第17話 ヴァルプルギスの夜【Walpurgisnacht】

 一年に一度、旧暦で言えば4月30日から5月1日にかけて訪れる夜、それが

 ヴァルプルギスの夜。


 ヴァルプルギスの夜、全ての悪魔は飛躍的に力が上昇し、さらに一部の上級悪魔は限定的ながら【魔性解放パンデミック】が可能となる。


 【地獄の門】から供給される魔力によって活動していた地上の悪魔達は【地獄の門】が大天使ラファエルによって閉ざされたことにより活動不能に陥った。このままでは地上の悪魔は全滅してしまう。そう判断した魔王サタンは人間に取り憑くことを悪魔達に命じた。


 元々地上の悪魔は人間の魂に寄生して生きてきた。地獄の門が閉じた以上、そうしなければ悪魔達にはそれしか生存の道が残されていなかった。


 だが、物質化した体を再び精神体化する作業は予想以上に魔力の消耗が大きく、下級悪魔の殆どは成すすべもなく死に、中級以上の悪魔も人間と不完全な融合を果たした結果【糞悪魔】となり、なけなしの魔力を振り絞り無事に精神体となり人間に寄生できた一部の悪魔もその力は大きく制限されることになる。


 【魔性解放】とはその寄生した人間の体から魂を解き放ち悪魔本来の姿を現界化することを指す。しかし、現界化したところで地獄の門が閉じた状態では不完全な復活しか果たせず、精神体に帰することも叶わず、ただ死を待つだけである。


 だが、この夜だけは別だ。魔に属するもの全てが活性化し、魔力が高まるこの夜は、地獄の門から僅かにだが魔力が漏れ出てくる。それは地獄に封ぜられた魔力の総量からしたら本当に僅かな量であるが、地上の悪魔にとっては莫大な量だ。そう、現界化した魂の精神体への変換を可能とする程度には。


 こうして、ヴァルプルギスの夜は、人間にとって最も恐れられる夜となった。

 


「〝ヴ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ 」

「〝イ〝ェ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア 」


 快楽。この世のものとは思えない二つの咆哮を産み出しているのはそれだった。


 一人はウンザオヴァー。


 もう一人はメフィスト。


 山のような巨獣が同じく山のような巨女――――地に這いつくばってケツを突き出している――――をズコバコしている。パンパンパンパン。


「〝ゥ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝オ〝ン (気持ちいいゾぉメフィストォォォォォォォォ)」


「〝イ〝ャ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ン (〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア 焔山の為なら幾らでも耐えられるわァァァァァァァァァ)」


「ゥ〝ヲ〝ォッ! (くっ! また〝射精〟るッ!)」


「〝ウ〝ガ〝ァ〝ァ〝ァ〝ァ〝ァアアアアアアアアアア! (〝破裂〟しちゃうぅぅぅぅううっ!)」


 巨獣の腰の律動がピタッと静止。巨女の体がビクッと脈打つ。


 ピストンを再開する。二匹の獣が性に狂い艶やかな矯声と野太い強精が混じり合う。絡み合い高まっていく二人の性獣の営みはいよいよピーク終焉へと高まっていく。

「〝ア 

  〝ア 

   〝ア

    〝 ア

     〝 ア

      〝    ア

     ァ……(焔ざ………

            〝ウ

           〝ヲ

          〝オ

         〝オ

        〝オ

       〝オ

      〝オ

     〝オ

    〝オ

  〝オ

 〝オ

〝オ

 〝ン

   !(最高に気持ちがいいぜ! このまま絞殺して喰ってやる! 肉も骨も内臓も脳味噌も余すところなくジュルリッ! 味わい尽くしてやらぁっ!)」


 巨女――――メフィストの首に巨獣の牙が喰い込む。頸椎を締め付ける両歯の圧力にメフィストが呻きを上げる。その声に興奮し巨獣――――ウンザオヴァーは更なる力を顎に込める。ベキリと音がする。


 メフィストは意識が遠のくのを感じた。


(さようなら、焔山――――愛しい人)


 全てを破壊しつくすような檄音が鳴り響く、遥か地平線の彼方まで――――



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