第11話
結局あれから一睡もせずに過ごしてしまったようだ。重い体を引きずりながらも何とか立ち上がると部屋を後にした。向かった先は食堂である。いつもならとっくに朝食を済ませている時間だったが、今日は食欲がわかず何も食べる気がしなかった。それどころか、昨日の事を思い出すだけで吐き気がするほどだった。
(もう嫌だ……)
そう思いながらも休むわけにはいかないと思い、無理やり体を動かして仕事を始めた。だが、その日は何をやっても手につかず失敗ばかりしてしまった。それを見かねた同僚たちが心配して声をかけてきてくれたのだが、今の私にはそれすらも苦痛でしかなかった。そのため、逃げるようにして屋敷へと戻ったのである――。
翌日、目が覚めると同時に憂鬱な気分になりながらも身支度を整えていると部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。一瞬警戒したものの、聞こえてきた声を聞いてすぐに警戒心を解いた。訪ねてきたのは姉のエルナだったのだ。何かあったのだろうかと思いつつ扉を開けると、そこにはいつもの笑顔を浮かべた彼女が立っていた。
「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」
そう聞いてきたので頷いて答えた。すると彼女はホッとした様子で言った。
「それなら良かったわ。それより今から少し付き合ってくれないかしら? 貴女に見せたいものがあるのよ」
そう言われて断るわけにもいかなかったので了承することにした。
「わかったわ。それじゃあ行きましょう」
そう言って歩き出した彼女の後に続いたのだが、途中で気になったことがあったので尋ねてみることにした。
「ねえ、どこに行くの?」
その問いに彼女は微笑みながら答える。
「行けばわかるわよ」
はぐらかされてしまったためそれ以上聞くことができなかった私は諦めて黙ってついていくことにした。
しばらく歩くこと数十分後、ようやく目的地に着いたらしく足を止めた。そこは街外れにある小さな教会だった。こんなところに何の用があるのだろうと思っていると、彼女はこちらを向いて言った。
「ここってね、私の両親が結婚式を挙げた場所なのよ」
それを聞いて納得した。そう言えば以前聞いたことがあるような気がすると思いながら頷くと、彼女は嬉しそうに笑った。その笑顔を見た私は心が温かくなるのを感じながら彼女に問いかけた。
「もしかして見せたかったものってこれのことなの?」
それに対して彼女は頷きながら答える。
「そうよ。本当はもっと早く連れてきたかったんだけど中々機会がなかったからね」
そう言いながら私の手を取ると、そのまま中に入って行った。そして祭壇の前に立つと話し始めた。
「実はね、私達の結婚を快く思っていない人達がいるみたいなのよ」
突然そんな事を言われて驚いたものの、すぐにその理由に気づいたので納得していた。というのも、この国では貴族同士の婚姻というのはあまり歓迎されない傾向にあるからである。特に王族ともなれば尚更だろう。
そう考えると、今まで私が見てきた光景にも頷けるものがあった。恐らく姉も同じような経験をしているに違いないと思ったからだ。だからこそ、こうして私をここに連れてきてくれたのだろうと考えた私は感謝の気持ちを込めて言った。
「ありがとう姉さん。すごく嬉しい」
すると、彼女も笑顔で応えてくれた。それを見た私は幸せな気持ちになれたのだった――。
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