第5話 痴漢

「息子よ、あれから佐々木さんとはどうなんだ?」


どうも明です。

いつもの様に学校の中庭のベンチで昼休みにだべっていると、突然父さんが佐々木さんとのことを聞いてきた。

それに対しての僕のリアクションを擬音で言うなら【ギクリ】だろうか。とにかく痛い所を突かれた。


「ま、まだだけど、何か?」


開き直ってみたけども、我ながらダサいと思う。


「あー、まだなのか。まぁ、よく考えることだ。彼女ならまだ返事は待ってくれるだろう。」


父さんが何を根拠にそんなことを言っているのか皆目検討がつかないが、そこはスルーしておこう。


「話は変わるんだがな。最近の露出の高い女子はどう思う?」


本当に大分変わったな。これじゃあ切り替えるのも容易じゃ無い。


「どうってどういうこと?」


「いやな。この間電車に乗ってたら、短いミニスカートを履いた20代前半と思われる女の子が入ってきたんだ。本当に短くてな下着が見えるんじゃないかと思えるほどだった。」


「もしかして、それに欲情したの?」


そうだとしたら父親といえども軽蔑するかもしれない。


「いや、俺は母さん意外には欲情しないよ。」


真顔で首を横に振る父さん。良いことなのだろうが、生々しくてあまり聞きたくない情報だった。


「だがな、一人の中年サラリーマンがその女の子の太ももをチラチラ見るわけだ。女の子はスマホ操作に夢中でそれに気がつかない。中年サラリーマンは生唾を飲み込んだりして、軽い興奮状態だったと思う。」


「うわぁ、気持ち悪いね。もしかしてお尻とか触ったの?痴漢?」


「いや、そのサラリーマンの人は立派だったぞ。決して手は出さなかった。」


「あぁ、そうなんだ。でもそれって別に立派じゃなくない?触ったら犯罪になるんだし。」


「うーん、父さんは偉いと思うけどな。」


「その心は?」


「だってメスがオスの性欲を刺激して、それをオスが耐えるんだぞ?立派じゃないか、種を残す本能に耐えるなんて。」


オスメスで例える辺り父さんらしいが、あまり大袈裟にし過ぎじゃないだろうか?

まぁ、話を最後まで聞いてみよう。


「生物的に見て、種を残す本能は抗うのは難しいものだと思うぞ。それを肌の露出で刺激しておいて、『この人痴漢です!!』なんて輩はタチが悪い。もちろん痴漢は犯罪だが、ケツや胸をさらけ出してる女は触ってくれと言わんばかり、犯罪に加担してると言っても過言じゃなかろう。」


…か、過激発言だ。色々大丈夫かな?


「私はファッションのことはよく分からんが、痴漢犯罪を減らしたいなら女性側も配慮するべきでは無いかな。もちろん配慮した上で男が痴漢を行えば、それは100パー男が悪いと思うけどな。」


不思議と父さんの言うことには説得力があるから不思議だ。確かに町中を歩いて見ると目のやり場に困るファッションの女の人は多い。表現の自由とは聞こえは良いけど、不快に思ったり欲情する人が出てもおかしくないのも事実だ。


「満員電車で通勤するお父さんがたの中には、痴漢の誘惑に耐えて居る人も多いんじゃないかな?私はその誘惑に耐えて出勤する彼らに拍手を送りたい。」


パチパチと本当に拍手を始めた父さん。

当たり前のことだけど、日々誘惑に耐えるのは本当は辛いことなのかもしれない。

世の中のお父さん達、僕も尊敬します。


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