第25話 艱難汝を玉にす -4-
このあまりに無謀な闘いを、最後まで続けることに果たして何の意味があるのか。実際、極端に一方的な試合の場合は、神々の興が削がれるからという理由で止められることがあると聞いていた。そこで途中、祥太郎はそれとなく試合の棄権を申し出てみたが、それはあっけなく跳ねのけられた。
「は?何ふざけたこと言ってんの?自分が勝つ試合は最後までやるけど、負ける試合は途中で辞めますって?自己中過ぎじゃない?」
フンッと鼻で笑いながら、美和は言う。彼女は、最初に会った時から思っていたが、言葉の節々に棘がある。祥太郎は苦々しさを噛み殺しながら応える。
「そうは言ってません……。けど、あまりにも力の差がありすぎますし、これじゃ真朱さんがただ殴られてるだけ……」
「あんたの選択肢は、相方が殴られてるのを最後までただ見てるだけか、それとも起死回生の一手を考えるか、どっちかしかないんだよ。うだうだ言ってんな。リンダかよ」
まあでも……、と彼女が付け加えた。
「あんたって見るからに何事も中途半端にしそうな顔してるもんね。戦意喪失するのは勝手だけど、あからさまに態度に出されるとこっちも気分悪いからやめてよね」
祥太郎は言い返すことができずに唇を一文字に結んで視線を逸らすしかなかった。
「ちょっと美和ちゃん!言い過ぎだよ!祥太郎くん、私は祥太郎くんの応援してるからね」
「そうだぞ美和、そんなキツイことばっかり言ってると彼氏できないぞ!」
涼子が間に入ってくれる。そしてなぜか相手の闘者も……。
「ちっ、本当のこと言っているだけでしょ。なのに悪者はあたしってか」
「……」
「まあいいけどね。あんたが適当やろうがそうじゃなかろうが、あたしには一切関係ないもの。けど、結局こういうのは実力が物を言うのよ。まぐれで勝ち続けられるほど都合よくできていないし、負けるっていうのはそういうことでしょ」
「まだ負けるとは決まってないです」
「ふーん、あっそ。まあせいぜい無様な負け方しないように頑張りな」
美和と高嶺ペアの戦闘の特徴はとにかく硬く、重いことであった。特に攻撃においては、『溜め』を好んで使用していた。これは自身の攻撃のターンをパスするかわりに次あるいはその次の攻撃力を上げる技であり、小攻撃でありながらも大攻撃に匹敵する火力を生み出すことが可能であった。『溜め』の最中は相手攻撃を回避することができないという難点はあるものの、防御も非常に厚いのでそうそう会心が入ることもなく、素早さと軽さを武器とする真朱とはまさに真逆の、間違いなく今までで最も厄介な相手であった。
美和の攻撃が始まる。
「後攻、『
(一体何枚『溜め』のカードを持っているんだ?)
しかもこの『溜め』、1回なら威力が上がるだけだが、2回続けて行うともれなく『必中』が追加される。そして攻撃の際に、美和は必ず2回ずつ溜めを行ってきた。とすると、この溜めた分の攻撃が来るのは次の次のターンということになる。
美和たちが動けないこの2ターンの間に相手を倒しきるだけの攻撃の威力が無いとするなら、何としても衝撃に耐え抜くしかない。そう考え、祥太郎は次のターンでは攻撃はせずに、防具をつけ直して一旦体勢を立て直すことにした。自分の手札と、今ちょうど引いた1枚を改めて吟味する。1回のターンで動かせる札は、攻撃に限らず装備の装着も含めて3枚までであり、特にここからは一手のミスも許されないため慎重に行う必要がある。そしてまさに運良く願ったり叶ったりのこの折に、最適なカード——3枚が一連の、皮で編み上げた全身用の鎧と円盾だ——が手元に来ていた。これらはもちろん別々の防具として使用することも可能だが、同時に装着することによって防御力上昇の追加効果を得ることができた。
実際に装着してみると、すらっと手足の長い真朱によく似合っており、髪の色や肌の白さも相まって、ファンタジー世界の住人のエルフを彷彿とさせる立ち姿だった。東雲ではないが、強さだけでなく見た目にもこだわりたいというのにも一理あると思った。
「ふ~ん、それがあんたたちの死に装束って訳ね」
美和が言う。せっかく浸っていたところに、言うに事欠いて何ということを言うのだと苦い表情をしていたのがさすがに彼女にも伝わったらしい。
「だって本当のことだもの。それじゃ、——後攻、甲の攻撃」
「えっ!?『溜め』は弱攻撃にしか使えないはず……」
「何も別に、弱攻撃の強化のためだけに溜めをしてたんじゃないよ。気づいてなかったんだ?」
美和に勝ち誇ったように言われ、そこで初めて理解した。
(——やられた、そういうことだったのか!)
高嶺がひたすら『溜め』と弱攻撃を繰り返してきた理由がやっとわかった。それは単にコスパの問題などでは毛頭ない。つまり強攻撃を意図して使わなかったのではなく、使うことができなかったのだ。
強攻撃の発動条件はいくつかある。まずはトリガーカードを引くこと、もうひとつは武具ならびに闘者に一定レベルの霊力が満ちていること。真朱は物理的な攻撃力は弱いが、霊力は無尽蔵に近く連続しての強攻撃の出力も可能であるため、今まで全く気にしたことがなかった。しかし高嶺はそうではない。もともと所持している分だけでは届かない故に、少しずつ着実に、今この瞬間のために霊力を大事に『溜め』に『溜め』てきたのだ。
「高嶺が霊力を溜めきる前だったらまだ勝算があったかもしれないのに。あんたがいつまでもモタモタしていたせい以外の何物でもないね、ご愁傷様」
「くそっ……」
自分の考えの何たる浅はかさか、祥太郎はギリリと歯噛みした。
「それじゃ改めて、『会心』と『会心倍率上昇』効果を付けて」
「いざ後攻、甲の攻撃————高嶺、やっちゃって!」
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