第142話 告白されたら
~音咲華多莉視点~
席替えが終わった。今日は授業がない。そのまま帰りのホームルームに入り、各自放課後を過ごす。部活動の練習に赴く者、夏休みの出来事をまだまだ共有したい者が学校に残っている。
かくいう私も美優と茉優と一緒に教室に残り、お昼ご飯をどこかで食べようと、そんな話をしている。
織原は、早々に帰ってしまった。愛美ちゃんは生徒会で集まるのだとか。
「ねぇ、どこで食べよっか?」
「私金欠だからあんまり高いところじゃない方が良いなー」
「じゃあ……」
私達3人は新しい私の席に集まって考え込んだ。すると、茉優が口を開く。
「織原のどこが好きなの?」
「えっ!!?」
「んっ!!?」
何故か狼狽える私と唐突な質問に驚く美優。
「教えてよー、夏休みになんかあったの?」
身体を少しくねらせ、恥ずかしがる美優に茉優は脇腹をくすぐりながら訊いた。
「ちょ!!やめてっ!!ねぇ!!」
笑い声を混ぜながらくすぐりを拒絶する美優に対して、茉優は更なる追求をする。
「じゃあ話してよー!!ホラホラ」
「ちょっと!わ、わかったから!わかったからやめて~!!」
茉優はくすぐる手を止めた。拳銃を突き付けられた犯人のように両手を高く挙げ、これ以上くすぐらないことを示す。
「…さ、三者面談の時に……ううん、もっと前から私アイツのことが大っ嫌いで……」
「うんうん」
私も真剣になって美優の話を聞いた。
そうだ。美優は織原のことを嫌っていた筈だ。それなのにどうして?
「でもそれが私の勘違いだって気付いたの。アイツ、私よりももっとつらい出来事があったみたいで……」
美優は私に目を合わせてきた。
「華多莉も知ってるんでしょ?織原の生い立ちを」
茉優は、そうなの?と問い質すように私を見た。私は頷く。すると、茉優が言った。
「うんうん、なんか抱えてるんだなってのは何となくわかってたけど、相当闇が深そうね。まっ、アイツに何があったのかは詳しくきかないでおくよ」
私と美優が、茉優にありがとうと言ってから、美優は続けた。
「…そ、それで私、夏休み中アイツに謝りたいってずっと思ってて……そしたらアイツ、私のバイト先にお客さんとしてやって来たの!」
「へぇ~あそこに?」
「1人で!?」
「い、一ノ瀬と一緒だったけど……それで、一ノ瀬が席をはずしてる内に私、謝ったんだ!」
「それで?」
「アイツなんて?」
「気にしてないって…でもさ、そんなわけないじゃん?私アイツに酷いことばっか言ってたし……だから訊いてみたの。私のことどう思ってるのか」
「攻めるねぇ~」
茉優が面白そうに尋ねた。
「そしたらアイツ…私のこと……お母さん想いで友達想いな女の子って……」
美優はそういうとほっぺたを押さえながら俯く。
「きゃ~っ!それで好きになっちゃったの?好きになっちゃたの?」
茉優は俯く美優に覆い被さるようにして抱き締める。抱き締められながら美優は頷いた。手は相変わらずほっぺたを押さえている。
美優は茉優をはねのけて私に訊いた。
「華多莉はなんで好きなの?」
──っえ!?織原のこと!!?な、なんで急に?
「私だけ教えるなんてズルいよ!華多莉もエドヴァルドってVチューバーをなんで好きになったのか教えてよ!」
──あぁ、エドヴァルド様のことね……
「私は、一応あの放送でも言ったけど、アイドルとして自信がなかったころに彼の配信を見て励まされたから…かな?」
「あ~言ってたね」
茉優がそう言うと、美優が詰め寄って言ってきた。
「じゃあさ、そのエドヴァルドが告白してきたら付き合うの?」
「えっ?」
考えたことなかった。
「いや、それはないでしょ?」
尚も美優は詰め寄る。
「どうしてそう言い切れるの?」
「だってVチューバーだし……」
「中の人が告白してきたらどうすんの!?」
──中の人……想像したことなかった……
「そ、それは……」
推しと恋愛関係になる。アイドル活動を続けているとファンの男性と結婚したりする人の話をチラホラ聞く。メンバーの中には同じ芸能人でお互いのファンといった関係から交際に発展した者もいる。最近だったらユーチューバーとかインフルエンサーとかとも交際するアイドルがいる。あぁ、勿論それは世間には内緒だ。
それにエドヴァルド様はこの学校の生徒だ。今まで学校も休みだったせいで、この学校にエドヴァルド様がいることを忘れていた気がする。
──っていうことは、私がエドヴァルド様が好きだってことをこの学校にいるエドヴァルド様の中の人にバレちゃったってことだよね!?え?それは当たり前か……ヤバい混乱してきた……
私が学校に着いてから生徒達の視線を感じていたのは何も、ワイドデショーの私の限界化が原因ではない。エドヴァルド様の中の人の視線もあったのではないか?
「てかさエドヴァルドって何歳なの?」
「4万2000歳」
本当は1年生なのだから15~16だ。
「設定じゃなくて、中の人の年齢!!」
「たぶん、20代前半?」
私は本当のことを話さず、ネットで言われていることを話した。
「なんでそう思うの?」
「そう思うって言うか、そう言われてる。でも最近歌動画がバズったじゃない?」
エドヴァルド様の話を美優と茉優の前で話すのは少し違和感があるが、私は続ける。
「その時に、歌った選曲から推察すると30代後半なんじゃないかって言われ始めて──」
「え?おっさんじゃん」
「別に良いの!!おっさんでも私が好きなんだから!」
実際に会えたら私、どうなっちゃうのだろうか?ワイドデショーの時、私はエドヴァルド様の楽屋に入った。その時は会えなかったが、確かに中の人と会ってしまうことをそこまで深く考えていなかった。想像していた人と違ったら幻滅してしまうのだろうか?でも推しと恋愛関係に成りたいと思う人もいればそうじゃない人もいる。私の場合、昔はただのガチ恋だと思っていたけれども、尊敬している感情の方が強いと最近わかった。
──でもエドヴァルド様に告白されたら私はどうするのだろうか?
「てかさ、テレビで共演したんだし知り合いくらいにはなれるんじゃない?誰かのツテとか使ってさ」
ツテなんか使わなくても会える気がしていた。なんてったってこの学校にいるのだから。もしかしたらもう既に会っているのかも。今思えば私と対して変わらない年齢なのにどうしてあんなに達観しているのか。それこそ何か大きな傷を心に負っているのではなかいか。
──織原のように……
そういえば、エドヴァルド様の中の人候補の1人が織原だった。
──林間学校でその容疑が晴れた……あれ?でも愛美ちゃんがシロナガックスとして大会に出てたのはどうして? え?それに愛美ちゃんとエドヴァルド様ってとても近しい仲なのでは?
そして次の瞬間、私は思い出した。
「あ!ごめん!!私、鐘巻に話さなきゃいけないことあったんだ!!」
文化祭で、ゲリラLIVEをしても良いか訊くのを忘れていた。私は慌てて教室から出ると美優と茉優が言った。
「お昼どうすんの!?」
「ご飯どうすんの!?」
廊下に出た私は振り向いて、両手を合わせながら言った。
「ごめん!先に行って、行き先はラミンして!私はどこでも良いから!」
私はそう言うと職員室へ急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます