見世物小屋店主の気まぐれ

<登場人物>

・店主

見世物小屋「トゥインクルドリーム」の店主。

ダメ、ゼッタイ主義。

年齢不詳、性別不問。


・マキ

カナメ マキ。元・映画監督。

非合法薬物所持、使用と20人以上を殺した殺人犯。

逮捕後2ヶ月で死刑確定、その1週間後に死刑執行されたはずだが…

年齢不詳、性別不問。一人称変更可。


上演目安時間20分前後です。

話の内容をよくご確認の上、

上演や録音の判断をお願いします。


---------お話はここから---------


—S区K町四丁目十三番地地下一三階


店主:いらっしゃいませ、見世物小屋「トゥインクルドリーム」へようこそ


マキ:…ん………ここは?


店主:お目覚めですか、カナメマキさん


マキ:あなたは…?


店主:私はこの見世物小屋「トゥインクルドリーム」の店主です


マキ:見世物小屋…??


店主:はい


マキ:私は自宅で眠っていたはず……何故檻の中に?


店主:良い夢は見れましたか?


マキ:夢?…もう現実と夢の境目なんかわからないな…


店主:そうですよね


マキ:あなたが本物の見世物小屋の店主なのかどうか…考えることが面倒だ


店主:考えることを放棄なさるのですか


マキ:…


店主:ありとあらゆる非合法薬物を常用していたあなたの脳は

ズタボロですもんね


マキ:でも何故か自分のことはハッキリと覚えているよ…

私は人間であることを辞め、真の日本人になった


店主:真の日本人であるあなたは何をしていた人ですか?


マキ:私は映画を作っていた


店主:そう、あなたは映画監督でした


マキ:…でした?


店主:はい、元・映画監督のカナメマキさん



—マキ、少し考え込む



マキ:…少し思い出した


店主:何を思い出したのですか?


マキ:私は人間を辞めた非国民を肉塊に変えていた


店主:ひと月ほど前のニュースで

「シリアルキラー元・映画監督カナメマキ、死刑執行」と報道されておりました


マキ:シリアルキラー?(笑)

そのニュースの見出し、随分と安っぽいね


店主:カナメマキさん、

あなたは判決から一週間という異例の早さで死刑執行されたそうです


マキ:…死刑執行?なら何故私は今生きている?


店主:これがこの国の現実です


マキ:死刑囚を生かすのが今の我が国…大日本帝国…


店主:地上では死刑執行と報道されましたが、

あなたは国から当、見世物小屋へ売られた「商品」なのです


マキ:私が「商品」…

私は非合法薬物を常用しているから

血液も臓器も使い物にならないと思うのだが


店主:この地下街では非合法薬物を使用していた肉塊も

有効活用出来るように設備を整えております


マキ:肉塊の有効活用…


店主:非合法薬物に染まった肉塊は食材には適しておりませんので、

当店の「商品」か地下三十三階の地下闘技場へ「駒」として

売られるようになっております


マキ:…「商品」、「駒」…人間に使う言葉としてはあまり適さないね


店主:はい、非合法薬物を使用している時点で人間ではありませんから


マキ:ああ、そうだね…だか…

非合法薬物の使用者でも私のように

真の日本人になる人間もいるんだよ


店主:誰があなたを真の日本人として認めることが出来るのですか?


マキ:ふふふ(笑)…

真の日本人、カナメマキの表現する世界を見てもらったらわかるよ


店主:当店の「商品」を壊されるのは困りものですが、、

本日は「不良品」の入荷があったので、リサイクルしましょう

あなたの表現する世界というものに私、個人的に興味が湧きました

こちらへどうぞ


—店主が檻からマキを出し、幕を開ける


店主:カナメマキさん、檻から出てください


マキ:?…これは?


店主:先ほど届いた「品」です

見た目は良いのですが、この通り…お行儀がなっていないのです

当店では見物料を頂くショーと同時に「商品」の販売もしているのですが…

これではお客様にお出し出来ません


マキ:かわいそうに…涙も涎も垂れ流すことしか出来なくなってしまったのか…

人の言葉も使えなくなって…

キミは私と違って真の日本人になれなかったんだね


店主:この「不良品」に見覚えはありませんか?


