46 迎え
『2人ともこんなとこまで来てたんだね。』
サラサラの水色の髪を肩まで垂らし、女みたいな格好をしたテオがいた。
「テオドールッ、無事だったの?!」
リーチェが安堵したように駆け寄るが、身なりも整ってるし、城で離れ離れになった後、命からがらと言うわけではねぇだろう。綿毛の塊みてぇなもンが頭にくっついてるが、胞子を降らせる花の側でも通ってきたか??
『ローラン王子が、魔鳥の後を追えって逃がしてくれたから。』
リーチェが「胞子がついてるわよ。」と頭についてる綿毛を手ではらうと、気づいてなかったのか少し顔を赤らめながら答える。
「馬はどした?」
ミラリアの街中からここまで徒歩で来るのは、いくら何でも無理な距離だ。
『魔獣に殺されたら可哀想なので、魔女の森に入る前に逃しました。わが屋敷の馬ではありませんでしたから。』
「妥当だな。普通の馬ならビビってそもそも入ってこねぇだろうし。」
リーチェが魔獣という言葉を聞いて、肩を震わせブルッと身震いした。
「オレがついてる。」
華奢なリーチェの肩を抱き、心配そうにフルフルと揺れてるマゼンタの瞳を覗き込む。
(このままオレの腕の中だけに、閉じ込めてしまえたらいいのに。)
『ダメですよ、兄様っ!リーチェリアの鈍感さをいいことに、必要以上の接触はッ!』
テオがクリッとした大きな瞳でキッと睨むと、なぜか赤い耳飾りまでぴょこんと跳ねた。
(あ~こりゃ、リーチェまでテオに懐かれちまったな。)
「え?」
リーチェがテオの言葉に反応し潤んだ瞳でオレの顔を見上げるが、そーいうとこが鈍感と言われてンのに。
「こんなの普通だろ?」
全然足りねぇ。本当はリーチェの全てを奪い尽くしたい。
『兄様を狙う令嬢たちからの嫉妬が、全部リーチェリアに向かうんですからっ!』
テオはプンスカッと眉を吊り上げ、頬を膨らます。
「ったく、テオは小姑みてぇな奴だな。」
「ふふっ、2人とも仲が良いわね!」
リーチェがオレとテオのやり取りを見ながら赤い唇を綻ばせ、ふわりっと楽しそうに笑う。
『もうっ~、あんたってほんと誰かがついてないと危なっかしいよね。』
テオが肩に下げてた袋を、ドサッと地面に置いた。
「何だ、その袋は?」
『用意されてた変装用の服を持ってきたんです。あ、魔鳥が連れてってくれたんです。ローラン王子の知り合いらしいミカエルという商人の店に。もちろん兄様の剣もこの通りちゃんと持ってきましたよ。』
背中に背負っていた両刃のロングソードを目の前にかざしてくれるが、そんなことよりミカエルという名前が気になるんだが。
「嫌な予感がする。」
リーチェにちょっかいかけてた奴だ。よりにもよって、ローランも何でそんな奴に頼むかなぁ。
『大丈夫ですよ。さ、兄様、リーチェリア、着替えてください。』
◇ ◇ ◇
「こんな感じでいいのかしら??? 」
「やっぱり。」
オレは頭を抱えたくなった。ミカエルが寄越したのは、旅芸人の衣装だった。
リーチェが薄紫の薄い衣だけを纏って目の前にいる。胸や腰の曲線を強調するようなデザインに、今にも脱げそうな心許ない留め具。しかも布越しに肌が透けそうだ。
胸元と手首と足首につけた金属の飾りが、リーチェが動くたびにカランッカランッと耳に心地よい音を立てる。
(こんなの今にも襲ってくれって言ってるようなもンじゃねーか。)
『これってローラン王子の趣味???』
テオも耳まで赤くして戸惑ってるが、ローランっつーよりミカエル本人のごりごりの趣味丸出しだろ、これ。あの女好きがッ!
