第3話 マルチヴァースものでは悪を倒しても他の世界ではまだいるということになるからヒーローとは相性が悪いというのは嘘。どんな場所・世界であってもそこにいる悪を見逃せないのがヒーローだからだ!

 吐いた。

 今度は遼2リョウツーくんに迷惑が掛からないようにと思っていたが、そんなことを考えているまでもなく、着地した瞬間に嘔吐したので、私の体にも遼2リョウツーくんの顔にも思い切り吐瀉物をぶち撒いた。

 その後、遼2リョウツーくんは何度も多元世界マルチヴァース跳躍ジャンプを繰り返した。何度目かの跳躍で、こうして遼2リョウツーくんは人間門松ゴールデンペラーから逃げ続け、私のような、彼女たちに対抗できる“イサキ”を探していたのだということも聞いた。

 気持ち悪さの度も越して来たが、容赦なく次元跳躍は繰り返される。


「本当にごめん」

「良いですってば」


 何百回の次元跳躍を繰り返し、ようやく私たちはどこかの世界に着地した。


「あのう、すみません」

「ひゃっ!?」


 二度目の吐瀉で申し訳なさでいっぱいになっている私の肩を誰かが叩いた。


「あのう、何なんですかあなたたち?」

「えっと……?」


 私はキョロキョロと辺りを見回した。

 私たちがいたのはピンク色の照明に照らされた部屋だった。

 そして私の肩を叩いたのは、全裸の男性だった。さっきの世界とは違い、見慣れた裸姿の他者に少しホッとしたものを覚える。


「どうやらイサキ反応のある場所にピンポイントで着地することができたみたいですね」


 遼2リョウツーくんが冷静にそう口にした。

 私は、全裸男性の顔を見た。どこかで見覚えがある。どこで見たことがあるのだろう、と一瞬不思議に思ったが、何のことはない。その顔は、毎朝鏡の前で見ている。


「そうか、あなたがこの世界のイサキ」

「何の話してます?」


 全裸男性は呑気に首を傾げた。その後ろで、腰を抜かして声が出ないまま私たちを唖然と指差す全裸女性がいることに、私はようやく気づいた。


「もしかしてお楽しみでしたか?」

「そうだけど……」


「イサキさんですね?」


 遼2リョウツーくんが、全裸男性に尋ねた。


「確かに僕はイサキですが」

「こんな状況で申し訳ありませんし、ぼくたちを不審に思って当然ですが、お話する時間いただけないでしょうか?」

「いいけど」

「いいんだ!?」


 驚く私をよそにイサキさんは全裸女性を立ち上がらせると、肩を抱いて部屋の外まで送った。


「それじゃああなたたちの言うお話、聞かせてもらえますか?」


 遼2リョウツーくんはイサキさんに、自分たちが他の世界から飛んできたこと、私が他の世界のイサキさんであること、また私たちが追われている身であることを大まかに伝えた。


「なるほど、わかりました」

「わかったんだ!?」


「真偽はさておき、その話を僕は面白おかしく……失礼、とりあえずは事実として飲み込むしかないですからね」


 今あまり聞くべきではない言葉が聞こえた気がしたが、空耳だったと思おう。


「そうですね。この世界にあなたたちを追うゴールデン某が来るまで、居場所を貸すことはできます」


 嫌に話がわかる。


「そうですね。家賃、月に5万でどうですか?」


 金を取る気だった。


「まあそのくらいは仕方ないですかね」

「良いんですか?」

「これまでもそんな感じです。奴らから逃げるために遠くの世界ヴァースに身を置いて、追いつかれれば逃げる。あなたを見つけられたのは、そんな旅の中での奇跡みたいなものですから」


 イサキさんとの家賃交渉を経て、とりあえずは私たちは仕事先を探すことになった。


「結局、私は何なんですか? 私だけが多元世界マルチヴァースを救えるって?」

「それはあの時、青傘の天使ブルーゴブリンの銃撃を受けた時に、わかったのではありませんか?」


 遼2リョウツーくんは私の目をじっと見つめた。そうマジマジと見られると照れる……。


「あなたは、斑模様の夢見少女アリス・イン・ザ・アスの作り出した創造物の影響を受けない。そういう風に、イサキ反応が算出を教えてくれました。そんな存在は、数ある多元世界マルチヴァースの中でもあなたくらいだ。どうしてそうなのかはわかりません。もしかしたら、あなたがどんなイサキよりも、無欲だからなのかもしれない」

「私、無欲なんかじゃないですよ?」

「ぼくを助けるために、自分が消えるかもしれないにも関わらず、身を投げ出してくれた」

「それは。あの時はそうするしかないと思ったし」

「それで良いんです。あなたを見つけられた。それだけでも、あの斑模様の夢見少女アリス・イン・ザ・アスに対抗する、希望なんです」



続く。





【和田島博士の解説tipsその4】

 渡伊咲。

 希望とは儚いモノ。那由多の世界ヴァースを統合しようとする斑模様の夢見少女アリス・イン・ザ・アスにとって、唯一手を出せないのが彼女である。私、和田島博士の発明した「イサキ反応レーダー」による量子算出によって割り出した彼女という存在を探すために、我らが遼2リョウツー人間門松ゴールデンペラーから逃げ続け、ついに彼女と運命の邂逅を果たした。

 果たしてこの出会いが多元世界マルチヴァースにいかなる変化をもたらすのか。きっと、彼女たちの正義は全てを光へと導くだろう!

 とりあえずここまで語ることができたので、僕はお風呂に入ってきます。可愛いアヒルさんを通販で仕入れたので。

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