第8話 六等級冒険者になる
僕はヘリアと一緒に都市を出て少し離れた平原に向かった。今日は僕が冒険者になるためにテストをする日だ。
「先ずは魔法について、これまで教えたことを復習するわよ」
「はい!」
「魔法は魔力と精神力によって大きく左右される。少ない魔力では限られた魔法しか出来なくて、精神が未熟であれば魔法は安定しない。だから瞑想して魔力を増やし精神を鍛えるの。基礎中の基礎で、これを怠ればいい魔法使いになれないわ」
僕は頷く。
「そして知識。何がどうなっていて、どうしてそうなるのか知っていけば気付きを得て、悟る。どうして火は燃えるのか、どうして火は熱いのか、水とは何か、風はどうして、どうやって吹くの、土とはどんなものなのか、他にも音は何処まで聞こえるのか、雷とは? それを探求して知っていく。少しでも理解すれば自分の力になるのよ。先人達はそれを研究して色んな形で知識を残した。今では殆どが本になっている。だから本を読めればある程度は知ることが出来るのよ」
だから文字を読むことが出来れば本が読めて、本から知識を吸収して魔法にする。
ただ、本に書いてある内容を理解できるかと言ったら……凄く難しい。単純な物語なら簡単だけど、魔法に関するものは複雑で難解だから理解するために勉強は欠かせない。
「最後に想像力。これまで自分のものにした知識を応用する力。ただ指先に火を灯すだけなら魔力と火の知識だけで良い。そこからさらに発展させるのが想像力よ。例えばこのように」
ヘリアは人差し指の先にロウソクのような小さな火を灯す。
「この火をこうやって長くしたり、くねくねと動かしたりするのを想像するの」
指先に灯る小さな火は細く長くなって、不自然に動く。
「さぁ復習はここまでにして、貴方の魔法を見せて頂戴」
「は、はい!」
僕は手のひらの上に卵くらいの大きさの日を浮かべる。
今の僕ではこれが精一杯だ。
「魔法は安定してるわね。それじゃあ次はこの的を攻撃してみて」
ヘリアは魔法で土の的を作る。僕のこの火でどうやってあの的を攻撃するか。
想像するんだ。
先ずは射出する。火は的にボフッと辺り、ほんの少し焦げ跡を残し手消えてしまった。
この魔法で僕の魔力は使い切ってしまったけど、大気にあるマナを全身から吸収して魔力は直ぐに回復する。卵ぐらいの大きさなら即時回復するから、打ち放題だ。
再び手のひらの上に火を浮かべる。あの程度の攻撃じゃあ全然だめだ。ヘリアを納得させる攻撃をしないと。
「前に見た弓矢のように……」
首都マリノリに向かう道中に立ち寄った街で、若い冒険者が弓で的を狙って競い合って遊んでいるのを見たことがあった。その時の事を思い出して手のひらに浮かぶ火を矢の形にする。
火の形状を変えるのに精密な操作を行い額に汗が滲む。卵程しかない火だから短い矢になってしまった。
形を維持するのに集中し、的に向って放つ。小さな火の矢はカッと的に当たり、傷をつけることが出来た。
「やった!」
「良く出来ね。それならゴブリンを追い払うことは出来るでしょう。だけど気を抜いては駄目よ。いつどこに何かが潜んでいるかもしれないから警戒を怠らないように。わかった?」
「は、はい!」
「次は動いてる的を狙ってみなさい」
ヘリアは土の的を浮かばせてゆらゆらと操る。
僕はさっきみたいに火の矢を作って動くを的を狙う。だけどこれが難しくて中々当たらない。
「ただ動いてる的を狙うだじゃ当たらないわよ。どう動いてるのかよく見て考えなさい。予測するのよ。そしてタイミングを計って攻撃する。だけど的だけに集中していたら後ろから別の敵が襲ってくるかもしれない。目の前に集中しつつ周囲の警戒を怠らないように」
「は、はい!」
火の矢を作って的に集中する。
「ッ!」
背後から何かを感じて急いで振り返る。後ろにはヘリアが立っていて、僕に手を伸ばしていた。
「上出来よ。一応少し気配を隠してたんだけど、気配を感じるのは鋭いわね」
それから動く的をタイミング良く狙い撃ちして当てることが出来て合格を貰えた。
「ハァハァ……」
精神力をドッと消耗し地面に座って息を整える。
「少し休んだら帰りましょうか」
「はい……」
火照った体に吹くの涼しい風が凄く気持ちいい。
息も整い家に向かった。
