第66話 ジャミール遺跡 1

新しい章に入ります。今後もどうぞ応援よろしくお願いします。


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「おお、ありがとうございました。かっこいいです、気に入りました」

「いやいや、お礼を言うのは私の方だよ。こんなに美しくて、細工しやすい金属の作り方を教えてもらって、なんとお礼を言っていいのか」


 俺は今、王都の〈アルバン商会〉に来ている。え? ジャミール遺跡はどうなったかって? はい、そうです。途中で気づいたんです。ジョアンさんに強化用の金属プレートを注文していたことに。


 ともあれ、ジョアンさんに装着してもらった飾り彫刻入りの金属プレートは、とても気に入った。濃い茶色のレザーに金色に輝く真鍮がとてもよく映える。一見してすごく高価なレザーアーマーに見えるし、高ランク冒険者に見えるだろうな。ちょっと恥ずかしい気もするが、まあこのくらいいいだろう。


「代金を払います。いくらですか?」

 俺の問いに、ジョアンさんは手で制して、顔を近づけてきた。


「代金はいらない。ただし、よかったら、この、何だったかな……」

「真鍮ですか」

「そうそう、その《シンチュウ》の特許を私に売ってくれないか」

「はい、いいですよ」

「おお、そうか、ありがとう」

「いいえ。ただ、できれば商業ギルドに特許を登録して、皆が使えるようにしてもらえたら嬉しいです」

 ジョアンさんはしっかりと頷いて、余った真鍮の板を手に取った。

「ああ、もともとそのつもりだったよ。こんな素晴らしい素材を自分だけで独占するのは犯罪だからね」


 良かった。ジョアンさんに任せれば、上手くやってくれるだろう。彼はどうしても特許料を払うと言い張ったが、俺はそれを断り、代わりにちょっと高級な革のブーツを格安で売ってもらうことで何とか折り合いをつけた。

 今使っているブーツは、靴底がだいぶすり減っていたんだよ。新しいブーツは、外側がケイブリザードの革で、丈夫なうえに水をはじき、しかも軟らかい。靴底はワイバーンの尻尾の革で、軽くて耐摩耗性に優れている。これで、身体強化を存分に使っても問題ない。


 俺は、ジョアンさんに別れを告げて、王都の街を南門へ向かって走った。その先の森の上にスノウが待っていてくれた。


(スノウ、お待たせ)

『あ、ご主人様、お帰り~。御用は済んだの~?』

(ああ、済んだぞ。ほら、どうだいこのアーマー?)

『おお、ピカピカだあ~、かっこいいね~』

(ふふん、そうだろう、そうだろう。可愛いな、スノウは)

『わふ~ん!』

(よし、じゃあ、出発しようぜ。新たなる冒険の旅へ)

『お~~!』

『……お~』


 若干一名、ノリが悪い声が混じっていたが、俺たちは元気よく王都の空から飛び立った。



♢♢♢


 スノウは、アウグスト王国とローダス王国の国境の山脈を越え、さらに南へ進んだ。眼下には、ローダス王国の広大な国土が広がっている。山脈のこちら側は雨が少ないのか、森は少なく、二本の大きな川沿いに街が集中し、その周囲にきれいに区画整理された畑が広がっていた。用水路も整備され、豊かな田園地帯という感じだ。


「おお、あそこがローダス王国の王都だな。ずいぶん大きな都だな」

 進行方向やや右手に、大きな城が聳え立つ円形の巨大な街が見えてきた。アウグスト王国の王都の倍近くあるかもしれない。国力の大きさがよく分かる。


『ご主人様、もうすぐだよ~。ほら、あの山の先なの~』


(おお、そうか。スノウが生まれた国はどっちにあるんだ?)


『ええっとね~……たぶん、少し左の方角かな。大きな海や大きな山を越えたずっと先に、世界樹の森があるんだよ~』


(へえ、いつかは行ってみたいな。スノウ、人間の俺が行ってもいいのか?)


