第4話 ガーデンコントローラー
「彼が勇者……」
私は勇者だというゴドフリーさんを見つめた。ゴドフリーさんは同年代のような雰囲気を漂わせた少しツンツンとした黒い髪の男の子で、簡素な無地の布の服を着てはいるけど、袖口や裾から覗く腕や足にはしっかりとした筋肉がついていて、軽く握られた手は少しゴツゴツとしていたため、その少し男性的な見た目に私はドキドキとしてしまった。
「あ、あの……」
「…………」
「えっと、もしもし……」
「…………」
呼び掛けてもゴドフリーさんからは返事は来ず、私は少し不安になってしまった。
「ティアさん……ゴドフリーさんはどうしたんでしょうか……」
「心配はいりませんよ、神野和さん」
「心配はいらないって……」
「何故なら、彼はただ眠っているだけですから」
「……ふえ?」
思わぬ言葉に私は思わず変な声を出してしまった。そして耳を澄ませてみると、たしかにゴドフリーさんはスースーと寝息を立てており、その様子に安心すると同時に少し呆れてしまった。
「なんだ……追放されたって聞いてたから、結構参ってるのかなと思ったのに……」
「勇者時代はその使命のために頑張っていましたが、いざそれが無くなったら肩の荷が下りたのかそれはそれで良いという結論に落ち着いたようですからね。ゴドフリーさん、起きて下さい」
「んむ……」
ゴドフリーさんは小さな声を上げると、ゆっくりと目を開け、大きな欠伸をしながら体を上にグッと伸ばした。
「んーっ……あれ、ここは……?」
「お疲れ様です、ゴドフリーさん」
「あ、女神様……って、そっちの子は?」
「こちらは神野和さん。異世界からご足労願った方ですよ」
「は、初めまして……」
「カミノノドカ……こっちでは中々聞かない名前だな。まあいいか、それでノドカをどうして呼んだのかとかここはどこなのかとか聞いても良いですか?」
「もちろんです」
ティアさんは微笑みながら頷くと、さっきまでの話を繰り返す。話を聞いている間、ゴドフリーさんは相槌を打ったり詳しく聞いたりしながら頭に入れていき、話が終わると同時に顎に手を当てながら小さく唸った。
「うーん……俺のサポート役か。別に勇者に戻る気はないし、衣食住さえ確保出来れば良いですけど、女神様は俺を勇者に戻すためにノドカを呼んできたわけじゃないんですよね?」
「はい。勇者としての資格は貴方にしかありませんが、その気が無いならばそれでも構いません。彼女に来て頂いたのは、向こうでの貴方の生活をより良い物にするためですから」
「生活をより良い物……ゴドフリーさんを手伝うのは別に良いですけど、どうやるんですか? やっぱり私もゴドフリーさんがいる世界に行くとかですか?」
「本当はそれが望ましいですが、今はそれが出来ないのでこの神庭を用意したのです。神野和さ──」
「あ、私も和で良いですよ。いつも名字込みで呼ぶのは流石に疲れると思うので」
「ふふ、わかりました。では和さん、ゴドフリーさん、手を出して頂けますか?」
その言葉に従って私達はそれぞれティアさんに手を差し出す。すると、私達の手の中に突然白い光が現れ、それに驚いている間に白い光は形を変え、両手で持つくらいの大きさの携帯端末のような物へ変わった。
「わっ……こ、これは……?」
「なんか黒くて薄い板みたいな物だけど……女神様、これが何か魔道具的な物なんですか?」
「近いですね。これはガーデンコントローラーという名前の道具で、簡単に言うならばこの神庭を発展させるための機械ですね」
「神庭を発展……要するに箱庭ゲームの要領でここに施設を建てたり環境を変化させたりするという事ですか?」
「はこにわ、ゲーム……?」
「こっちにはそういう感じのゲー……遊びがあって、その中で自分の思ったような世界を作り上げる物なんです」
「へー……そっちの世界ってなんだかスゴいんだな。女神様、発展させると何か良い事が起こるんですか?」
ゴドフリーさんの問いかけに対してティアさんは頷く。
「はい。今はまだ少ないですが、和さんが仰っていたようにここには様々な施設を建てたり環境を変化させたりする事が出来、発展させればする程にその種類が増えていきます。
そして、ここで建てた施設で製造した物や育成した物はそれぞれの世界へ持ち帰る事が出来るので、必要な物があれば一度ここへ来て作り、出来上がったら元の世界へ戻ってすぐに使う事も出来ますよ」
「例えば、農業中に農具が足りなくなったらここに来て作ってそれを持って帰る事が出来るって事ですよね?」
「その通りです。では、実際にガーデンコントローラーを使いながらどのようにしていくか見ていきましょうか。お二人とも、ガーデンコントローラーの右上部にある銀色の部分を軽く押してもらえますか?」
頷いた後、私達は言われた通りに右上部のボタンを押した。すると、ガーデンコントローラーの画面が軽く光り、それに驚いている間に画面からは光が放たれ、光は私達の全身を上からゆっくりと照らしていった。
そして足まで照らし終えると、画面にはデフォルメされたミニキャラの私達と神庭、そして発展レベルや現在時刻などの様々な情報が表示された。
「な、なんだこれ……!?」
「す、スゴい……! 本当に箱庭ゲームをやってるみたい……!」
「とても良い反応ですね。では、早速説明を始めていきますね」
その言葉に私達が頷いた後、ティアさんは微笑みながら説明を始めた。
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