ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
第8話『どうして現実はこんなに世知辛いのか』
第8話『どうして現実はこんなに世知辛いのか』
どうして現実はこんなに世知辛いのか。
俺は、バスに乗りながらそんなことを心の中で愚痴る。
放課後、ショッピングモールに向かっているわけだが……そう、こんなめんどくさいことを言い出したのは有坂だ。
買い物なんてネット通販で済ませればいいのに。
バスの中には他の人も居るし、気軽にため息を吐くこともできない。
唯一いいことがあるとすれば、移り替わる景色ぐらいじゃないのか。
そんなこんなしていると目的地であるショッピングモールに着いた。
支払いを終わらせて下車し、辺りを見渡す。
ついでに時間を確認すると、16時。
集合時間ちょうどだが、まさか文句は言われまい。
「お、いたいた」
左前方向に有坂の姿を目視。
柱の裏側に立っているのが見切れているが、ちょっと動いた時の横顔が見えたから間違いない。
「お待たせ」
「おっ、きたきた」
「あれ?」
「あ、あの。こんにちは」
どうして鈴城がここに。
「どうしてそんなに他人行儀なんだ。って言いたいが、こうして会うのは二回目ぐらいだったか?」
「はい……うん。入学式にお話をした以来、かな」
「じゃあ1カ月ぶりぐらいか」
「まあこの時代、授業するために登校するなんてないからな」
「そんなことより、何か感想はないの?」
「何がだよ」
こんなところで立ち話をしているより、早く買い物を済ませたいんだが。
有坂の言う感想とは何を意味しているのか。
「なーにって、決まってるでしょ。女の子2人もいるんだよ? お洋服の感想だったりいろいろとあるでしょうが」
「ああ。じゃあ有坂は置いておいて。鈴城って、やっぱりそういう清楚感溢れる服装が物凄く似合うよな。長い黒髪と白い肌に合いすぎて、隣を歩いてくれる女の子って言ったらこうでなくっちゃな」
「え、ああああありがとうございますっ!」
「加えていうなら、俺のドタイプ。超好き」
褒めろと言われたから褒めてみた。
褒め殺しみたいな感じになっているし、ちょっとおふざけを少々加えているが。
「あひゃ!?」
「ん?」
褒められたことがそんなに嬉しかったのか、鈴城は頬を真っ赤に染め上げて妙な声を発した。
まあたしかに、今の時代で容姿を褒めるなんてしないしされないだろうしな。
実際に他の人がどうかとかは知らないが。
「ちょっと暁ね、奏美ちゃんが困ってるじゃない。ってか、なんで私は置いておかれるのよ? 好きな食べ物は最後に食べる派なの?」
「鈴城、ごめんな。ちょっと調子に乗り過ぎた」
ガミガミとうるさい有坂を無視して、鈴城に手を合わせ軽く頭を下げた。
「また無視した」
「いやだってお前、一昨日に顔を合わせたばっかりだろ」
「私だって、オシャレしてるし」
「てかお前、そもそもがルックスいいんだしもっと胸張っていろよ。声なんて張らずに」
「え、あ……そう? あ、ありがとう」
オシャレしていることぐらい俺にだってわかる。
つい数日前に見た清涼感の塊みたいな制服姿から一変、栗色を基調としたスカートに白色の長袖。
普段の有坂の明るい正確にピッタリ合った服のチョイスだ。
別にそれをわざわざ言わなくたって、既にほかの誰かに褒めてもらっているだろ。
「奈由ちゃん、本当にそれでいいの……?」
鈴城がそんなことを言っているが、有坂はどうやら耳に入っていないようだ。
あーでもこれ、俺が一番苦手な展開にならないか?
「暁くんもかっこいいよ」
「お、おう」
「そうよ。暁だってもっと胸を張りなさいよ。チラチラ視線が気にならないの? あの人達、暁を観てるんだよ」
「それはないだろ」
「それが事実なのよ」
「う、うんうん」
やはりこういう流れになった。
自慢しているみたいになるから、こういうのはやめてほしいんだ。
別にモテたくて努力したわけではないし、モテたいとも思っていない。
小さい頃なんかは直球で同級生に言われたりしていたから、ちょっと自分が誇らしく感じていたが、それが続くと嫌気もさしてくる。
だから、俺は他の人とできるだけ関係をもたないようにしているんだ。
「あれ、だ。こんなところで立ち話も疲れるだけだし、行くぞ」
「ふふっ、そうね」
「よ、よろしくお願いします」
俺達は何を購入するためにここに来たかというと、なんてことのない靴下。
当然、必要なのは俺ではないが、同行してほしいという連絡が20件ぐらいも立て続けに送信されてきたため、流れを止めるには了承する他なかった。
学校で授業をしている時や寝ている時に足元が冷えるのは嫌だから、という理由なはずなのに、2人の靴下を選んだのは俺。
さすがにお金は俺が出すことにはならなかったが、その後が問題である。
「ぷっはぁ~、美味しかったなぁ。ね、奏美」
「うんっ。でも、暁くんに支払いをしてもらっちゃって本当によかったの?」
「いいのいいの。だって暁、ちゃんと稼いでいるから」
「え、そうなの……?」
「どうしてこうなった」
気づくのが完全に遅れてしまった。
時間帯的に晩飯時だったし、買い物でお金を払うことがなかったから油断していた。
遅れてしまったが故に、俺はご飯代を全て支払うことになったんだが……言い分が解せない。
有坂いわく、「かわいい女の子とデートできたんだから、これぐらいいいじゃない」らしい。
「お、俺の生活費が……」
「そんなくよくよしないっ。暁はもっと現実的に生きた方がいいんだよ。ゲームばっかりやっていないで」
「またその話かよ。俺はゲームが好きでやってるんだ。お前に関係ないだろ」
「……関係はあるし」
何か小言で言っていたような気がするが、歩いているのと仕事帰りの人の声にかき消された。
「そうなんだ。暁くんって、ゲーム好きだったんだ」
「まあな」
「へ、へぇ。そのゲームって、私にもできたりするの?」
「んー、どうだろうな。こればっかりはやってみないとなんとも言えないな」
「え、まさか奏美。もしかしてゲーム始めてみようかな、とか思ってるってこと?」
「勉強も大事だけど、息抜きも大事だと思うし」
「えー……」
そろそろバス停だ。
「そういえば、暁くんって探索者をやってるんだよね」
「ああそうだが」
「た、大変じゃないの?」
「まあ、気を抜いたら死ぬかもしれないから、大変といえば大変だな。でも、アシスタントAIが協力してくれるし、わざわざ危険なことをしなければ案外危険ではなかったりする」
「へぇ、なるほどなるほど」
「なんだ、鈴城も探索者志望だったりするのか?」
「少しだけ興味があってね」
「そっか。探索者にしてもゲームにしても、俺でよかったら手伝えるから連絡してくれ」
「え、いいの!?」
「お、おう」
鈴城がそこまで嬉しそうに体を乗り出すのは珍しいな。
「お、話はここまでだな」
帰りのバスが来た。
「んじゃあ、またな」
「今日はありがとう!」
「じゃあまたね」
こうしてあっという間に約2時間のデートが終了した。
あれ、てか俺、お金払っただけじゃね?
やはり思う。
どうして現実はこんなに世知辛いのか、と。
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