S区K町4丁目13番地地下街
ネコ山
見世物小屋「トゥインクルドリーム」
<登場人物>
・店主
見世物小屋「トゥインクルドリーム」の店主。
ダメ、ゼッタイ主義。
年齢不詳、性別不問。
・アイ
最近まで広告でもよく見ていた、
元・人気女性モデル、カタギリアイ
役の性別変更不可。
・レン
前クールの連続ドラマ小説に出演していた
旬の元・イケメン俳優、マツキレン、二十歳
役の性別変更不可。
上演目安時間20分前後です。
話の内容をよくご確認の上、
上演や録音の判断をお願いします。
----------お話はここから---------
—S区K町四丁目十三番地地下十三階
アイ:…?…ここは…
レン:痛…?…俺は一体…
アイ:あんた…誰?…それに、これ…檻の中よね…
レン:は?…なんだよこれ、手錠?…
店主:…お静かに、あと二分で開演です
アイ:か…開演…?
レン:…どういうことだ?
店主:これから当店の営業が始まりますのでお静かに…
—だんだん歓声が大きくなる
レン:なんだ?!…拍手?
アイ:人の声…しかもすごい数…
店主:お客様がお待ちかねです
ちなみに今宵の見物席は満席です
…みなさま当店の営業を大変楽しみにされております
アイ:…お客様?…見物席?
レン:あんたは何者だ?
店主:私はこの見世物小屋「トゥインクルドリーム」の店主であり、S区K町四丁目十三番地地下街のオーナーです…この幕が開いたらショーの始まりです
レン:S区K町四丁目十三番地…?
アイ:ショーって何?…それに、見世物小屋て…
私たち檻に入れられたままなのに…何が起こるの?
—幕が開く
店主:紳士淑女のみなさま、今宵もお越しいただき誠にありがとうございます…さて、今宵は男女二人によるショーからスタートです
レン:なんだ…これ…?
アイ:…ウソ…でしょ?
店主:本日はなんとも見目麗しい男女の登場です
見物料はステージへ直接投げてくださっても
近くにいるスタッフへ手渡しでも構いません
買い取り希望のお客様はお手元の札を上げてくださいね
—大歓声が巻き起こる
アイ:見物料なら、まあわかるけど…
レン:買い取り希望?
店主:女性は最近まで広告でもよく見ていた
元・人気モデル、カタギリアイ二十一歳
男性は前クールの連続ドラマ小説に出演していた
旬の元・イケメン俳優、マツキレン、二十歳
この二人がなぜここにいるか、みなさまご存知ですね?
アイ:…まさか
レン:そういうことなのか…
店主:…そろそろ時間ですね
—突如、慌て出すアイとレン
アイ:待って!!今、何時なの!!
レン:カハッ…クソ!!…ゴホ!ゴホ…
アイ:…はぁ、はぁ、…これは…
店主:二人とも同じ非合法薬物をほぼ同量、ほぼ同頻度で使用している…運命で結ばれた二人としか思えません
レン:…ゴハッ!…クソ!!
アイ:渇く!!…あぁ!…口が渇く!!
店主:おやおや、とても苦しそうですね
アイ:ねえ!あんた持ってんでしょ?!アレを!!…早くちょうだい!!
レン:はぁ…はぁ…
店主:私が持っているワケないじゃないですか、ただの見世物小屋の店主ですよ?非合法薬物なんて所持したら警察に捕まりますし
レン:ふざけんな!!…あんた…持ってんだろ?
アイ:は…早く!ちょうだい!!あれがないと…ダメなの!!
店主:ダメ、ゼッタイ!ですよ?持っていません
アイ:私のバッグ…バッグに入ってるの…バッグ返して
レン:…カタギリアイとかいったな…後で金は渡す…だから俺に一回分売ってくれ…
店主:あなた達のバッグも中に入っていた非合法薬物も全て処分させて頂きました
アイ:ちょっと!!なんて事してくれてんのよ!!!
アレがどれだけ高いか分かってるの?!?!
レン:マジかよ…冗談キツいわ…
アイ:しかも注射器型じゃないとアレは効果が弱いのよ!!
レン:吸引じゃあもう効かねえんだよ!!
隠してないで俺によこせよ!!!
店主:おや?妙なこともあるものです、ここに一本…
あ、手が滑ってしまいました
—注射器が檻に投げ入れられるとアイとレンの顔が豹変し出す
アイ:…!!
