40話 ルミ「違法薬物でも入ってる?」

「では、定例報告会を始めましょう」

「何が定例だ。今日が一回目だろこれ」


夕食前。宴会場に集まった文化部たちの音頭を取ろうと茶道部が切り出すのを遮るように、帰宅部のツッコミが入る。

そう。定例報告会とは謳っているものの、実はこの報告会、今日が初めてなのである。

夏の旅行は毎年のように行っていたが、こうやって会議という形で話し合うのは初めてなのだ。

無論、自分勝手のパイオニアが集結したカオス極まるメンツで、そんな格式ばったものができるはずもなく。

出鼻を挫いた帰宅部に続くように、文化部が好き勝手に話し始めた。


「ってか、なんでこんなの開くの?

僕らみたいな情報を持ってても仕方のないメンバーまで含まれてるし」

「料理部の手伝いに行くかのう。

こういう会議はめんどい」

「形式だけの無駄な会議という文化、滅びればいいと思うんです」

「「「ほんそれ」」」

「………私の金で好き勝手してるくせに」

「私らの発明で好き勝手儲けてるくせに」

「…………」


嫌味が数倍になって返ってきた。

なんとも言えない表情を浮かべる茶道部に、帰宅部が優しくその肩に手を置く。


「やめとけって、茶道部。な?

お前がこいつらと口喧嘩しても勝てないの知ってるだろ」

「……はぁ。わかりましたわ。

じゃ、私は勝手な独り言を始めますので」

「そうしてください。

私らは勝手に聞いてるので」

「めんどくせーなお前ら」

「ルミっち、しーっ。

これ、茶道部主催の話始める時のルーティンだから」


回りくどいやりとりに呆れたルミの暴言を、隣に座る漫研が諌める。

「つくづくめんどくせーな」と間髪入れずにルミが言うと、茶道部の目つきが途端に鋭くなった。


「あまり茶化さないでください。

あなたにも深く関わる話をするんですよ、ビューティ・ルビー」

「はぇ?」

「まぁ、これは独り言なので。

あまり横でピーピー言わないでもらえると助かります」


要するに、話してる間は黙れと言うことか。

ルミは怪訝そうな顔を浮かべながらも、言われた通りに口を閉じた。


「まずは本題です。

帰宅部とフィシィさんの協力の甲斐あって、リヴェリアさんのお姉さんが見つかりました」

「っ!?」


茶道部の言葉に、ばっ、と弾かれたように、リヴェリアが立ち上がる。

彼女だけは、先ほどまでの緩い雰囲気が、一気に霧散ような感覚に陥っていた。

そんなリヴェリアの様子など知ったことかと言わんばかりに、茶道部は話を続ける。


「現在の彼女の名は、『海澤 ルリ』。

魔法少女『クール・サファイア』その人です」

「は!?!?」


次に立ち上がったのは、先ほどまで面倒くさそうに表情を顰めていたルミ。

そんなわけがないだろ。

続け様に怒鳴ろうとしても、どうしても言葉が出ない。

目を丸くするルミを無視し、茶道部は一枚の髪を取り出し、そこらに放った。


「これは帰宅部が盗んできたパンツに付着していた細胞片と、健康診断と偽って採取した、クール・サファイアの血液とをDNA鑑定した結果です」

「俺盗んでねーし」

「持ち帰ってきたのは事実でしょうが」


帰宅部がその一言に撃沈するのを横目に、ルミはプリントを手に取り、よく読み込む。

DNA鑑定の結果が書かれた書類の読み方などわからないが、少なくとも「99.8%一致」という単語は理解できた。


「……い、いや、嘘だろ…?

だっ、だってあいつ、魔神軍と2年もずっと戦ってて…」

「魔法少女界の腐敗の原因ですよ、アレ」

「………は?」

「彼女、『魔法少女の力を強める成分を持つ植物を見つけた』なーんて、なんともまあ素晴らしく胡散臭い功績を提げてましてね。

その植物…、名前は『メルヘン』と言うんですか…」


続けて取り出したのは、植物の葉の残骸が入った、小さなビニール袋。

茶道部はソレをテーブルに置くと、楽しそうに話し始めた。


「これがまぁ、とんでもない代物でしてね。

大麻を凌ぐ毒性と依存性を持つんです。

接種すれば最後、碌なことになりません。

ですよね?アメちゃん」

「……うん。私も、使ってた」

「先輩まで…!?」

「麻薬とは比較できない多幸感も伴うようですし、『そういう目的』でも使えますからね。

実際、管理やスポンサー含む魔法少女界隈には、かなり流通してるそうですよ」


こんな悍ましいものがあったなんて。

ルミはそのビニール袋を払いのけ、文句を言ってやろうと茶道部を見やる。

と。ソレを遮るように、放送部が問いかけた。


「茶道部。貴女、なんでそんなこと知ってるんです?」

「生物部が保有する『モルモット』に投与して、経過観察してただけです。

ああ、まだ利用価値があるので、きちんと治療しましたよ」

「それ、モルモットじゃなくてホモ・サピエンスだろ」


帰宅部が呆れをこめて、茶道部にツッコミを入れる。

これを野放しにしてる国も大概だが、こちらも同レベルで倫理観がない。

これから食事が控えていると言うのに、一気に食欲を削がれたような気分だ。

放心したルミが脱力し、椅子にもたれかかるのを横目に、茶道部が続けた。


「でも、一つだけ…『本物の海澤 ルリ』がどこ行ったのかが謎なんですよねぇ」

「あれ?偽名じゃねーの?」

「いえいえ。海澤 ルリに関しては、きちんと存在の痕跡がある、れっきとしたこちらの人間の名前なんです」

「殺されたとか?」

「可能性は高いんですけど、死体が見つからないことにはなんとも…」


と。茶道部が唸ったその時だった。


「みんなーー!ご飯できたよーーー!!」

「「「わーーーいっ!!!」」」


料理部が運んできた料理の香りが、彼らの思考回路を軒並み幼児退行させたのは。


運ばれる料理を前に顔を綻ばせる様は、このメンツだと軽いホラーである。

その中で正気を保っていた帰宅部とルミは、なんとも言えない表情を浮かべ、互いに顔を見合わせる。


「…あのさ。さっきまでシリアスだったのに、急に何?このノリ」

「よっぽどのことがなきゃ、どんな輩でも匂いを嗅ぐだけで幼児退行を起こす代物だからな、アイツの飯」

「……あんな話聞いて、こんな例え出すのもなんだけどさ。

違法薬物でも入ってる?」

「いんや。単純に美味すぎるだけ」

「……つくづくヤバいな、お前ら」

「今更だろ」

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