第4話 暴力的いじめ
(ここは間違いなく俺が生まれた世界ではない。おそらく異世界だ)
1つの仮説を立て、ステファンは学校に向かう。幸運にも、学校は自宅から視認できる場所あった。そのため、わざわざ両親に学校の場所を聞く必要は無かった。
ステファンの視界には西洋の建物に類似した建物や住宅がいくつも並ぶ。
住宅には1世帯の家族が住む。そして、その家族は食堂や食材の直売店、馬車などで輸送を提供するサービスなど自営業を営む。
ステファンの自宅もパン屋を営んでいた。
(この世界では自営業を営むのが常識の社会らしいな)
目の前に拡がる景色を分析し、ステファンは自信ありげに結論づける。ただ主観的判断に過ぎない。客観的判断をするのには情報が不足する。
(それにしても、まさか願望が叶うとはな。その点は驚きだ)
ステファンは前にいた世界から存在は消えているだろう。何度も願っていた消えたい願望は叶ったわけだ。
(さて、このスマートフォンはどうするかな)
制服のポケットからスマートフォンを取り出し、ステファンは画面を注視する。
今いる世界は未開の社会だ。そのため、IT技術は発展していない。アナログの世界だ。
だが、不思議な現象だが、ステファンの目覚めたベッドにスマートフォンがあった。しかも、そのスマートフォンはステファンの私物だった。
つまり、ステファンが以前に身を置いていた世界で使用していたスマートフォンなわけだ。
スマートフォンは電源を起動させていないため、無機的に静かだ。
この世界では文明も発展していないため、Wi-Fiといった便利な回線も発明されていない。
だが、スマートフォンを起動し、ロックを解除する。
慣れた手つきで操作すると、正常に利用できる。未知な現象だ。
(まあいいか。スマートフォンがあるなら好都合だ。都合がいい時に利用させてもらおうかな)
今はこの世界に対して未知なことだらけだ。能天気に考えるのが妥当だろう。
「本当! あんたうざいわね! 」
学校の正門をくぐり抜け、適当に教室に向かう途中、女子生徒の苛立った声が耳に飛び込む。
(なんだ? )
気に掛かり、ステファンは音源の場所へ移動する。
「本当に! あんたムカつくのよ!! 」
ガッ。
ショートヘアの黒髪女子が金髪碧眼の美女の頬をビンタする。
両者ともにステファンと同じ色の制服とスカートを身に付ける。学校の生徒だと推測できる。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 」
金髪の美少女は平謝りする。
「はっ。謝ったら許されると思ってるの。甘いのよ! 」
もう片方の頬もビンタされる。
「い、痛い!? 」
暴力を奮われているのにも関わらず、金髪の美少女はまったく抵抗しない。黙って力なく瞳を揺らす。
完全に上下関係が出来上がっている。
(野蛮だな)
どうやらどの世界でもいじめは普遍的な現象らしい。多少なりとも差異はあろうとも、本質的に人間を傷つけることは変わらない。
いじめっ子が主体的に加害し、いじめられっ子が被害を被る。こうした因果関係だ。どの世界でも共通する普遍的な法則らしい。
いじめっ子が強者。いじめられっ子が弱者。
(ちっ。気に食わない)
ステファンはスマートフォンのカメラを起動させ、一部始終を画面に収める。
金髪碧眼の美少女が何度もビンタや蹴りを食らう光景を。
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