マキ:とくに無いかな


店主:これはあなたが二ヶ月前に開催した

ドラッグパーティーに来ていた俳優です


マキ:あれ?あのパーティーの参加者は全員肉塊にしたはずなんだけどな


店主:この「不良品」、あなたに精神を壊されたのかもしれません


マキ:え?私のせい?責任転嫁は良く無い


店主:カナメマキさん、

あなたは真の日本人としてこれからも生きていくご予定ですか?


マキ:そのつもりだよ


店主:そうですか…では、これをお使いください


—店主、マキに刃物を渡す


マキ:…牛刀っていうやつかな、これは


店主:はい、精肉店でも使用しているものです

あと解体しやすいように「不良品」を吊るしますね

血が舞い肉が踊る瞬間は非常に盛り上がり、お客様も大変喜ばれます


マキ:えーと、ここは舞台袖なのかな


店主:カナメマキさん、あなたの真の日本人として表現される世界を

ぜひ当店のお客様へ披露してください


マキ:檻の中の次は舞台…

懐かしいなあ、舞台で演者をしていた時のことを思い出すよ


店主:では幕を開けますね


—幕が上がると大勢の人間がいた

—歓声が湧く


店主:紳士淑女の皆様!ただ今よりショーをはじめます!

こちら、理性を失った元・俳優です

見た目は良いのですが、この通り…お行儀がなっておりません

当店で商品として皆様へ提供することが出来ない「不良品」です


マキ:「不良品」、改めて聞くと本当にぴったりな言葉だ


店主:本日はこの「不良品」を使用して

大日本帝国の歴史上、最速で死刑執行が決まった

元・映画監督カナメマキが解体ショーを皆様へ披露いたします


マキ:…すごい人の数

映画の舞台挨拶みたいだ、ワクワクする


店主:さあ、お好きに解体してください


マキ:あ、少し思い出した…キミは私の映画のオーディションで

「両親はミュージカル俳優です」と言っていたね

私はそんな理由でキミに役を与えるなんてこと、しないよ


—歓声が止み、少しの沈黙が訪れる


マキ:親の七光りで神聖な私の映画の世界へ土足で入ろうとしたね…

業界人に媚びを売って人脈を広げた挙げ句、非合法薬物に溺れた愚民

私が肉塊にしてあげるよ…ははははははは(笑)


—マキの口の両端が不気味に上がる


マキ:まずは手足を落とそう、バタバタと動かれると解体しづらい


—マキが牛刀を振り下ろす

—「不良品」の右腕が落とされ、歓声が湧く


店主:ほう、吊るし切りに慣れていらっしゃる

調理の仕事の経験がお有りですか?


マキ:私は映画監督の前に役者をやっていたんだ

調理師の役をもらった時は猛練習したよ

よし、血抜きもしっかりしないと


店主:慣れた手つきで流れるように解体されるのですね


マキ:役作りで解体の仕方を覚えてから

解体は私の趣味になったよ

とても効果の高いストレス解消法でね


—牛刀を軽々と振り下ろし、次々と「不良品」が解体される


店主:カナメマキさん、あなたを落札したい方が

どんどん札を上げております


マキ:私は私の表現する芸術にケチつけない人のところなら

誰のものになっても良い


店主:一応あなたも今は当店の「商品」なので

上から目線の発言は如何なものかと


マキ:配慮が出来ていなかったね、すまない

この肉塊…うめき声がうるさいし

…涙に涎、いろんなものが飛散して汚いな


店主:すみません、首は最後にお願いします


マキ:お好きに解体してくださいって先ほどあなたが言っていたのに?