次の日、家の掃除と勉強を終えて昼頃に家を出る。向かうのは冒険者ギルドだ。テストに合格して冒険者になってもいいと許可してもらえたから早速なりに行く。
ギルドの中に入り、カウンターで暇そうにしているミスカの所に向かう。
「ミスカさんこんにちは!」
「あら、ルーレイ君こんにちは~! 傷薬を持ってきてくれたの?」
「いえ、ヘリアさんから冒険者になることを許可してもらえたので登録しに来ました」
「ほんと!? 早速手続きしましょう!!」
ミスカは凄く嬉しそうだ。引き出しから紙を取り出し筆記具と一緒に僕に差し出す。
「これに記入お願いね! 代筆が必要だったら言ってね!」
「自分で書けます」
項目を記入していく。一通り書き終わってミスカに返した。
「確認するからちょっと待っててね!」
書き間違いが無いか確認する。
「うん、問題ないわ! 担当は私ね! よろしくルーレイ君!」
すごく嬉しそうに言いながら紙に何かを記入するミスカ。記入された紙を魔道具のような箱の中に入れると、それが仄かに輝いた。そして席を立って奥に行き、トレーに何かを乗せて戻ってきた。
「これがルーレイ君の冒険者証よ! これからは依頼を受ける時とかにそれを出してね!」
「ありがとうございます!」
暗灰色の鉄のカードを受け取る。カードには六等級と刻印されていて、他にも名前や性別、種族等も刻まれていた。これが僕の冒険者証だ。
自分が冒険者になったことを実感する。
「あの、依頼ってどんなものがあるんですか?」
「お、早速依頼を受けるの? いいねいいね! 六等級の依頼を持ってくるからちょっと待っててね!」
「はい」
カウンターを離れ、いくつかの紙を持って戻ってきた。
「これが比較的安全な六等級の依頼よ!」
「ありがとうございます」
一枚ずつ並べるミスカ。
街の中で出来る雑用的なものと薬草の採取の依頼だ。一枚一枚しっかり見る。
やはり一番下の六等級で安全な依頼ということもあり簡単な内容だけど報酬は少ない。傷薬を作って売ったほうが遥かに稼げる。
だけどヘリアと同じ冒険者になれたんだからちゃんと依頼を受けてみたい。
薬草採取の依頼を見る。どれも良く知っている薬草だし、ヘリアの薬作りの手伝いで扱ったこともあるから見分けるのには結構自信がある。
「あの、この依頼を明日受けて良いですか? 今日は色々と準備がしたいので……」
「もちろんいいわよ! それじゃあ明日また来てね!」
「はい! 今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします」
「よろしくねルーレイ君!」
ギルドを後にする。その足で商業通りに行き、冒険者用品を扱っているお店で色々買う。
次に武具屋を見に向かう。
「いらっしゃい」
武具の手入れをしているおじさんは僕に見向きもせずに素っ気なく挨拶をする。少し頭を下げてお店の中を見て回る。
欲しいのは短剣だ。主に魔法を使うけど、ゴブリンとかに接近された場合に対処できるように持っておきたい。
お金には結構余裕ないあるから、自分の手に馴染みそうなものを探す。
「う~ん……どれが良いんだろう……」
これといって惹かれるものがない。
他にはどんな武器があるのか見てみる。品数が豊富なのはやっぱり剣で、色々と揃っている。あとは棍棒だったり槍だったり弓矢だったり様々だ。
その中で隅っこにひっそりと置いてある鞭が目に留まる。
「これは……」
「それが気になるのか?」
「え、あ、はい!」
突然声をかけられてびっくりした。
「なら手にとってみな」
「いいんですか……?」
「おう」
そう言って再び武器を磨き始めるおじさん。
それならとお言葉に甘えて鞭を手にしてみる。
「これは……」
脳が痺れるような感覚。物凄く手に馴染む。
まずは軽く振ってみる。無意識に力が入っていき、どう扱えばいいのか不思議と浮かんでくる。まるで自分の手足のようだ。
「これだ! これがいい!!」
思わぬ出会いに興奮する。
「これください!!」
「十万ギルタだ」
結構高いけど買えないこともない。財布から一万ギルタ硬貨を十枚出して支払った。一応短剣も選んで購入しお店を出た。
良い買い物をして意気揚々と家に帰る。僕が鞭を買ったことをヘリアは驚いてた。
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