『きっと大丈夫だよ~。普通の人間や魔物は結界があるから入れないけど、ご主人様は私の分霊を魂に宿しているから入れるはずだよ~』


(おお、そうか。じゃあ、いつか連れて行ってくれよな)


『オッケー、いつでも行きたいときに言ってくれれば連れて行くよ~……っ! そろそろジャミール遺跡だけど、また、あいつらが来たみたい』


 スノウの声に途中から警戒の色が加わり、飛ぶのをやめて空中に待機した。


『マスター、前方五百メートルにワイバーンの群れです。五匹います』


「ワイバーンだって? まずいな、逃げるか?」


『ご主人様~、あいつらだよ~、私が〈世界樹の子ども〉のところに行こうとしていた時も、この辺りで襲い掛かって来たの~。今度は、こっちがやっつける番だよ~』


 ああ、そうだったのか。幼体だったスノウを襲って瀕死の状態にしたのは、この辺りを縄張りにするワイバーンの群れだったのだ。


(そうか、じゃあ逃げるわけにはいかないな。スノウの仇討ちだ)


『マスター、今回は違ったやり方を試してみましょう。今回はスノウと視覚共有するのではなく、スノウの分霊に宿った私と視覚共有します』


(うわお、何でもありになってきたな。そんなこともできるのか?)


『あれこれ説明するのは後です。では、マスターの体からスノウの分霊を分離します』


 また、前回のようなめまいを感じた後、視覚が二つになった。目の前に美しい金緑色の光の球が浮かんでいる。そして、片方の視覚は俺の姿を映していた。


『どうですか? ちゃんと見えていますか?』


(ああ、俺の姿が見えているよ。うん、アーマーとブーツはなかなかいいな。髪が少し伸びすぎたな、そろそろ切らないと……)


『何をのんきなことを……ほら、奴らがじれてこっちに向かって来ましたよ。じゃあこの前と同じやり方でいきますよ』


(ああ、了解! じゃあ、スノウ、お前の好きなように動いていいぞ)


『わかった~~、いっくよ~~!』


 スノウは再び飛び始めた。そのスピードはワイバーンの比ではなかった。

(うおおお、こ、これじゃあメイスは使えないぞ。ナビ、魔法攻撃でいく!)

『了解です。ワイバーンの皮膚は硬いので、羽を狙うのが効果的です。ここは、ファイヤーアローでいきましょう』

(よし、了解、火の矢、いや、火の槍のイメージだ。あ、でも、ワイバーンて火を吐いたり、風魔法を使ったりしないのか?)

『いいえ、ワイバーンは魔法は使えません。ドラゴンと間違っていませんか?』

(え、そうなのか? 前世で見たアニメでは火を吐いたり、ウィンドカッターを使ってたぞ)

『どんなおとぎ話ですか。ワイバーンの武器は足や羽の先の鋭い爪と、牙です。さあ、来ましたよ』


 近くに来たワイバーンは、想像以上の大きさだった。足の爪でも俺の顔くらいある。あんなのに引っ掻かれたら、一発でバラバラになりそうだ。


 しかし、スノウの速さに奴らはまったくついて来れなかった。直線的に進むのは速いが、方向を変えるのは得意じゃないらしい。


『くらえええ~~っ!』

 スノウが一匹目のワイバーンの後ろに回り込み、口から金色のレーザーのような光を放った。それはワイバーンの羽の付け根に当たり大きく切り裂いた。

 

ギャアアオオッ!


 ワイバーンは空気が震えるような悲鳴を上げて、くるくると回りながら地上に落ちていく。

 おお、すげえっ、かっこいいな、スノウ! 口からレーザービームが出るのか!


『光魔法ライトジャベリンですね。マスター、こっちもいきますよ』


(おうっ、こっちは火の槍だ! ファイヤージャベリンッ!)


 俺の頭上にいたナビの宿る光の球から背後のワイバーンに向かって、柱のような太さの炎の槍が放たれ、驚きに固まったワイバーンを一瞬のうちに炎に中に包み込んだ。


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