第54話:ショウカクシケン_コウ_3
「どうせ死ぬんだから良いじゃないですか。目玉のひとつやふたつくらい」
「おあぁぁぁぁぁぁあぉぉぉぉ――!!」
「ま、ふたつともなんですけどね」
ズズズ、ズズズ――ズズズ、ズズズ――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
「これ、ない方が良いや」
――カランカラン、カラン。
改は実川の頬に貫通していた串を抜くと床へ投げ捨てた。
「や、やあぁ……やめ、へぇ……」
大きく空いた頬の穴から、血液と一緒に空気も漏れ出している。
「あのー、目を開いたまま固定する道具ってあります? なんていうのかわからなくて。こう、ガッと開いて……」
一人、武器の元へと向かい置いてある物を漁る。その中からワイヤーできた器具を手に取ると、改の元まで運んできた。
「あー! こういうのです! ありがとうございます! ……これ、どうやってはめたら良いんですか?」
器具を運んできた相手は、少し考えてから使い方の分からない改のために、代わりに実川へ器具を装着し始めた。
「やべろやべろやべろやべろやべろおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉお!!」
「……」
「ヒィィィィィィィィ――!!」
「……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「なんでみんな謝るんでしょうね? 誰一人自分のなにが悪いかなんて、なぁんにもわかってないのに」
「いだいいだいいだいいだいいだいいだいいいぃぃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「……」
「ありがとうございました。へぇ、こうやってはめるんだ。勉強になるなぁ」
涼しい顔で器具を装着し終えると、一歩下がって改の出方を窺った。
「目って、かなり水分が多いですよね? 乾燥すると痛くなるから、涙も出てくるし。……このままどこまで放置したら、カピカピになっちゃうと思います?」
「お、おねがいだ……や、やべで、ぐれ……」
「それもう聞き飽きちゃったんですよ」
「いやだ、いやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁ――!!」
「あ、もう白目が充血してきた」
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
「なにこれ。僕がなにもしなくても、勝手に落ちてきそうじゃん目玉」
「ぎいぃぃぃぃぃぃいいぃいぃいいぃいいぃ!!」
歯を食いしばるも、それだけではどうしようもない。無駄に力をかけて、身体に負担を強いるだけだったが、どうにかして器具を外せないか、改の考えを変えることができないかと焦る実川はそのことに気が付かないでいる。わざとらしく深く差し込まれた器具は、興奮している実川の身体から眼球を取り出そうとするかの如く、圧のかかっている眼球においでおいでと手招きをしていた。
「……ふぅー」
「あぁぁぁぁ!! やめ、やべっ……えぇぇ」
「あはは! そんな顔しないでくださいよ! ちょっと目に息吹きかけただけじゃないですか」
「ぐうぅぅぅぅぅ――!!」
「片方は時間経過見るのに使いたいけど、二個あるからもう片方は良いよね? 目の神経って、どうやって繋がってるんでしたっけ?」
「ふぅぅ……ううううううう!!」
実川が大きく揺れる。改の言葉を聞いて『このままだと片方の目が取られてしまうこと』に気が付いたのだ。しかも、今はとりやすいように器具も装着されている。手は動かず抵抗することもできない。できるのは、ただ謝り続け気紛れもしくは罪悪感を感じて改がやめるのを願うことと、身体をよじって抵抗し少しでも時間を稼ぐことだった。
「指……指……? やだな、自分の指で抉るの。……そうだ!」
『良い考えを思いついた』といわんばかりにキラキラとした笑顔を見せる改に、実川は恐怖した。きっとその良い考えは、実川にとっては碌な考えではない。
「実川さぁん。指、貸してください!」
バチン――ギリギリギリギリ――ミチミチミチ――ギリギリギリギリ――ミチミチミチ――ブチン!
「いっ――あぁぁぁぁぁぁぁ!! いぃぃぃぃ――っいいいいいい――!!」
改は実川の左手の人差し指を裁ちばさみとナイフでもぎ取ると、笑顔でもいだ指を実川に見せた。
「取れましたよ! お借りします!」
「……あぁぁ……ゆび、お、おれの……ゆび、い……」
「自分で自分の眼球抉るって、結構狂気じゃないですか? 実際に抉るのは僕なんですけど」
「な、なんでも! じまず……! なんでもじまず、がらぁ……! お、おでがぁい! じまず……!!」
「え? なんですって?」
「なんでも!! じまず!! だがら!! やべで!! ぐだざい!! ……ゴホッ、ゴホッ……えぇぇぇぇ……」
「なにをやめるの?」
「めっ……めだま、どらないでぐだざい! ごろざないでぐだざい……! ご、ごうぞぐも……! はっ、はずじで、ばずじでぐだざいぃ!!」
「んんー……」
「きっ、きずもぉっ……! な、なおじでぇ……!」
「ふーん……」
「いぎで! いぎでがえりだいんでずうぅぅぅぅぅぅ!! うぅぅぅぅぅぅぅ!! いえに! いえにがえりだいぃぃぃ!!」
「『なんでもします』『目玉とらないで』『殺さないで』『拘束を外して』『傷も治して』『生きて』『家に帰りたい』……であってます?」
「あっ、あ、あ、あっでまず……! おでがいじまず!!」
「えーっと。なんだっけ? 『色々条件つけてくる子って、すごーくやりづらい』んですよね? 実川さん」
「……へ?」
「やだなぁ。実川さん、僕に言ったじゃないですか。いつだったか、僕が異動をお願いした時に。忘れちゃいました? ダメですよぉ。そんなこと言ったくせに、自分が条件こんなにつけてくるなんて。すごーく、それはもうすごーくやりづらいんで」
「ぞ、ぞんな……」
「今のこの状況は、『自分の能力足りてないんじゃない?』ですかね? 『もっと頑張れば?』良いんじゃないですか?」
改はひとつひとつ実川に言われたことを思い出しながら、そっくりそのままお返しすると言わんばかりに投げかけていく。
――あの時は、本当に意味がわからなかったし、すべていなされる悔しさしかなかった。が、今の改には実川にはない力と環境があった。
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