第43話 『終着点』

「楽しかったわ。さよなら、リオナ」


 私の渾身の一撃が炸裂した……はずが、私の放った華麗なトドメの一撃は空を虚しく切った。


「え」

「わあああああ!! ちょっと待つのじゃ! 待てえええ!!」


 リオナの体はまた黒い霧になって、そこらじゅうを飛び回り、それを大量の青白い腕が追いかける。何やってんだコイツ。


「おい、往生際が悪いぞ! せっかくかっこよく死なせてあげようと思ったのに!」

「いやだああ!! 死にたくない!! せっかく300年も我慢してやっと目覚めたのに、すぐ死んじゃうなんてやだやだ~!」


 黒い霧になって飛び回りながら泣き叫んでいる。ええ……なんかキャラ崩壊してない?


 なんか憐れ過ぎて、殺す気もなくなってしまった。

 私の気持ちが伝わったのか、青白い腕も煙のようになってすべて消えていった。


「はぁ、はぁ……怖かったぁ……マジで死ぬかと思ったぁ……」


 リオナが人間の体に戻って、床に膝をついてゼーゼー言っている。

 試しに斬ろうとしたら、また霧になってかわされた。


「おい! 不意打ちで殺そうとするんじゃない!」


 霧の状態でリオナが叫ぶ。めんどくせー!


「じゃあ、私の勝ちってことでいいのね?」

「ぐぬぬ……認めたくないが、我ではお主には勝てそうにないからな……」


 再び人間の姿に戻ったリオナは、なぜか頬を赤らめてモジモジした。


「くっ……し、仕方ない。お主の眷属になってやるのじゃ……」

「は?」


 眷属って。ただでさえ勇者とか鬼兵士につきまとわれてるのに、これ以上おかしな奴につきまとわれたら、たまったもんじゃない。


「いや、別にならなくていいよ」

「なんでじゃ!? あっ、今は復活したばかりだからこんなみすぼらしい格好じゃが、ちゃんとした服を着たら、我だってなかなかのもんじゃぞ!? それに……ぬ、脱いだらすごいんじゃぞ!?」

「なんで脱ぐんだよ!」


 まったく意味が分からない。コイツの言う『眷属』って言葉が、急にうさん臭さを増した気がする。もう、断固として拒否しよう。


 と、さっきまで黙って見ていたシエルが、ツカツカと近づいてきて、リオナに指を突き立てた。


「あなたねぇ。さっきまで私たちを殺そうとしていたくせに、調子のいいことをいうものじゃーないんですよ!!」

「えっ、なんじゃ? お主には関係ないじゃろ! ザコ聖女が」

「はぁ!? 誰がザコですって!? スズに負けたくせに!!」

「スズは強いけど、お主はザコじゃろーが! なんでそんなに偉そうなんじゃ」

「偉そうなのは、あなたでしょーが! 負け犬!!」

 なぜがバチバチと火花を散らす二人。てかシエル、口わるっ! なんかどんどん凶暴になってるような気が……いや、むしろこれが本性なのかも。

 「スズ、ありがとう。また、お前に助けられちまったな」


 ゼクスが私の隣に来て、微笑んだ。相変わらず爽やかなイケメンだ。


「別にあんたたちを助けるために戻ってきたわけじゃないし、礼なんていいよ」

「それでも……スズが来てくれなかったら、俺たちは今頃、きっと死んでたと思う。だから、ありがとう」

「はぁ」


 相変わらず、クソ真面目な奴だなぁ。

 それはそうと――私は改めてリオナを振り返った。


「リオナ、魔王都であふれかえってるゾンビどもは、あんたの言う事はきくの?」

「うむ。全員、我のシモベじゃからな! 今は結構、自由にやらせているが」

「じゃあ、壊れた魔王城の修繕工事をやってもらえる?」

「ああ、そんなのはお安い御用じゃ。しかし、魔王城を修繕してどうするのじゃ?」

「え? 住むんだけど」


「「「住む!?」」」


 三人が呆れたような、びっくりしたような顔で同時に声を上げた。

 え、私そんなに変なこと言ってる?


「だって、私が住んでた家は魔王軍の奴に燃やされちゃったし。かわりに魔王城をもらってもよくない?」

「な、なるほど。つまり、ゆくゆくはここを我との愛の巣にするという計画じゃな。では早速、作業に取り掛からせるとしよう!」


 何が『つまり』なんだよ……まあ、作業はしてくれるみたいで良かった。


「ご無事で何よりございます、スズ様!」

「やっぱりスズ様は最強でござるな!」

「というわけで、スズ様! 身の回りの家事などは、ぜひ我々にお任せください!!」


 鬼兵士たちがゾロゾロとやってきて、騒がしく口々に声を上げた。コイツら生きてたんだ……まあ、家事をやってくれるのは助かるかも。


「スズ様のパンツは拙者が責任を持って……おっと、ゲフンゲフン」

「……」


 さすがにそろそろ殺した方がいいかな?


 ともかく。


 こうして私は新しい家を手に入れ、私の復讐の旅は終着点を迎えたというわけだ。

 めでたしめでたし?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る