「で、でもこれなら貴族の令嬢には見えないわ。」
「間違いなく、下心つきで男の視線は増えそうなんだが。」
(2人きりの時なら文句ねぇんだけど。)
『それ、着方が違うんじゃ???』
テオが首を捻る視線の先を見ると、確かに首の留め具のとこがだぶついて太ももが露わになっている。リーチェの扇情的な白い太ももを直視すると、理性が壊れそうだったので見ねぇようにしてたが。
(このままだとやばいっ。とにかくオレの理性やら何やらいろいろやばい。)
「リーチェ、これはここだろ。」
オレは今にも外れそうな首のとこについてた金の留め具を髪に引っかからねぇようそっと外し、代わりに腰のところへ巻きつけた。
「後はココとココをこうやって結んで。」少し動いただけでぱらりと落ちてきそうな布を1つ1つ丁寧に留めていく。おかげで太もも部分は隠れたが、これ、へそが見えるデザインか??? 柔肌に食い込んだ布が妙にエロい。
「シ、シエルッ!」
リーチェが今頃照れて体を隠すように腕をクロスさせるのを見て、テオが子犬みてぇにキャンキャン騒ぐ。
『兄様はリーチェリアに甘すぎますっ!だからいつまで経ってもこんな頼りないんですからっ!』
「オレはもっと甘やかしてぇンだ。」
リーチェが羞恥に潤んだ瞳を見開き「ひゃいっ?」とワナワナと唇を揺らす。
「とりあえず上からローブを羽織れば大丈夫だろ。」
袋の中から、2人分のブラウンのローブを取り出す。なぜかテオだけ、白のゆったりとしたズボンと黒のベストで、エキゾチックな笛吹きのような衣装だ。
『兄様、密猟が横行して、城周辺の瘴気が一気に増えています。』
「だろうな。モーヴェ家の野郎、好き放題やりやがって。」
今やモーヴェ家は、悪徳なやり方で一財産築いたと聞く。金の力で王家に反旗を翻し、寝返った奴もなかにはいるだろう。奴が厄介なのは、隣国や取り引先の国の荒くれ共を金で買い、かなりの軍事力も個人で持ってるってことだ。
前の世界でなぜノワールがリーチェを刺し殺したのかずっと疑問だった。でもそれも、リーチェの魔力が欲しいという馬鹿げた理由だったんだ。
考えるほど怒りでどうにかなりそうだ。そんな冷静さを欠いた気持ちが一瞬で凪ぐ。
「シエル、早く戻りましょう。」
「ああ、、、とりあえずユニコーンの姿で街まで戻る。街に着いたらバレねぇよう旅芸人の姿で城へ近づく。2人とも乗れ。」
風もないのに片耳で藍の色を振りまくように耳飾りが揺れる。自分の体が銀の粉を纏うのを自覚する。ホワイトゴールドの光の中に溶けちまいそうだ。内側の魔力の流れが強い渦を巻き頂点に達したとき、オレはユニコーンへと姿を変えた。
「あんた鈍そうだから、先に乗りなよ。」
テオがリーチェの手を引き、落ちないようにと甲斐甲斐しく世話を焼きながら先に乗せようと悪戦苦闘するが、、。慣れねぇ服でもたもたと乗りづらそうだ。それでも何とかリーチェはたどたどしくユニコーンの背にまたがるように腰を下ろすと、首に腕を巻きつけた。
その様子をハラハラとした様子で見ていたテオがポツリと呟く。
「兄様が人の姿だったら、相当際どい体勢なんだけど。」
〜〜っ!!!
わざわざ言わなくていいことを言うところが、まだ子どもだっつーんだ。テオの言葉にリーチェが動揺して動くから、余計に太ももの感触を感じちまうじゃねーか。
リーチェが湖で裸でオレに抱きついてきた時も、衝動を抑えるのにどんなに苦労したかっ!
(オレ、今晩、正気でいられっかな???)
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