の邪魔をするんだああぁッ!」


 おっと、武井がすっかりおかんむりだな。

 そんじゃあお望み通り、悪党の親玉をぶちのめすとするか!

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