第7話 映っちゃった!
「あー……これ、まさか、ずっと撮影してた?」
『そのようだ』
超高速で走ってきた、謎の仮面の男。
その戦いの一部始終が、ぶんぶんと飛ぶドローンのレンズの中に残っている。
「じゃあ、今俺がモンスターを倒すところも?」
『そのようだ。やったな、黒鋼。僕達の雄姿を何万人の視聴者に見てもらえたぞ』
「おいおいおいおい、冗談だろ!?」
嬉しそうなライドの声とは真逆で、俺は汗をドバドバと流しながらドローンを掴んだ。
ライドは自分が目立つのが嬉しく思うと知ってるし、俺も願わくば人気者になりたかった。不労所得で生活したい、なんて願望を抱いてたくらいだしな。
けど、そういうのは段階を踏むものだろ!
いきなりうん万人の前に姿を見せるプレッシャーに、一般人は耐えられないんだ!
「待てって、そういうのはナシだろ!」
俺はドローンを掴んで、カメラ代わりのタブレットを取り外した。
頼む、カメラが故障していてくれ。あるいは撮影が止まっていてくれ!
“誰こいつ”
“変態だ!”
“うおおおおお”
“くそちゅよい……”
ですよねー。
そりゃあ、配信されてますよねー。
しかも怖い仮面を被って、モンスターを斬り刻んだんだ変態扱いしてる奴がいるじゃねえか。せっかく人を助けても変態呼ばわりされたら、涙も零れるっつーの。
『こんな形で活躍を大衆に見てもらえるとは、嬉しい限りだね』
はあ、と大きなため息をつく俺とは真逆で、ライドはかなり嬉しそうだった。
『だが残念なことに、僕達の配信の方は視聴者が3人しかいないな』
「それもそれでなんでだよっ!?」
思わず声が出たけど、世の中の理不尽に対する雄叫びが外に漏れなくて良かった。
確かにこっちの配信画面を見ると、視聴者は3人だけ。これまでのことを考えれば多い方だけど、数万人が見ていたと思うと、な。
「まあいいや……彼女をダンジョンから脱出させよう」
とにもかくにも、まずはシルバー・サムライの身の安全を確保しないと。
右手のリストバンドを剥がせば、ダンジョンから脱出させられる。シルバー・サムライほどの実力者なら必要ないと思ってたけど、いざという時はこれに助けられるんだから、やっぱりダンジョン探索の事前準備ってのは大事だな。
そんなことを考えながらバンドを外そうとすると、不意に俺の右手が止まった。
どうしてかってのは、分かってる。ライドが内側から止めたんだ。
「何してんだよ、ライド?」
当然の疑問に、ライドも当然のように返してきた。
『このまま帰すのはもったいない。黒鋼、彼女の配信でアピールしていこう』
「はぁ!?」
人の命がかかってるかもしれないって時に、何を言ってるんだこいつは!
「言ってる場合かよ! 早く彼女をダンジョンから出してやらないと……」
『仮にここに5時間放置していても、彼女の命に別状はないし容体も悪化しない。僕のスキャンは100%正確だ。ついでに言うと、君の体は僕が支配しているよ』
「ぐぬぬ……!」
言いたいことは山ほどあるけど、俺の体はこいつに乗っ取られている。俺が首を縦に振るまでライドは動かないだろうし、最悪、無理矢理体を動かして何かとんでもないことをしでかすかもしれない。
承認欲求丸出しの金属生命体の倫理観とは、どうにも合う気がしないな。
「……一言だけだぞ。ついでに、声で俺だってバレたら怒るぞ!」
『変声機能を使うから問題ない。今から僕の言う通りに話してくれ。ごにょごにょ……』
ライドの提案は、果たしてとんでもないビッグマウスだ。
けど、こうなったなら言うしかない。俺は覚悟を決めて、カメラに顔を近づけた。
“なんだなんだ”
“怖すぎて草も生えない”
“きもwww”
好き勝手言ってる視聴者のコメントがスクロールしていくのを見ながら、俺は言った。
「――目指せ、登録者100万人!」
――散々指示したくせに、出てきたのがこれかよ!
『よし、十分にアピールできたな。彼女をドローンと一緒に脱出させよう』
ライドは満足そうだけど、心の中でツッコむくらいには恥ずかしいセリフだ。
「今のでできたのかよ?」
『目標はシンプルに伝えるのが一番だ。さっきの活躍で僕達の配信を見ようとする視聴者も増えるだろうし、とりあえずは意気込みを伝えたんだよ』
「ライドって、どっちかっていうとバカだよな……」
率直な感想を呟きながら、俺はシルバー・サムライのバンドを今度こそ外した。すると、彼女の体が光の輪に包まれて、たちまち消えていった。
とりあえず、今度こそ完全に彼女の無事は保証されたわけだ。
『……疲れたようだな、黒鋼』
「そりゃそうだろ……」
緊張の糸が解れたのか、俺はこれ以上ないくらい大袈裟に息を吐いた。
『目的は達成した。ひとまず今日は帰るとしようか』
「お前にも、人を労わる気持ちとかがあるんだな」
『本当ならあと五時間は探索がしたいんだが、君が死ぬと元も子もないからね』
「……鬼かよ……」
ジョークか本気か分からないライドの笑い声を聞きながら、俺は帰路についた。
超大人気配信者の動画に映ることの意味なんて、今は確かめる気力もなかった。
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