第19話 ダンジョンの街に行くよ
夏が終わり、雨の日が多くなった。俺がパルトスの街に来て三か月が過ぎようとしていた。
俺はCランクに昇級し、あともう少しでBランクが見える所まできていた。十一歳で、しかもソロの冒険者がBランクに昇級するのは、ここ数十年で無かったことらしい。
まあ、そんなわけで、俺は街で結構有名人になり、もう馬鹿にする奴らも少なくなった。ただ、冒険者は入れ替わりが激しいからね。他の街から来た連中は、俺のこと知らずに絡んでくることも、たまにあるわけですよ。
「おお、いたいた。久しぶりだな、トーマ」
「あ、ルードさん、お久しぶりです」
ギルドで掲示板を眺めていると、ドアを開けて数人の冒険者たちが入って来た。その中で俺に声を掛けてきたのは、《虹の翼》というパーティのリーダー、ルードさんだ。
かつて、俺は彼らとオーク討伐で知り合い仲良くなり、それから何度か一緒にクエストもやって良好な関係を築いていた。彼らはすでにBランクに昇級し、このパルトスの街でもトップクラスの冒険者たちだ。
「ちょっと相談があるんだが、いいか?」
「あ、はい、いいですよ」
俺たちはラウンジに移動した。
「実はな、俺たちが世話になっている商会から、ラマータの街まで荷馬車の護衛を頼まれたんだが、ちょうど他の仕事と重なっちまってな。それで、代わりにあいつらを紹介したんだが……ちょっと心配でな」
ルードさんはそう言うと、後ろに立っていた若い四人組を手招きした。
「ほら、ジェンス、自己紹介しろ」
ルードさんに言われて、四人の中のリーダーらしい赤い髪を短くカットした十五、六歳くらいの少年が、俺の前に立った。
「初めまして。俺は、Cランクパーティ《赤き雷光》のリーダー、ジェンスだ。そして、メンバーのベンとキャリー、シュナだ。よろしく」
少年はしっかりした態度と話し方で、さすがにルードさんたちに認められるだけの有望なパーティという感じだ。
「トーマです。Cランクでソロでやっています。それで、ルードさん、俺に相談って……」
「ああ、すまないが、こいつらの手伝いをやってほしいんだ。一緒にラマータの街まで行って帰って来るだけだ。商人にはちゃんと一人分の依頼料を追加してもらうし、宿代も向こうが持ってくれることになっている。ただ、商会の仕事の都合で、三日間街に滞在することになるんだが、どうだ?」
ふむ、商人の護衛か。他の街にも行って見たかったから、引き受けてもいいんだけど……。
「ええっと、そんな良い条件で、俺なんかが引き受けていいんですか? ジェンスさんたちだけで十分な気がしますが……」
「ああ、それなんだが……ラマータへの道は王都への街道から外れているんだが、けっこう人の往来が多くてな、そのせいか、盗賊もよく出るんだ。
ジェンスたちは魔物に対する実戦は、それなりに経験を積んでいるんだが、対人戦の経験が無くてな。お前がいろいろ教えてやってくれ」
「う~ん、俺も対人戦はあんまり経験が無いんですが……」
「はあ、何を言っている? 俺たちと盗賊討伐のクエストをやったときは、一人で十人近くの盗賊たちを倒していたじゃないか」
「ああ、トーマなら安心して任せられるぜ」
「うん、トーマ君なら大丈夫よ。この子たちをよろしくね」
ルードさんのパーティ仲間のバルクさんとレジーナさんも口添えしたので、もう俺が引き受ける流れになってしまった。
「分かりました。その依頼引き受けます」
こうして、俺は初めての護衛依頼を受けることになり、翌日ラマータの街に向けて出発した。
♢♢♢
ラマータとパルトスは異なる領地に属している。パルトスの領主はレブロン辺境伯で、パルトスの隣町である領都ベントスに館を構えている。この辺りは魔物も多く、複数の国と国境を接している厳しい領地だが、領内の街道は比較的安全だ。辺境伯は、領民のことを大切にして、領兵による街道の巡回や、魔物討伐を頻繁におこなってくれているからだ。