レン:…!!
店主:あれ?お二人ともいかがされました?
アイ:あぁ…!!
レン:これは!…もう耐えられない!!
アイ:待ちなさい!あんたの物じゃないでしょ!!
レン:あ?何言ってんの?お前の物でもないだろ!
俺の方が苦しいんだよ…!!
アイ:はぁ?!私なんかこの美しい顔が痙攣(けいれん)してんのよ!私の方が苦しいわ!!
レン:俺なんかほら!見ろよ!…手足の震えが止まんねえんだ…!!
店主:見た目に反してなんと醜い
—アイがレンの腹部へ蹴りを入れる
レン:ゴハッ!!…
アイ:これは…私の物よ!!
レン:てめえ!
—アイが注射器型を奪う
アイ:…レディファースト…だろ?
レン:…レディがどこにいんだよ!!
店主:美男美女の醜態はやはり見ごたえが違いますねえ
買い取り希望のお客様はいらっしゃいますかー?
レン:よこせ!それは俺の物だ!!
アイ:絶対いや!!
店主:幕開けと共にほとんどの方が札を上げていましたのに
どんどん札が下がっていきますねえ
まあ、薬漬けの人間なんて飼育するの大変ですから
アイ:…ハァ…ハァ…
レン:モデルなんか使い捨ての業界だろ?
アイ:なん…ですって?!!
レン:薬やって戻ってきたモデルなんてほとんどいない
カタギリアイ、お前は終わったんだよ
アイ:マツキレン…あんたが終わってんのよ!
演技力なんか皆無の顔だけ俳優のくせに…!!
店主:私から見れば非合法薬物に手を出した時点で二人とも終わってますけど
アイ:これは私の物!!
レン:何言ってんのお前!!
店主:あぁ、嘆かわしい限りです…はぁ…
更に札が下がっていきます
レン:お前ふざけんな!!その注射器よこせ!!
アイ:私の…これは私の物よ
—プスッ
アイ:はぁぁ…この針の感覚…たまんない…
レン:あぁあああああ!俺の!!
アイ:あははっ!
—静まるお客様一同
アイ:あれ?…痙攣が止まらない…あんた!!これ中身なんなのよ!!
店主:言いましたよね?私が持っているワケないじゃないですか
ダメ、ゼッタイ!ですよ
アイ:クソ!!…クソ!!
レン:…じゃあさっきの注射器の中身は何だったんだ?
店主:あぁ、中身ですか、えーと…
…あれ?何でしたっけ…まぁ、有機栽培植物と天然素材から出来ている
「注射器型サプリメント」なので大丈夫でしょう
サプリメントは薬物ではなく、食品ですから
レン:は?意味わかんねー!…おい!カタギリアイ!!
アイ:あはっ
レン:しっかりしろ!!
アイ:あはははははははははっ!!…あんた顔だけじゃなさそうね…
レン:は?…いきなりお前何言ってんだよ
アイ:あはっ
店主:その注射器、「サプリメント」ではありませんでした
レン:じゃあ何だっていうんだ…注射器の中身
店主:思い出しました、それ理性を一時的に消し去る薬でした…あ、ちなみに人間用ではないですよ?
レン:理性を消し去る薬…?
アイ:その首、裂いたらどうなるかなー
—カラン、カミソリが檻の中へ投げ入れられる
店主:あ、すみません…私なんでこんなもの持ってたんでしょうか
アイ:ふふ…ちょうどいい♡
レン:おい…冗談だろ?
アイ:これを使えばー、首をパカっと裂くことが出来るね♡
レン:カタギリ!!お前しっかりしろ!!
アイ:えー、私カタギリアイはーしっかり者です♡
—ザクッとひと刺し、レンの腕から血が吹き出る
レン:ぐああああ!!!
アイ:ちょっと!おとなしくしなさいよ!!
首が裂けないでしょ!邪魔しないで!!
レン:ハァ…ハァ…
店主:返り血を浴びた美女、素敵ですね…お客様いかがでしょうか?
—歓声が上がる、と同時にステージ内へ金品が投げ入れられる
店主:札が再び、上がり出しましたね
投げ銭も本日は実にエグ味があります
まさか注射器のアレが箱ごと投げ込まれるなんて…
私、ダメ、ゼッタイ!主義なんですけど…?
