第17話 撤退
しばらくしてよう早く煙が晴れる。
「ふむ…自身を囮にした2段階構えの作戦ですか…」
(1度目の男の不意打ちは私の警戒を解き本命の2発目の魔法を完璧に当てるための布石。)
「しかもその作戦を悟られないために仲間を呼びに行ったと言う嘘、そして最後は自爆覚悟で私を限界まで引き付けた…」
「ハハハハハハハハ…はぁ本当に最っ高です!」
「もし最後の魔法がもっと高威力であったなら…」
「もし私が本当に何も気付かずに防御できなかったら…」
「危なかったかもしれませんねぇ?」
ザインが腕を見ると焼け爛れていた。
もしこれが人間であれば使い物にならなかっただろう。
「本当に痛みは久しぶりですよ…」
そう言いながら腕を治す。
魔族の身体は半分は魔力で出来ている。
だから本来であれば治癒魔法か回復薬無しでは治せないような傷も少し力を込めるだけで簡単に治ってしまう。
「さて…追いかけましょうか…」
ザインが勇者パーティーを追いかけようとした時だった。
「あんた…流石にやり過ぎよ!」
いきなり後ろから呼び止められる。
「おやおや…イアさんじゃないですか。」
「今から帰る所ですよ。」
ザインは作った様な笑みを浮かべる。
「はぁ…嘘ばっかり…帰るわよ!」
イアは苛ついたように空中に手をかざす。
すると空間が割れる。
「ほら、早く入って!」
そう言いながら無理矢理ザインの手を引きその割れ目に放り投げた。
「ほんっと…やり過ぎよ…」
イアは唇を噛みながら心配そうに呟くと自身も空間の歪みに飛び込んだ。
―――――――――――――――――――――――
あれからミラは先に逃げていたアリスと暫く先に行った街に近い森の入口部分で合流していた。
「アリス!2人は無事?!」
ミラは息を切らしながら焦った様子でアリスに2人の様子を聞く。
「ガウスさんは肋骨が数本で意識が無いです!」
「それよりリオさんが危ない!全身大火傷と片腕切断により出血多量、意識不明で心肺停止しています!」
本来なら死んでいるような状態。
一刻の猶予もない状況だ…
「わかった!ガウスは回復薬でリオの回復に必要な魔力は私のを使って!」
そう言いながらミラは雑に回復薬をガウスに飲ませる。
「ゴホッゴホッ…」
するとガウスが回復薬を咳き込んだせいですぐに目を覚ます。
「ガウス聞いて!」
「リオが重症を負った!治療は私達がやるからあなたは周囲の警戒をお願い!」
「わかった…あれからどうなった?」
「魔法で離脱は成功した!」
「ただ魔力反応から生きてはいたけど今はその反応が感知できない。」
「魔力を隠したのかどうか分からない上ここの近くに魔物がいない保証もないから警戒を頼む!」
「そしてもうすぐ救助が来るはず!」
「わかった」
「警戒は任せろ!」
「ミラさん!魔力を分けてください!」
「わかった!」
ミラはアリスの肩に触れ魔力を送る。
本来冒険者にとって傷というのはありふれた物で軽い傷なら自然治癒。
そして放置できないレベルの傷には回復薬を使う。
ただ回復薬も万能じゃない。
回復薬は本人の再生能力を飛躍的に高める薬で傷だけを治す。
そのため使用者の体にかなりの負担をかける。
だから死の淵にいる人間に使えばそのショックで死んでしまうことも多々ある。
しかしヒーラー、治癒魔法の場合は傷ついた身体と魔力の流れを正し傷の悪化を止めながら体に負担のない範囲で傷を治す。
だからこそ今アリスが回復せざるを得ないこの状況は最悪だった。
少し時間が経つ。
「はぁ…はぁ…何とかなったわね。」
「そう…ですね…」
そこには疲れきった2人とすやすやと穏やかな顔で眠る1人が居た。
「おーい、仲間が来たぞー!」
そう言う彼の後ろには数十人の冒険者たちが居た。
「ありがとう…ガウス。」
「良いってことよ…」
疲れた声が返って来る。
「皆さん無事ですか?!」
後ろから一際大きな声が聞こえてくる。
「あぁ…こいつはこのパーティーの頭のユーリだ。」
「し、失礼しました私ユーリです!」
なんと言うか少し抜けている様な青年だった。
「初めまして…私はこのパーティーの魔法使いのミラです。」
「私はアリス。ヒーラーです。」
2人は手短に挨拶をする。
「それで…早速、街に戻る護衛をお願いしてもいいですか?」
「えぇもちろん!それで魔族の方はどうなりました?」
「え、えぇ…何とか追い払ったわよ?」
ミラがたどたどしく答える。
実際は追い払えたかどうかは分からない。
ただ魔力が消えたのは事実。
おそらくはどこかに消えたのだろう。
彼は少し考えて…
「わかりました。それでは護衛は任せてください」
そういうなりすぐに
「全員!これから街に帰る!」
「それまで勇者パーティーを護衛せよ!」
全員にそう言い放つと数人がリオを運び出し勇者パーティーを囲んで撤退の準備を即座に終えた。
そして彼らは帰路についた…
―――――――――――――――――――――
「こんにちは!ライラさん。」
俺はあれからすぐに冒険者ギルドに戻ってきていた。
だが気のせいだろうか周りが少し慌ただしい気がする。
「こんにちは!レイさん。いつの間に帰って来られたのですか?!」
「あぁ…ついさっきだ。」
(そういえば帰ってきた事を報告するのを忘れていたな。)
本来ギルド側が冒険者の動向を把握する事は無い。
だが魔物活性化に伴いスムーズに対処するために最近は把握するようになっていたのを忘れていた。
「はぁ…今回だけですよ?
これからは気をつけてくださいね?」
「本当にすまん…」
「それで…依頼は受けていかれますか?」
「いや、今回は依頼はいい。それより何かあったのか?」
「実はレイさんがさっきまで向かっていたところに…魔族が現れまして…」
(魔族が現れた…か)
しかもあそこに…
やはりの遺跡には何かまだ俺には知りえない秘密があるのかもしれない。
(まぁ俺には何も分からなかったけどさ…)
「それで…今回は誰が対処しに行ったんだ?」
「リオさんです。」
「なるほどな。」
(アイツらが行ったのなら問題は無いだろう。)
彼らはの事は正直好きでは無い。
だが実力は本物だ。
大した危険もなく討伐、最低でも追い払うぐらいはできるだろう。
「ならいい。」
「…意外とあっさりしているんですね。」
「もう少し焦るかと思いました。」
彼女からそんなふうに言われる。
いくらパーティーを追放しれたとはいえ心配もしないのは不思議に見えるか…
まぁ当然か…
魔族の討伐は生死を揺るがすほど危険な依頼だ
それを唯一の幼なじみが任されたんだからな…
「あぁ…あいつらなら心配ないだろう…」
「信頼しているんですね…」
「まぁな…あいつらの強さはよく知っているからな…」
嫌という程知っている…
「それよりも今日は聞きたいことがあってきたんだ!」
俺はとある物の場所を聞きたくてここに来た。
そしてそれさえあれば彼らさえ越えられるかもしれない希望がある。
「ほぅ…リオさんが…珍しいですね。」
「それでその聞きたいこととは?」
俺は1拍置いてそれを告げる。
「伝説の勇者の装備の場所を知りたい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます