底辺配信者が【最強スマホ】と【金属操作】スキルで美少女サムライを助けた結果、超バズってしまいました。
いちまる
第1話 底辺配信者、尾神黒鋼
20××年、世界中に突如『ダンジョン』が出現した。
無限にも感じられる階層と巨大なモンスターに、人々は逃げ惑う――。
「――はいどうも、クロの『ダンジョンゆるゆるチャンネル』でぇ~す……」
――ことはなかった。
世界各国の科学者と軍隊が総出でダンジョンを調べれば、数年で数百あるそれらがすべて踏破された。浅い階層も、深い階層も何もかもだ。
必要な資源は回収され、技術は解析され、人々の生活はまあまあ良くなった。
だけど、兵器としての利用価値は低いようで、偉い人の関心はあっさりと薄れ去った。
こうして無限湧きするモンスターと不思議な世界だけが残されたダンジョンは、あるエンターテインメントの舞台となったんだ。
自由な階層に挑み、モンスターを倒したり探索者同士で戦ったりするさまを配信する。体に貼れば特殊なスキルを得られるパッチも、モンスターを倒す武器も金で買える時代に、闘技場めいたエクストリーム・スポーツに飛びつかない奴らはいなかった。
緊急脱出装置と再生治療が備わったと知ると、参加者数はさらに増えた。
世はまさに、大探索時代なのだ。
そして今、その流行りに乗って一年ほどダンジョン探索配信を続けているのが俺――高校2年生、
「今日はですね、えっと、あそこにいるですね、赤スライムを討伐しようと思いま~す」
予算の都合でスキルは必要最低限の『緊急脱出』と『鑑定』だけ、武器はちょっと見栄を張った刃渡りが長めのナイフ(税込み4千円)、ちょっと豪華なコスチューム(2万円)。用意できるカメラは1台。アシスタントはなし。配信頻度は週に2、3度。
そんな俺の人気度合いはというと、驚くなかれ。
最大視聴者数3人!
かれこれ1か月の同時接続者数は2人!
――いわゆる『底辺配信者』ってわけだな。泣けてくる。
おまけにこれといって目立った才能もトークの技術もないから、こうやって目の前の小さな赤スライムにナイフを振るっている間は無言。スライムはガンジーよろしく無抵抗。
自分で言うのもなんだけど、面白いわけがないだろこんな配信!
「……えー、はい、赤スライムを倒しました……わりと強いです、はい……」
嘘です。探索初日の中学生でも倒せます。
頭を捻った方だけど、俺の実況は誰にも拾われずに虚空へと消えた。
「……そんじゃ、終わりまーす……」
もう配信も終われ、お前。
他の配信者や探索者がいれば、もうちょっと賑やかになったかもしれない。けど、こんな初心者ですらすぐに通り抜けるダンジョンに居座る奴はほとんどいないんだよな。
実際問題、胸元のポケットに入っている探索専用のスマートフォンを取り出しても、やはりコメントも視聴者もゼロだ。
防刃撥水機能に優れた探索用のコスチュームの映えっぷりが、一層つらい。
顔が映らないように配信をしていたのだけが、唯一の幸いだ。これで顔出ししてたら、恥ずかしくて学校も行けないっての。
「……ここらが辞め時かなあ……」
スマホをしまって、俺はぽつりと呟いた。
クラスの人気者や有名な配信者を見て、自分にも何かができると思った。
だけど、現実はこんなもの。トークの練習もしたし、ダンジョンのスキルを買うためにバイトもしたが、その程度でどうにかなるなら世話はないだろ。できる範囲でどうにかしようって発想そのものが、間抜けな高望みだったわけだ。
大きなため息をついて、俺はスライムのどろりとした亡骸を蹴り飛ばした。
「3か月もやってこれなら、どうしようもないよなあ」
高い壁と鬱蒼と茂った木々の間を通り、ひとりごちながらダンジョンの出口へと向かおうとした時だった。
――びちゃり。
何かが、俺の背筋を這った。
「~~っ!?」
てっきり別のモンスターが襲いかかってきたのかと思ったけど、そうじゃなかった。
慌ててジャケットを脱ぐと、鉛色の
「な、なんだこりゃ!?」
どろどろのそれを剥がそうと引っ張っても、まるで取れない。スライムみたいな軟体は、どれだけひっかいても、ナイフを当てても取れる様子がない。
悪戦苦闘すること数分、とうとう俺はどろりとしたそれを剥がすのを諦めた。
「最悪だ……一張羅なんだぞ、これ……!」
愚痴をこぼしながら、俺はとぼとぼとダンジョンを後にした。
――もう、ダンジョン配信はやめにしよう。
ありふれた「がっかり」を、その胸に秘めて。
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