それに対して、ラマータの街はボイド侯爵の領地だ。現王室の親族であり、王位継承権も持つ大貴族の一つだ。領地は辺境伯領より少し広いくらいだが、土地が豊かなうえに、二つの現役ダンジョンを有している。当然財力も豊かだ。しかし、領内は治安が悪いともっぱらの噂だ。領兵による巡回や魔物討伐もほとんどされていないらしい。まあ、よくある話だが、人間は権力を握ると、とたんに周りが見えなくなる。ボイド侯爵も恐らくそんな凡愚の領主なのだろう。
ラマータまでは馬車で三日の距離だ。途中に二つの村と、一つの街がある。一日目は、辺境伯領最後の村ミントスで宿泊の予定だ。
幸い雨も降らず、俺たちの馬車は、もうすぐミントスの村が見えるという所まで来ていた。ここで馬たちに水をやるために、いったん休憩することになった。
「なあ、トーマ、さっきの話だけど、ギフトが外れでも、スキルとレベルを上げれば強敵にも対抗できるって言ったよな?」
馬車から下り、道端の草の上に座って休んでいると、《赤き雷光》の四人が近づいて来た。
「はい、そうですね」
ジェンスさんの問いに頷く。
「俺は《剣士》のギフト持ちで、レベルは25、〈薙ぎ払い〉、〈刺突〉、〈力溜め〉のスキルを獲得している。トーマのレベルとスキルで、俺に勝てると思うか?」
「えっと……〈身体強化〉は持ってないんですか?」
俺はすでに〈鑑定〉で、ジェンスさんのステータスを知っていたが、あえて尋ねた。
「ああ、なぜか〈身体強化〉は獲得できてないんだ。他の三人は持っているんだけどな」
「だったら、僕が勝ちますね。遊撃タイプ、近接タイプの人には、〈身体強化〉のスキルは必須です。頑張って獲得した方が良いです」
「そうか……なあ、ちょっとだけ手合わせしてもらえないか?」
やはり、自分より五歳も年下の同ランクの者には負けたくないのだろう。出会った時から彼の気持ちには気づいていた。
「分かりました。一本勝負でいいですか?」
「ああ、頼む」
俺とジェンスさんは草原の中で向かい合った。武器はお互いが得意なメイスと片手剣だ。
「遠慮はしなくていいぞ。君が言ったことを証明して見せてくれ」
「分かりました。では、いきますっ!」
「はやっ! くっ、がはっ!」
俺の攻撃は単純なものだった。ダッシュして上段からの打ち込み、当然避けるか剣で受けるしかない。ジェンスさんは剣を横にして受けた、が、これは惡手、俺はそのままの流れで屈み込み、持ち手の方を突き出して、がら空きの鳩尾に突きを入れたのだ。
近くで見ていたベンさん、キャリーさん、シュナさんも、唖然となった。
「ま、まさか、ジェンスがなすすべもなく負けるなんて……」
「これほどの差だなんて……」
「速すぎる……」
「ちょ、ちょっと待て……今のは確かに油断した。もう一本、頼む」
「いいですよ。今度はそちらが先手を取ってください」
「行くぞっ!」
ジェンスさんは、剣先を下げて斜め後方に引いたまま駆け出した。剣の動きを予測させない方法としては良いが、いかんせん動きが遅すぎる。
メイスを槍の様に構えた俺に、剣を振り上げたら突かれると思ったのか、ジェンスさんは俺の目の前でくるりと体を回転させ、薙ぎ払いを放ってきた。
俺は余裕でそれを躱すと、ジェンスさんが体勢を元に戻す前に、怒涛の連続突きを放った。ジェンスさんは避けるか剣で受けるしかなかったが、ついに体勢を崩して尻もちをついた。
「ま、参った……あははは……差がありすぎて笑いしか出て来ないよ」
俺はジェンスさんに手を差し出して引き起こした。
「俺も、自分ではまだまだだと思っています。お互い、頑張りましょう」
「ああ、俺も目が覚めたよ。まずは身体強化からだな。ありがとう」
ルードさんが目を掛けているだけあって、ジェンスさんたちは素直で、前向きな伸びしろ十分な若者たちだった。
『なに年上のような、上から目線で語っているのですか、マスター?』
……うるさいよ。
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