—ゴッ、鈍い音と共にアイが倒れた
レン:カタギリアイ、やっと気絶したか…
店主:マツキレンさん、ショーが盛り下がるような事はおやめ下さい
—店主の投げた注射器がレンに刺さる
レン:ガッ!…これ…注射器の中身…は!!
店主:彼女が打ったものと同じです
レン:っ!…ふざけやがって!!
店主:あ、違う薬でした、失礼
レン:なんだこれ…視界が…歪んで…
—大歓声の中、レンは気を失った
—その後、しばらく経ってレンの意識が戻る
レン:…生きてる…のか?
アイ:んっ…
レン:カタギリ!しっかりしろ!!
アイ:…あ…れ…?わたし、なんで服着てないの…?
レン:俺もだ…どうなってんだ?
店主:二人ともお目覚めになられましたか、
先刻は最高のショーをありがとうございました
アイ:最高のショー?どういうこと?
店主:容姿端麗な二人のあんなお姿、生で観られるなんて
…興奮し過ぎて気絶されたお客様もいらっしゃいました
レン:…まさか!!
店主:おめでとうございます、カタギリアイさん
あなたの買い取り先が決まりました
アイ:買い取り先…?どういうことよ!!
店主:あなたを買い取るというお客様がいらっしゃいましてね
たった今あなたの所有権は私からお客様へ移行が完了したところです
アイ:所有権…?
店主:そろそろお客様が受け取りに来られますのでしばしお待ちを
アイ:私は物じゃない!人間よ!!
店主:非合法薬物漬けになったそれはもう、人間ではありませんよ
アイ:ウソ…よ…
レン:おい、買い取り先の無かった俺は…どうなるんだ?
店主:あなたは…どうしましょうか?
レン:さっきカタギリの所有権はあんたが持ってたよな
店主:はい、そうですよ
レン:…あんたの言い値を払う、俺を解放してくれ
店主:なかなか頭の回転の早い方です…でもね、マツキレンさん
レン:なんだよ
店主:私の所有物であるあなたに交渉権、無いですよ
レン:なんだと!ふざけんな!!
店主:物が人間に交渉なんておかしな話でしょう
レン:俺は一回薬やって捕まっただけだ、なんで物扱いされるんだよ!
店主:私、何度も申しております
レン:何を?
店主:非合法薬物に手を出した時点で人間じゃないんですよ
物…いや、物以下です、この言い方では物に対して失礼でした
そんなあなた方に生きる道を提供しているのが私です
むしろ感謝して頂きたいくらいですね
レン:お前!!
店主:マツキレンさん、少し黙りましょうか
—レンに再び注射が打たれる
レン:…お前…は…必ず…俺が殺してやる!……(気絶する)
店主:やっと意識が無くなりましたね、さ、カタギリさん、あなたの買い取り先の方がお見えです…行きましょう
アイ:…イヤ!イヤ!!…やめて!!
店主:カタギリアイさん、あなたも少し黙りましょうか
アイ:うっ……(気絶する)
店主:ふぅ、やっと静かになりました
今日は完売かと思ったのに…売れ残りが出るとは…
見世物小屋の見物料は十分頂けましたけれど
私は見世物小屋のショーを提供するエンターテイナーであり、
人間のようなものを商品として扱う売人です
これは地下三十三階の兄さまへ連絡ですね
店主:マツキレン…薬の禁断症状こそ起こしましたが、
意識のある時は正気を保っていましたね
こんな方…初めて見ました
地下三十三階でも正気を保っていられるでしょうか、楽しみです
—およそ三十分後
店主:兄さま、ご足労をおかけ致しました
…はい、こちらが元・俳優のマツキレンです
いまは薬漬けですが、薬がある程度抜けましたら…
兄さまの事業に大きく貢献するかもしれませんよ…
ちょっと兄さま!精肉店の特製ジャーキー食べてないで、ちゃんと見てください
まったく、兄さまは私がいないと適当な仕事しかしない…
実質私の働きで運営出来てるんですよ?地下三十三階は…
—店主の携帯が鳴る
店主:兄さますみません、上階の精肉店から連絡が
(電話をとる)…はい、はい、…あなたさまも苦労が多い…
「肉」の入荷が少ないと売り物が無くなってしまいますからね
では、そちらへ伺います…(電話を切る)
お客様からリクエストの多い二十代のモデル…また、入荷出来そうです
次のショーの目玉になるようなものが入るか、楽しみです
店主:明晩もたくさんのお客様に満足頂けるよう、精進致します…次のショーをお楽しみに…
—完—
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