第15話 幸せな結婚と義母と義妹のその後
婚約は発表され、私はアーノルド様に伴われて、夜会に出るようになった。
リンカン伯爵家も父も、ほっとした様子だった。
「収まるところに収まったわ」
リンカン伯爵夫人はとても嬉しそうだった。
「一時はどうなる事かと思ったけれど、これでもう安心ね」
でも、一番ほっとしたのは私だった。
アーノルド様なら安心だ。
世界中に私しかいないと言っているみたいな彼の目を見ると、とても恥ずかしい……けれど、ドキドキふわふわした不思議な気持ちになる。
アーノルド様を結婚申込に走らせた伯母のギブゾン夫人には、感謝している。
あれって、はっきりしない私たちに喝を入れたってことよね。
あんなことのあった我が家から、嫁を欲しいだなんて思う人はいないと思う。だから、私は遠慮気味で、結婚に向けて積極的に動けなかった。伯母様はそんな私のために、アーノルド様を、いわば煽ってくださったんだわ。
「違うよ。僕が頼んだんだよ。あなたの意向を聞いてほしいって」
婚約者のアーノルド様が身をかがめて囁いた。
「だって、本当に結構な数の家から、あなたとの婚約の打診があったらしいんだ」
本当なの?
あら、でも、なぜ、知っているの? 私が知らないのに?
「だってハンナが教えてくれるんだもん。伯爵の書斎に申込書が積んであるって」
ええ?
流れるように結婚式まで順調に運ばれていって、なんだか順調過ぎて夢のようだった。
「愛しているよ。アマリア。よかった」
婚約後は、毎日のようにアーノルド様は私の邸に来てくれたし、二人で街で買い物やレストランの食事やお芝居も見に行った。
娘の幸せな結婚は、父の評判に良い影響があったと思うし。
自己満足かな。
そうこうしているうちに、結婚式の日を迎えた。
「おめでとう! アマリア!」
「よかった! 本当に良かったわ」
みんなから祝福された結婚が、こんなにも嬉しいとは思っていなかった。
ハンナを始めとした使用人たちも心を込めて、世話をしてくれた。
リンカン伯爵家の人たちは、手放しで喜んでくれていたし、あまり感情を表に出さない父も、これまでのことを思ってか複雑そうだったが、よかったと言ってくれた。
「いや、あれは娘を手放したくないだけだ」
アーノルド様が言った。
「僕にはわかる。それくらいなら、もっと大事にすればよかったんだ」
「でも、アーノルド様」
「アーノルド」
優しく訂正された。
「様はいらない。前も言ったよね」
「でも、アーノルド様。父は出来るだけ頑張ったのですわ。自邸にいることも少ないし、不器用な方ですもの」
「いーや。ダメだ。あなたに嫌な思いをさせたのに。今日からは僕が君を守る」
一方で、義母のジョアンナは詐欺罪で、北のはずれの刑務所に入れられた。厳しい刑務所なのだと聞いた。これまでの暮らしとは、雲泥の差だろう。改悛してくれればいいと思う。
ただし、娘のグロリアは無罪だった。
彼女は、このなりすましについては、何も知らなかったし、何か企んだり実行したわけではないからだ。
釈放されたグロリアは、早速、ダラム伯爵家にやってきたけれど、ハンナが家に入れなかった。
「あなたが、この家になんの関係があるって言うんですか? よくこの家に顔を出せたものですわ!」
グロリアは元の使用人のところにも行ったらしい。だが、もっと酷いあしらいを受けたらしかった。
グロリアをチヤホヤしていた元の使用人たちは、グロリアを恨んでいた。
グロリアのせいで、本当の女主人の私から悪意を持たれてしまい、仕事を失ったのだ。
本気で私の悪口を言って回った連中は、もう貴族の家でなんか雇ってもらえなかった。主人の悪口を好んで言う使用人など、雇えない。
彼らがグロリアを歓迎する理由なんかない。
どこでも、冷たいあしらいを受けたらしく、リンカン伯爵家を頼ってやってきたのには驚いた。
完全な赤の他人である。
それどころか、正直、加害者なのだ。
「家に入れてはいけません」
私は言った。
「ご
事情を知らない新しい門番が伝えにきて、古参の女中に張り飛ばされていた。
「追い払いなさい!」
その後、どうなったのか知らない。
どこかで一生懸命働いて、幸せになればいいと思う。
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