店主:すみません、お客様に大変ご好評頂いておりますので


マキ:客の歓声は良いものだからね、その気持ちわかるよ


店主:当店の意向を汲んで頂きありがとうございます


マキ:次はここかな


—マキが再び牛刀を振り下ろすと同時に大歓声が湧く


店主:エンターテインメント業界の第一線で活躍されていた映画監督は違いますね


マキ:血の流しすぎかな?顔色がどんどん白くなってきた

キミが俳優を名乗れていたのは親の七光りと親譲りのこの顔のおかげ…

そうだ、この顔の周りに装飾を施そう


店主:表現者とは奇妙な生き物ですね

私は理解しようなんて微塵も思いませんが


マキ:切り落としたこの手も形がキレイだね

手首から上だけ使おう

首は落とさないで、裂いた腹部から臓物を引きずり出して…

あ、痙攣してきたし泡も吹き始めた…

生き物の絶命の瞬間は最高のエンターテインメントだ

息があるうちに絶命させよう


店主:お客様も大変喜ばれておりますね

こんなにキレイに解体出来るなんて…

カナメマキさんは本当に元・映画監督だったのか疑ってしまいますよ


マキ:私は生まれて歩けるようになってからまずは虫、そして魚、カラスや雀といろんな生き物を縊り殺すことを遊びと認識していたそうでね

家族で行った港でのマグロの解体ショー、

鮟鱇の吊るし切りを見てとても興味が湧いた

魚はああやればキレイに解体できるけど、

人間はどうすればキレイに解体出来るんだろう…って

でも一番の転機は調理師の役をもらった時かも


店主:カナメマキさんが起こした二ヶ月前の事件現場はまるで生ハムの製造所のようにキレイな現場だった…と語ったジャーナリストは業界から干されましたね

ま、そのジャーナリストも非合法薬物使用常習犯

薬物の横流しをして業界人を何人も薬漬けにしていたそうですね


マキ:あのジャーナリストは「自分も愛国主義者です」と言って

私に近づいてきた、ただの肉塊だよ

私を非合法薬物横流しの主犯として祭り上げたかったようだが


—歓声とともに手拍子が鳴る


マキ:さあ、そろそろ仕上げよう…

臓物をこうして首に巻き付けて、右手は臓物と顔の間に挟んで…

血と臓物の赤、引きずり出した静脈の青がアクセントになって

顔の青白さが際立つね

これにタイトルを付けるなら…「愛国主義者」かな…


店主:「愛国主義者」、ですか

何故そのタイトルになさったのですか?


マキ:私がこの大日本帝国のことを考えている時、

右手で頬杖をつくクセがあって同じポーズにしたからですよ


マキ:「店主様」



—解体ショー終了後



店主:お疲れ様です、先ほどはとても盛り上がりましたね

あんなに見事な解体、精肉店店主の次に素晴らしかったです


マキ:……


店主:いかがなさいました?


マキ:店主様…

…この地下街なら私は真の日本人として生を全うすることが出来そうです


店主:……そうですか


マキ:それと今日、思い出しました

やはり私は大勢からの歓声を浴びることが好きなようです


店主:先ほどもすごい歓声を頂いておりましたからね


マキ:舞台に上がり表現者として芸術を披露すること…

それは私の生きがいのようです

ですが、ここは見世物小屋…解体ショーなんて普段はしませんよね?


店主:はい、今回は「不良品」の入荷があったのと

私があなたに興味を持ったので突発的に行いました


マキ:(震えながら)私はもっと歓声を浴びたい!芸術を生み出したい!

それと…非国民という肉塊の処分をしなければなりません…


店主:これは私の提案なのですが、

このS区K町四丁目十三番地地下街の三十三階には地下闘技場がございます

当店見世物小屋とは違い、連日殺し合いが行われております


マキ:…!!それは本当ですか?!店主様!!


店主:はい、あなたのご希望に沿うことが出来るかと

では…カナメマキさん

あなたは今後、地下闘技場で「駒」として生きますか?


マキ:はい、真の日本人として私の生み出す表現の世界へ

お客様をお連れしたいです


店主:お客様第一主義を掲げられるとは…あなたの思想はこの地下街三十三階、

地下闘技場「キャンディポップメロウ」に相応しいですね


マキ:お褒めに預かり光栄です


店主:では、カナメマキさん

あなたを地下街三十三階、

地下闘技場「キャンディポップメロウ」へご案内致します


マキ:私に生きる道を示して頂き誠にありがとうございます、店主様!


—30分後、マキは地下三十三階へ案内された


店主:カナメマキ…真の日本人、ですか

ああいう狂愛国主義者は自分は正義だと思って何でもやりますからね

ま、非合法薬物を使用している時点でもう人間ではないのですけど

地下闘技場では「駒」として、どれだけ金を動かしてくれるのでしょうか

私が自店の「商品」の希望に応えるなんて…まあ、ただの気まぐれですが…


店主:「エコ&リサイクル」

この地下街のオーナーでもある私の経営理念です

この国の地上はあなたが思っている以上に腐敗しています

腐敗したものも世のため人のためになるように

この地下街では腐敗物や粗悪品、不良品も

リサイクル出来るように設備を整えております。

目に見えるものが全てではありません

くれぐれもこの国の闇から目を背けることの無いよう…



—完—

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る