序章 始まりの戦火②

「どういうことですか?弟を助けてくれるって――」

 ルーシーが困惑の表情を浮かべながら言う。


「助けるよ。でもそれはここでの話だよ。俺の国に男のガキは、今はいらないよ」


「それでは……私も行くことはできません」

 ルーシーの手に力が入る。


「ふーん。なら力ずくで奪うかな。アカネ、少しガキを痛めつけろ」


「分かりました」


「ちょっと待って、何をするの!弟を返して」


 アカネは、嫌がるルーシーを無理やりアルマから引き離した。


 無防備なアルマに対して、アカネは思いっきり蹴りを入れる。

 鈍い音と共にアルマは悶絶する。


「やめて!やめてください」

 這い寄るようにアルマに向かうルーシーを、ゲンジロウは馬の足で踏みつけて動けなくした。


「まあ見とけって。殺しはしないよ」


 アカネは何度もアルマを蹴りあげる。その度に鈍い音と血が噴き出る。


「許してください!弟とはここで別れます。だからもうやめてください」

 ルーシーは涙ながらゲンジロウに訴えかける。


「もういいアカネ。そのへんにしとけ」


「分かりました」


 アカネは蹴りが止め、ルーシーを肩に担いだ。


「待って。せめてアルマに最後の言葉だけでも……」


「まったく、わがままな女だ。俺の女は俺に従順であれ。連れてけアカネ」


「分かりました」

 返事したアカネは、すぐに歩きだした。


「アルマ――。アルマああああああ」

 ルーシーは必死に叫ぶ。


「無駄だ。あの子供は気を失っている」

 アカネが冷静な口調で言った。


 ゲンジロウもアカネの後を追うように歩きだした。


「しかし随分と派手にやったな。まあ初陣にしては良いだろう」

 ゲンジロウは村の現状を眺めながら言った。


「人間なぞ、本来こんなものです」


「ほう、さすがアカネちゃん。かっこいい、イタっ」

 ゲンジロウの頭に何かがぶつけられ頭を押さえる。


 振り向くとそこにはアルマが立っていた。


「ルーシーをどこに連れていく?」


「俺の国だクソガキ。……それにしてもよく立ったな小さいのに立派だな」


「アルマ――」

 ルーシーは叫ぶ。


「ルーシーを返せ。ルーシーは俺の大事な家族なんだ」

 

「それは今日で終わりで、これからは俺のものだ。俺は欲しいものは全て力で手に入れる。国も女も金も何もかもだ」

 ゲンジロウは高笑いをする。


「ふざけるな!お前なんて英雄じゃない!ただの悪党だ。ルーシーを連れて行くなら俺は絶対にお前を許さない」


「ハハハハハハ、面白い。悪役は別に嫌いじゃない。じゃ俺を倒して姉を救ってみせろクソガキ」


 アルマはゲンジロウに向かって走りはじめた。

 そして思いっきり殴ろうとするが拳は届かず、アカネに蹴り飛ばされる。


 悶絶して動けなくなるアルマを見て、ゲンジロウはまた高笑いをする。


「やめて、アルマをこれ以上傷つけないで」

 ルーシーは泣きながらアカネに言う。


「うるさい女だ。少し大人しくしろ」

 アカネはそう言うと、ルーシーに何かの魔法をかけた。

 途端にルーシーは眠ったかのように気を失う。


「ルー……シー」

 アルマは再び立ち上がる。


「まだ立つのか?根性のあるガキだ。……よし、褒美として俺からプレゼントをやろう。これは俺がこの世界に来る前に神様からもらった力だ」


 ゲンジロウは、アルマの目の前に立った。


「何を……言って……」

 アルマの意識は朦朧としている。


「この力を使いこなし、俺に会いに来い。そして俺を倒せたら姉は返してやろう」


 ゲンジロウの手から小さな魔法陣が現れた。


 その魔法陣から強い光を浴びた瞬間、アルマに激痛が走り絶叫する。


「いいのですか?そんな子供にゲンジロウ様の力を渡すなんて」

 アカネが訪ねてくる。


「これは面白くなる未来への投資ってやつだ。それにもうこの能力を使ってないし、いらないものだ」


 魔法陣から光が止んだ途端にアルマは膝から崩れおち、グッタリと倒れた。


「楽しみしてるぞガキ。それまで俺が、ルーシーをたっぷりと可愛がってやるからよ。楽しみ過ぎて興奮しちまうぜ」


「ま……て……」

 アルマの視界がどんどん暗くなる。


「俺はこれから国を作る。身分も種族も関係ない。ただ強い者が支配者になり、弱い奴が奴隷なる弱肉強食の国だ。そこで俺はハーレム作り、この世界の美女と楽しむ、まさに男にとっての理想郷だ」


「ふ、ふざ、けるな……」


「ふざけてないさ。言ったろ?俺は欲しいものは全て力で手に入れると」


 そう言い残すとゲンジロウとアカネは、アルマに背を向けて歩きだした。


 薄れゆく視界の最後にルーシーの顔が見えた。


「必ず……助ける……か……ら」


 全身の力が抜け、アルマの視界は完全に真っ暗になった。

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